16.冒険者ギルドでお勉強
「アタルさーん、朝の鐘が鳴りましたよー」
ナギちゃんの声が聞こえる。
「おはよー。準備したら行くよ。ありがとねー」
気が付いたら朝だった。昨晩は魔力を動かす訓練していたはずだ。
「……この世界も、魔力が枯渇すると気を失うのか」
『何言ってるニャ? 普通に寝てたニャ』
どうやら魔力の枯渇は関係なかったらしい。
寝てたか~、ってことは不眠は治ったのかな? そういえばドラッシェン様のところでも三日間過ごしたけど、普通に寝てたような気がする。
ということは、自律神経系で今のところ治っていない可能性が有るのは、多汗と気持ちの浮き沈みか。多汗はトラが原因の可能性が有るし、最近ずっと気持ちが高ぶっている気がする。交感神経が優位なのかと思いきや不眠は治っている。もしかしてクラフトされたときに全部治ってる? 様子見だな……
昨日使った桶を持って階段を降りる。
「桶預かるよー。食堂に案内するね」
ナギちゃんは朝から元気いっぱいのようだ。
「夜の食堂はナギちゃんいなかったけど、朝はお手伝いしてるんだね」
昨晩の夕飯時には、ナギちゃんが居なかったことを思い出したのだ。
「えっとね、夜はお酒が出るから危ないんだって。朝はアタルさんとトラちゃんだけだからお手伝いしていいって!」
ん? 俺とトラだけ? どういうことだ?
「ほかのお客さんは朝ごはん食べないの?」
「泊ってるのがアタルさんとトラちゃんだけだから……」
あちゃー、ナギちゃんに悲しい顔をさせてしまった。
これは何かで挽回しなければ!
「おはようさん、朝飯は用意しておいたぜ。ネコの朝飯は昨日と同じで悪いが、魚だ。夜は肉にするから嫌いにならないでくれな!」
カイリさんが申し訳なさそうにしていた。
いや、俺らだけの為に朝食作ってもらってると知ったら、文句言えないです。これはあれか、料理がおいしいから夜は繁盛してるけど、泊る人は少ない感じか……
「おいしそうですね。今日は腸詰ですか?腸詰は多分トラも好きですよ。そのうち出してあげてください」
「そうか、人間と同じだと楽だな。わかった! じゃあごゆっくり」
そう言ってカイリさんは厨房へ戻っていった。
「ナギちゃんはこれから何かお手伝いあるの?」
「トラちゃんのお見送り!」
そうか、なにもないか。というか、飯食っているときにずっと見てられるのも落ち着かないな。
「なら、トラを膝に乗っけて椅子に座ってもらえる。トラも食べやすいでしょ」
「やったー!トラちゃんの席はコチラです。どうぞー!」
ナギちゃんは椅子に座ると、嬉しそうにトラを呼んだ。トラは渋い顔をしながら、しぶしぶナギちゃんの膝の上に乗り、テーブルの料理を食べ始めた。よし、これでさっきの悲しい顔は帳消しだな。トラ、グッジョブ! いや、俺がグッジョブだな。
気分よく食べる朝食はおいしかった。
「今日はギルドに行って、話を聞いてくるよ。あとは流木探さなきゃ……」
「そうなの? いってらっしゃーい!」
元気なナギちゃんに見送られ、俺はギルドに向かう。
昨日バタバタしていて話を詳しく聞きそびれたからな、ちゃんと聞いておかないと。
二回目の冒険者ギルドだ。
昨日は静かだったが右手側にある食堂では、数人が朝食を食べていた。冒険者たちは朝食をギルドで食べるのだろうか? それとも食堂がない宿屋も多いのかな?
本日も受付にはお姉さんが2人いる。昨日と同じだ。
二択と思いきや、実は一択なのだ。俺は迷わず俺よりお姉さんの受付へ向かった。なんかビクッとして顔が引きつってるんだけど、俺変なことしたっけ?
