15.ヌンチャクを持った豚
「アタルさん、夕ご飯食べませんかー?」
ナギちゃんの声で目を覚ました。どうやら寝ていたようだ。以前は薬がないと寝れなかったものだが治ったのかな? 交感神経さん落ち着きました? それとも副交感神経さんヤンチャになった?
おっと、こんなこと考えている場合じゃない! レディを待たせてはいけない!
「アタル! いっきまーす!」
「準備してまってるねー!」
華麗なるスルー、ナギちゃんにはまだ早かったようだ。
「ところで、夜の鐘って聞こえた?」
『鳴ってたけどずいぶん遠くで鳴ってたニャ』
これは……朝寝坊する可能性が高い。病気が治っていなければ寝れない可能性の方が高いのだが……
考えたってしかたがない、寝れないなら自分で眠り薬をクラフトしよう。あとで作れるのか確認だな!
「お! 来たな。ナギの父のカイリだ! 厨房で料理を作っている。よろしくな!」
ナギちゃんパパ、カイリさんにいきなり挨拶された。ビックリした! 想定外のことが起こるときょどってしまうのだ。
それにしても……料理だけであんなにムキムキになるのか異世界人。鍋が重かったり、包丁がでかかったりするのだろうか? ちなみに髪は藍色だった。
「一週間お世話になります。よろしくお願いします」
「おう!ネコだったか? あんたの夕食の他に、ネコ用の飯……今日は魚を用意しておいた。ゆっくり食べて行ってくれ。あ、あと壁を直してくれるんだろ? エールを付けるからよろしくな!」
「す、すみません」
さりげなく謝っておく。多分修理じゃなくて、総とっかえになるだろう……
気にすんなって! って言いながらカイリさんは厨房に戻っていった。
よし、許可はもらった、気にしないようにしよう! あんまり悶々と気にすると寝れなくなっちゃうからね!
さて……夕食は野菜がゴロっと入ったスープに、ステーキのような肉と、パンだった。
なかなか豪華だ。というか、量が多い。
パンはちょっと硬かったけどカチカチではなかった。スープはおいしかったが肉は塩ふって焼いただけのようで、物足りなさ感がある。香草とかあればもっとよくなりそうだ、そして全部塩味だった。もしかしたら俺の汗味も入っているかもしれない。
海沿いの街だし塩が手に入りやすいのかもしれない。小さな子にお使いで頼むくらいには、安く手に入るのだろう。
肉は鳥っぽいけど鳥なのかな? 異世界だからなぁ~。俺は昔から好き嫌いが無かったからよかった。好き嫌い言える家庭環境でもなかったからな。食材が気になる人だったら不安で手を付けられないだろう。
あ、あとエールは薄かった、アルコールも控えめだ。でかいジョッキできたけど、ほろ酔い程度だった。
トラのご飯は、魚の切り身が山になってた。
動物でも生魚は食べなさせないのかな? 塩焼きになっているようだった。
「トラ、うまいか?」
『ここの宿の料理は当たりニャ。カイリって奴の腕はなかなかニャ』
この世界の料理としては、なかなかな方らしい。塩焼きに当たりはずれがあるのだろうか? そこら辺は今の俺にはわからない。
まぁ物足りないが我慢できないほどではない。香草とか見つけたら、ちょっと試してもらうことにしよう。
「どうだ? ネコの口には合うみたいか?」
どうやらカイリさんは、トラのご飯が気になったようだ。
「えぇ、おいしそうに食べています。伝えるの忘れてましたが、生物は嫌なようなので、肉も魚も今回の様に火を通してお願いします。人間と同じ味付けで大丈夫ですよ」
「お、おう。生は腹を壊すからな……」
どうやら生はお腹に厳しいらしい。カイリさんがちょっと引いている、生で食べる選択肢は最初から無いようだ。
保存方法や衛生的に厳しいのか、魚や肉に問題があるのか……生肉は別に食べなくていいけど、刺身は食べれないのは残念だな。
「おいしかったです。ごちそうさまでした。そうだ、夜の鐘聞き逃しちゃったんですよ、朝の鐘も聞き逃して朝ご飯食べ逃したらもったいないので、鐘が鳴ったら起こしてもらえますか?」
「わかった、明日の朝飯も期待していてくれよ!」
カイリさんは料理に自信があるみたいだな。
トラも褒めていたし、食堂もにぎわっていた。人気店なのだろう。
階段をあがるときに、ナミさんからお湯の入った桶と布を受け取った。準備がいいね! 俺もわざわざ貰いに行くことが無くて助かった。使い終わった後も返さずに、明日の朝持ってくれば大丈夫らしい。
楽でいいなと思っていたら、部屋の前に置いておくとお金を払っていない人が使ったり、盗まれたりトラブルが発生するらしい。桶と布盗むって物騒すぎるだろ!
部屋に戻り、トラの十八番『ライト』で明るくしてもらった。
「さすが、十八番のライト! 助かるぅ」
『魔法を使えない主に、バカにされてるようでイラっとするニャ』
バカにしているというか、トラにいくら聞いても、なんの魔法を使えるか教えてくれないのだ。
しょうがないからトラは『ライト』の魔法しか使えないんだと仮定した。そういえば回復魔法もできると言ってたけど、俺が消滅するかもって言ってたから自信はないのだろう。苦手な魔法をギュッとしてドンされたらたまったものじゃない。
運悪く危なくなった時は、なんだかんだいいながら助けてくれるだろう。トラはそういうやつだ。
「身体を拭いたらスッキリしたな。あと寝るだけだろ? やることなくて暇だな」
『だったら魔力を廻す練習するニャ、いつまでも無属性魔法を使えないのは恥ずかしいニャ』
「そういわれても、魔力がわかんないしなぁ」
ほんと、魔力はわからない。感じないし、見えないし、どうしようもない。ほんと、ないないないだ。
『考えても意味ないニャ、感じるんだニャ。主の魔力は固まっているみたいに動いてないニャ。動かない魔力はただの魔力ニャ』
この猫はなに豚みたいなこといいだしてるんだ? お前はヌンチャク持った豚か? それに動いても魔力は魔力だろ!
「努力はしてみるよ。これから毎日、寝るまでは魔力を動かす練習の時間な!」
俺は布団に横になり、目を閉じ、魔力を感じとれるか探った。同時に魔力を動かすイメージもした。
あまりにも集中しすぎたのだろう、気が付いたら朝になっていた。




