154.公共事業
「公共事業ですか……」
アタッツ様はなにやらいろいろ考えているようだ。
しかし、ここで相手の考えがまとまるのを待つのももったいないし、ここでいろいろとメリットを畳みかけなければならない。
『やった方がいいかも』と思っているのなら『やったほうが絶対にいい』と思われた方が話がスムーズに進むというものだ。
「ぶっちゃけですけどね、今のグランディールにそんなに貯えがあるわけではないんですよ。こないだもカーボロッド商会から、いろいろこれからの事業に必要なものを購入しましたし……リサさん、ところでどれくらいの費用掛かりましたか?」
リサさんは秘書扱いだけあって俺の近くに居る。ちなみに食事は摂ってなく、会話の内容とかをメモしている。
多分だが、ドラッシェン様のハンバーグ発言とかもチェックされていると思う……今度忘れたときに『あ~、領主様と食事した時にシェンさんが追加で頼んだ料理って何だったかな?』とか聞いてみようかな。絶対教えてくれると思うんだよね。
「金貨10万枚ですわ!」
「「「はっ?」」」
俺がリサさんに、ちょっとばかりあっちの世界ではハラスメントとも言われかねないことを妄想していたら、飛んでもない返事が返ってきた。ちなみに『はっ』としたもう二人はアタッツ様とフロレンス様だ。
「ごめん、ちゃんと聞こえなかったんですけどど……鉄貨10万枚もよくありましたね」
「マスター、カーボロッド商会に恨みでもあるんですか? 鉄貨じゃなくて金貨ですわ」
まさかの……鉄貨10万枚でも俺の金銭感覚では一千万円くらいなのに、金貨10万枚って……ちょっと多くて計算できないぞ。いっぱいってことはわかる。
「領主様……もしかしたらすでに資金はそれなりにあるかもしれないです……」
多分だが、円に直すと金貨10万枚は10億円くらいだと思う……それでないっていうのは不自然だろう。隠しちゃだめだ、こういうときは開き直るしかない。
「というわけで、資金はすでにあります! 今回仕入れた資材を装飾品などに加工してどんどん売ります! 売るのはあの有名なカーボロッド商会なので、こっちは作るのに専念すればいいのです! そしてその商品を運ぶのは商人! 流通をスムーズにする為に街道を整備したり、価値あるものを安全に輸送するために警備など、公共事業が必要だと考えました!(たった今!)そして、その事業をグランディールが引き受けましょう! グランディールには門外不出の人材育成カリキュラムがあり、すべてのメンバーがオーラを纏うことが可能です。護衛も開拓もなんのその! 大船に乗ったつもりでお任せください!」
こうなったらやけだ。冒険者というより何でも屋みたいなこと言っている気もするが、そもそも全員オーラは纏えるけど戦闘職ではない。
重機並みの力持ちがたくさんいますよみたいな感じでアピールしておいた方がいろいろと便利だろう。
「あ、はい。是非お願いしたいのですが、それだとさらにベイツにお金が集まるのでは……」
は! もしかしなくてもそうなる! 困った俺は秘書のリサさんの方を見る。お金や数字関係はスピナさんよりもリサさんの方が間違いない。なぜならスピナさんはポッパーさん寄りだからだ。
そしてリサさんは俺を見て静かにうなずく。
俺はリサさんの意図を完璧に読み切った! 任せろという意味でサムズアップした。この世界では通じるかはわからないが、それが俺の意思の表れだ。
「大丈夫です! その時は金貨100万枚分の資材をカーボロッド商会から取り寄せましょう!」
その発言を聞いたリサさんは、急に椅子から立ち上がり……数分後また椅子に座った。