立ち止まり、後ろを振り返ってみるが誰もいない、足元にはトラがいる、それだけだ。なんだろう? と、首をかしげながら受付のお姉さんに挨拶する。
「おはようございます、昨日お話を詳しく聞けなかったので伺いました」
「お、おはようございます。ギルドについての説明の続きですね?」
「はい、お願いします」
やっぱりぎこちない……説明はしてくれるみたいだしいっか。
「冒険者ギルドはランク制です。冒険者ギルドから功績が認められると、F、E、D、C、B、Aとランクが上がっていきます。Sランクもありますが、Sランクは特別で、現在はどこのギルドにも在籍していません。なのでAランクが最高ランクと思ってもらって大丈夫です。Fランクは未成年者専用のランク、15歳で成人扱いとなり、Eランクとなります」
実質Eランクスタートね。おっけーおっけー。
ここら辺はお約束だな。覚えなくてもすでに覚えている、問題ない。
「ギルドランクが上がるとギルドカードも更新され、カードの素材が変わります。ギルドカードで名前、職種、ランクが確認可能ですので、パーティーを組む際の目安にできます。参考にしてください。」
「ちなみに、各ランクのカードの素材はどうなっていますか?」
「……カードの素材は貨幣と同じです。」
その貨幣の価値が俺には知識がないんだよな。しょうがない、お楽しみってことにしよう。変に聞くと怪しまれそうだし。
「ギルドの功績は依頼を受け、達成することで得ることができます。依頼にもランクがあり、ご自身のランク、前後1階級のランクまで受けることが可能です。パーティーの場合はリーダーのランク前後1階級です。失敗した時はパーティーリーダーがペナルティを受けることになるので、パーティーを組むときには十分話し合ってください」
責任はパーティーリーダーになるのか、リーダー責任重大だな!
「わかりました。他になにか注意事項ありますか?」
「特にありません、その都度確認してもらえれば、お応えできることには答えることができます」
こっちから聞かなきゃ教えてくれないのかぁ、めんどくさいなぁ。ひとまず受けれる依頼受けようか、いつまでも収入がないのは心もとない。
「ありがとうございます。ちょっと依頼見てきますね」
受付のお姉さんから話を聞いた俺は、依頼掲示板と思われる場所へ向かった。
なんか背後から視線を感じる。お姉さんがコチラを見ているのだろう、仲間になりたいのかな?
しかし、今のところ仲間はいらない。だってお金を稼げないと、どんどんお金が減っていくのだ。当り前だが収入がないとお金が減る、仲間がいるとさらに減っていくのだろう。受付嬢のお給料をあてにして、紐みたいな生活はどう考えてもダメだ。
この世界のパーティーは、リーダーが責任を取らなければいけないらしい、今のところ本日一番価値のある情報だ。
俺はすでに管理職でギルドカードを作成してしまった、管理職ならリーダーにならないと意味ない。管理するには組織の上に立たなければいけない、下っ端で管理職は許されないのだ。パーティーだったらリーダーは絶対だ。クランだったら……リーダーでもありなのか? わからん!
とにかく仲間になりたそうにこちらを見ていても、答えてあげることができない。俺は今、プー太郎なのだ。
依頼掲示板はなんというか、あれだな。Eランクの依頼しかない。しかも採取系だ。
それだけ平和な街なのだろう。異世界初心者としては嬉しくもあり、生活できる収入が確保できるか不安でもある。それにしても採取系の依頼だけは豊富だな。需要があるのかな?
とりあえず、回復ポーションの素材と書いてある、ミドリ草採取の依頼を受けることにした。
ミドリ草……雑草じゃないよな?嫌な予感しかしない。
依頼を受けたい場合は、掲示板にある依頼書を剥がして受付にもっていけばいいのかな? しっかり説明を聞いていたつもりだったが、抜けがあったらしい……次はしっかり聞き取りをしよう。
俺はまたお姉さんが座っている受付へと戻り、依頼書を手渡す。
「これ、お願いします」
「ミドリ草の採取ですね。こちらは常駐依頼になりますので、期限がありません。ミドリ草が10株集まったら、こちらの窓口に提出お願いします」
「ミドリ草について教えてもらいたいのですが……」
「ミドリの草です。魔力が豊富な土に、はえやすいと言われています」
んー、予想通りの答えが返ってきたが、全然わからん。
「現物ってありますか? できれば、はえてる場所や採取方法など詳しく教えてもらいたいのですが……」
「……現物は薬師の方へ随時卸しているので、現在はありません。採取場所はお金が絡むので、教えていいのか判断できません。採取方法ですが、根ごと持ってきてください。根が付いてないと達成扱いにはなりますが、買い取り金額が落ちます」
ほらきた、根がないとダメなんじゃん。依頼書に書いておけばいいのに。
それともこっちの人には常識なのか?
「ありがとうございます。それでは薬師の方に確認してみようと思います」
そういって、俺はギルドをあとにした。




