143.おもてなしの準備
宿を出た俺はクランクさんの家に向かった。
クランクさんと言えば、ベイツの街屈指の常識人だ。俺にギルド受付では知ることができなかったミドリ草の採集方法を教えてくれ、ミドリ草の群生地まで親切に教えてくれた。
群生地があまりにも遠すぎたので、当初はだまされたのかと疑ってしまったが、そんなことはない。自分が知っている一番いいポイントを教えてくれたし、最近では毒について真剣に悩む、すごく優しい人だ。
そんなクランクさんには是非同席してもらわないといけない、カイリさんもポッパーさんもクランの初期メンバーは脳筋なのだ。スピナさんも日頃はあんなにいい子なのに、戦闘が始まれば一番槍のごとく突っ込んでいくほど好戦的だ。聖女とはいったい……教会の鑑定には不具合があるのかもしれない。
「こんにちはー、クランクさんいますかー!」
「はい! しばらくお待ちください!」
「あぁ、作業のキリがいいところまでやってからでいいですよ。俺はここに座って待ってますから」
クランクさんの自宅兼作業場にも人が増えた。最近は弟子というかポーションを作るメンバーを勧誘し、ポーション作りの指導もしている。クランクさん印のポーションは一般的にはまだ流通していない。ポカリエスまでは届かないものの、十分に強力なポーションなので、どう取り扱っていこうかと考え中だ。
もちろん、危険な仕事についているクランメンバーには渡してある。クランメンバーからすると、ポカリエスよりもクランクさん印のポーションの方が気楽に飲めるらしい。
きっとクランメンバーは、クランクさんの手が突っ込まれたポーションが飲みたいのだろう。クランクさん、好かれているね……俺はうれしいよ……
それで普通のポーションは見習いさんが作っているのだ。見習いさんたちはみんな緑のオーラ持ちだそうで、とても将来有望なのだ。
そういや昔友人と「手作りおにぎりにも野菜と一緒で、『私が作りました』の写真を作れば爆売れするんじゃね?」という討論をしたことがある。しかし、結果は『売れない』という結論に至った。
若くかわいい女の子のおにぎりが食べたい俺と、ベテランの風格をかもしだす、おばちゃんのおにぎりがいいという友人とで意見が割れたのだ。
出来栄えや味は気にしない、作った人の頑張りを食したい俺と、食べるなら上手に握られたおにぎりを食べたいし、その方が安心するという友人の意見。二人ですでに意見が割れるなら、大勢に聞けばみんな意見が分かれることだろう。結局、提供する品物の質で勝負するしかないのだ。
将来、見習いさん達が手を突っ込んで高品質のポーションができるようになっても、製法は秘匿のままがよさそうだな……若い子のポーションは安心できないから買えないと言われたら残念だもんな……俺は気にしないけど!
「お待たせしました。今日はどうされましたか?」
昔を思い出しながらニヤニヤしていたらクランクさんがやってきた。やばい、見習いさん達を見てニヤニヤしていたと思われたら、マスターとしての尊厳が維持できなくなってしまう!
「明日、領主様がいらっしゃるそうなので、クランクさんにも出席してもらいたいと思いお願いに来ました。見習いの子たち頑張っているようですね。将来、高品質のポーションが多く出回るようになれれば、たくさんの方が助かりますね」
「まだ始めたばかりですが、将来有望ですよ。楽しみですね。明日の参加は大丈夫ですが、何か準備した方が良いことありますか?」
「領主様には毒の研究についてお知らせします。現段階の毒についてまとめといてください。なにか問題が起こっても私が責任を取りますから安心してください。あ、現物を持ってくるときは取り扱いに注意してくださいね」
毒については隠そうと思ったが、領主様には言っていたほうがいいだろう。なんなら成果が出たら王様にも報告しなければな。この報告を領主様やってくれないかなぁ。王都は遠いから行きたくないし、手紙もめんどくさ……いや、王都に行く人に渡すの忘れちゃうから大変なんだよね。
「わかりました、マスターから預かっているマジックバックに保管するので、安全面は大丈夫です」
「それでは、明日はクランハウスにお願いします。何時に来るのかよくわからないんですけど、いらっしゃったらクランハウスにて応対します。それでは、明日よろしくお願いしますね」
俺はクランクさんに要件を話して、次の相手を探しに向かった。




