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153.困ったこともあるんですよねぇ~

「そうだ! あれがあっただろう。ハンバーグを作ってくれ! あと、エール!」


「シェン様! ハンバーグとは何ですか!」


「いいから待っておれ……料理というものは我々の常識を覆す……」


 龍の二人はいまだに料理に夢中だ。

 というか、守護龍が俺の父親に『様』付けするなよ……一応、人間の父親設定なんだからな! それと、我々の常識とか守護龍と同じみたいな発言しないでほしいんだけど……龍でも酔っぱらうのか? っていうか、隠す気ないでしょ?


「あ、こっちにもハンバーグお願いしまーす!」


 おもてなし相手の領主夫妻にハンバーグを出さないわけにもいかなくなった。みんな大丈夫? お腹に入るかな?




「あ、そうそう。実は困ったこともあるんですよねぇ~」


 話をしていて今までずっと気になったことを思い出した。しかもこれは俺が勝手にやっちゃうといろいろと問題がある気がする問題なのだ。


「……どのようなことでしょう」


 ボーっと龍たちが食べているアツアツのハンバーグに見とれていたアタッツ様が真顔になった。


「あぁ、そんなに心配することではないんですよ。ただ、今のままだとお金がベイツに集中してしまいそうで……そうなると経済が回らなくなると思うのです」


「それはいったいどういうことですか?」


 この説明はなかなか難しい……グランディールは結構特殊だと思っている。なぜなら、我がクランは給料制なのだ。会社員なら別に気になとからないだろう……いや、『給料が安い』とか『仕事量の割に合わない』とかはあるか……

 しかし、冒険者に至ってはちょっと話が変わる、依頼を達成すれば報酬が出る。普通はその報酬は自分のものになり、そこからクランに所属料というかなんというかを支払うのが一般的……だと思う。他を知らないからわかんないけど! しかし、グランディールの決まりでは一回クランに成功報酬を全て納める、そこから決められた報酬を給料として受け取ることになっているのだ。今のところギルドの依頼がないベイツだから、お仕事に対しての報酬を給料として、

 クランから支払っているので問題が表面化していない。

 しかし、俺はポカリエスとかを依頼報酬をクランの口座に入れている。そこからお給料をリサさんから貰っている。まぁ、なにかやりたい事業があったり、前回みたいにカーボロッド商会からの購入とかも自由にやっているから知らない人からすると私財でやっているように見えるかもしれないが……


 どうしてこのような複雑な状況になっているのかも訳がある。それは、クランが衣食住の『食』と『住』を保証しているからなのだ。グランディールの福利厚生はとても厚い、そもそもグランディールは他所では食べることに困ったような人たちが最後の希望で集まり形成されているのが今の状況なのだ。

 その人たちにクランに入りたいなら毎月所属料を払えと言ったらどうなるか? もちろんスピナさんにぶん殴られる。きっと3時間くらい地鳴りがやまないだろう。そして、ポッパーさんはお風呂の水を汲んでくれなくなるし、カイリさんは釣った魚を捌いてもくれなくなるだろう。

 そうならないための運営方法が今の給料制なのだ。そもそも、最初のメンバーのスピナさんも俺が釣りをする時間を少しでも増やすためにお手伝いを頼み、その時間を増やせたお礼として給料という形で報酬を払っていたので、最初からこの体制のままのだが……


 説明が長くなってしまったが、これの何が悪いのか……それは、うちが『食』と『住』を保証しているので誰もお金を使わないのだ。

 最近、オシャレに目覚めた一定数のメンバーがアクセサリーを作ってもらってお金を支払ったりを見かけるようになったが、それでもベイツの街中なのだ。街の外には最先端のオシャレは存在しないし、欲しいものも稀だろう。多分街の外にお金を大量に回しているのはマスターの俺。それでもカーボロッド商会に位である。あ、金の力で武器を作っていたが、これも金属の購入のめどが立ったし、お金を物理的に消費するのは一番よくないのくらいわかっている。


「うちは給料制で、欲しいものもクラン内に溢れているのでお金が外から入って来たとしても外に流れにくいんですよ。ベイツの街にお金が集中するのはよくないと思いますし、ベイツの税ってどうなってるんですか?」


 説明するとめっちゃ長くなるのでかなりはしょった……通じてほしい。難しい話は苦手なのだ。


「あぁ、獲れた魚や作物を収めてもらってますね。最近はものすごい量の作物や魚が収められるので価格が下がり領民は喜んでますよ」


 一応収められていたらしい……そして値段が下がって喜ばれていたらしい……


「それはよかったのですが、価格が下がり続けて価値がなくなった先は不幸しか思いつきません。商人は売っても売っても利益はでないので、領外へ商いに出かけることになるでしょう。それにうちもこれから芋汁事業を展開するので作物を相当量消費します。なので、作物の価値が下がり続ける心配はないのですが、お金の使い道がないんですよねぇ。実に困ったことです」


 俺は一度は言ってみたかった、『金はあるのにお金の使い道がなくて困った』のフレーズを口にした。まさか異世界でこんな成金のようなことを言えるとは思わなかった。

 前の世界では管理職とはいえ中小企業だったため薄給だったのだ。お金なんて貯まらないし、貯められない。


「それでなにかいい案があるのですか?」


 アタッツ様の顔色がいつの間にか戻っている、破産の運命から解き放たれたのかもしれない。しかし、今のところうちのクランはそんなに貯えがあるわけではない。

 ただ、人財が揃えばきっとそうなっていくだろうという絵に描いた餅なのだが……


「そこで提案があります! 公共事業をしましょう!」

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