147.領主面談その2
しばらくペレさんと談笑しながら領主様の奥方を待った。
ペレさんはいつも通り気さくに話してくれるようになったが、領主様は恥ずかしがり屋なのかあまり会話に入ってきてくれない。
年季が入った馬車が到着し、可愛らしい女の子が下りてきた。多分彼女が領主アタッツ様の奥方なのだろう。可愛らしいのだが服もちょっと古……いや、女性の身だしなみには触れないでおこう。ベイツの街は魔物もいないし、漁業と農業が主体だ。きっと食糧庫の役割はできるものの、税収は多くないのだろう。
儲けられないからやる人もいなくて、王族の若者が領主の任を任されているのかもしれない。
「皆さま、お待たせしました。領主アタッツ・グ・イレグの妻、フロレンスと申します。よろしくお願いし致します」
フロレンスさんは優雅にカーテシーを取ってくれた。カーテシーなんて初めて見た気がする。あれ? サラさんもやってたっけ? う、この年になると記憶が……
「よくいらっしゃいました、『グランディール』マスターの海川充です。よろしくお願いします。馬車を用意していますので、そちらでお話でもしながらクランハウスへ向かいましょう。ささ、どうぞどうぞ」
俺は皆さんを馬車へ招いた。
ワンボックスカーっぽい馬車は思った以上に空間がある。今日の為に馬車の中にはソファーを用意したのだ。もちろんブルーブルの革を素材にしてだ。クラフトで作成したというのもあるが、なかなか座り心地が良い。
これももしかしたら売れるのではないかと思ったので、まずは領主様に見定めしてほしかったのだ。
「おぉ、これは座り心地が良い! 馬を乗ってきたので疲れた腰が癒されるようだ!」
一番最初に腰かけたのはペレさんだった。ペレさんはトラに馬を預けると馬車のソファーに腰かけてご満悦だ。というか、トラが馬を扱えるって教えていたっけかな? でも、ペレさんの馬もトラが背中に乗っても暴れなかったし、知らないところで交流があったのかもしれない。
あとそのソファーには癒し効果はない!
「ふおぉぉ」
アタッツ様がすごい声を出しているのだが……今までずっと緊張気味だったからな。もしかしたら、癒しの効果はないけど、緊張を解きほぐす効果はあるのかもしれないな。
あ、もしかしたら腰の緊張も解いているのかもしれないな……じゃあ癒し効果はある!
馬車に乗ったのは、俺・スピナさん・サラさん・アタッツ様・フロレンス様・ペレさんだ。
みんなで歓談しながらクランハウスへ向かった。
「ベイツの街はこんなに人けがないのですか……領主でありながらこのような状態に気がつかず、申し訳ありません……」
アタッツ様がすごく深刻そうな顔をして、すごく意味不明なことを言い出した?
「おかしいですねぇ、いつもはもっと活気があるんですけど……」
俺も今何が起こっているのかよくわからない……
「街の皆さんは領主様をおもてなしのために、ほぼ全員クランハウスに向かっていますわ」
「え?」
この『え?』は俺の声だ。まさか、ほぼ全員がクランハウスへ向かっているなんて思ってもみなかった。
というか、ほんとにほぼ全員向かったの? クランハウスに入れる? 大丈夫?
「マスターには『みんなで協力する』って言いましたよ」
スピナさんが報告していたようだ……いや、みんなって全員とか思わないじゃん。
「そうですか、すみませんね。ちょっと勘違いしていたようです」
「もう、でも安心してください。準備は万端です!」
うんうん、安心するよ。今から何かしようにも規模が大きすぎるからね……俺にはどうにもできないから皆のおもてなしに期待するね。
もうすぐクランハウスというあたりで人だかりが見えてきた。そうだよね、さすがにクランハウスにみんな入れるわけがないから溢れちゃうよねー。
俺の馬車を見つけると皆は道の両サイドに分かれ、「領主様!」とか「アタッツ様」とか声がけをしている。いやー、びっくりだね。まさか街のみんなは領主様の名前知ってたんだもん。1年以上住んでいて知らなかった俺が恥ずかしい……
しばらく先に進むとランドくんとナギちゃんが布を広げて持っている。
そこには「領主様歓迎!」と書かれた横断幕が……昨日ベティさんを茶化すために使った横断幕をちゃんとした用途で使用するなんて……軍師でもいるのか!
ベイツの熱烈な歓迎にアタッツ様は感激しているのか顔が赤い。フロレンス様も口に手を当てて喜んでいるようだ。喜んでいますよね?
俺は、俺が何も言わないでも、こういうサプライズを考えてくれる街のみんながいることがうれしい。
俺一人で悩んでもせいぜい一人分のおもてなしの考えなのだ。でも、みんなで考えればいろんなアイディアが浮かぶ。そのアイディアを精査するのが俺の役目なのだろうけど、俺に『大丈夫』と報告してくれたメンバーは精査もやってくれたのだろう。その1番最初の催しが横断幕や街のみんなの声援なのだろう。
領主様同様、俺もご機嫌になりながらクランハウスに向かった。




