14.超硬合金ならワンチャンあるんじゃね?
俺は今、落ち込んでいる。
理由は簡単だ、魚に負けた。トレブルフックがすぐ錆びて、すぐ曲がって、すぐ折れる安物フックだとしても、こんな街に近い浅瀬にいるような魚に負けるなんて思ってもいなかったからだ。
帰り道、大き目な流木を見つけた。
これを今日の戦利品にしよう……これで壁の穴を直そう……生活環境が良くなれば気分も上がるってもんだろう。
「はい、ギルドカードです」
門番の兄ちゃんにカードをみせた。
「はい、確認しました。おっちゃんのその木はなんだ?」
「流木です。この流れるようなフォルムが魅力的で……フフフ」
「おう、そうか、気を付けて帰れよ!」
おっちゃんと呼ばれたのに文句を言う元気もない。だから嫌がらせに怪しさを全開に醸し出しておいた。
これであの兄ちゃんは、俺のことが気になって気になって夜も寝れなくなるだろう……いい気味だ。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい、その木はなんですか?」
ナギちゃんママ(ナミさんと言うらしい)が流木に気づいたようだ。
「部屋の壁が壊れていたようなのでこれで直そうと……やっちゃっていいですか?」
「……やっちゃって? 壊されるのはこまりますよ」
おっと、あまりにも落ち込んでいたから言葉選びを間違った。
「実はスキルがあるんですよ。流木って流されている間に弱い部分が削がれて、丈夫な部分だけ残っている木材なので、これを作って補修しようかと考えています」
「……お願いしてもいいんですか?」
「手間もかからないし大丈夫ですよ。私の部屋を補修して問題が無ければ、時間があるとき適当に補修してもいい位です。基本暇なので!」
おっと、危ない。説明は具体的に伝えないとなかなか他人には伝わっていないものだ。
あっちが了承しても、あとから思っていたものと違う! なんてこともあるし、こっちの思っていたことと違うことをされた、なんてこともよくある。せっかくペットと泊まれる宿を見つけたのに無くしてしまう所だった。
「スキル持ちの方なら安心ですが、一応後で確認してもいいですか? 流木を使うなんて初耳ですので」
「わかりました、私が明日出かけた後にでも覗いてみてください」
部屋に戻ると俺は流木を床に置いた。
重かった……どうしてマジックバッグに入れてこなかったのだろう?
あぁそうだ、門番の兄ちゃんに嫌がらせをしてちょっと気持ちよくなったからだ。そのまま来てしまったのか。
でも、ナミさんにもスマートに説明できたし結果オーライだと考えよう!
「ひとまず壁を直すか……」
壁の穴は高いところにあるので見つめながらクラフト。木材が必要だということがなんとなく分かった。やはり欠損したところは材料が必要らしい。ステータスみたいに板に記入されるんじゃなく、なんとなく何が必要だってわかるんだな。どうせなら何が必要かはっきりわかればよかったのに。
そう思いながらも、流木に手を触れつつ再度壁に向かってクラフトをかける。
うっすら光る壁……
「あぁ、そう来たか」
『さすがトシオの孫だニャ』
出来た壁を見つめて頭を抱えてしまった。
何故か俺の部屋の壁だけ新品のような壁になってしまったのだ。穴を塞ぐだけのつもりだったのに、新品にしてしまった。
それに材質がなんか違って見える。明らかに高級感が漂っている……
「これはやばい、ここだけ明らかにういている」
よし、宿全体を流木で作り直そう! そうすればごまかせる! 壊すのは困るって言われたけど、直す分には問題ないだろう。明日以降せっせと直そう。
壁の問題は後回しだ! 流木さえあれば解決できる。
それよりも釣りの問題の方が深刻だ。トレブルフックの強度が明らかに足りない! フックがダメなんだから、マルカンとアイもダメだろう、代用の金属を探さなければならない。
この世界にある金属が使えれば問題解決だろうけど、お金が心もとない。じいちゃんから受け継いだお金はあるんだけど、まだ俺にはお金を稼ぐ方法がないのだ。
ぶっちゃけ釣った魚を売ればいいやと思っていたのに、異世界の魚がワイルド過ぎた。
「タックルボックスにもっと丈夫な金属なものないっけかな?」
タックルボックスを探っていると、あるものが目に入った。
「おぉ、なんでコイツがあるんだ?」
そこにはタングステンのメタルジグ。
タングステンは高比重で、同じ大きさなのにのメタルジグより重くなる。大きなルアーには反応しない時に大活躍するのだ。そして値段が高い、めちゃくちゃ高い! だから俺は大事に、大事に持っていた。
大事に持っていただけで使ったことは一度もない。奮発して購入しても、いざ使うときにためらうのだ。月の小遣いの四分の一をここで使うべきかの判断で躊躇してしまうのだ!
そんなこんなで、オフショアで使うために持って行ったけど使わなくて大事にしまっていたら、そのまま忘れていたのだろう。
タングステンは超硬合金素材として使われるくらいだ! 超硬合金素材ならワンチャンあるんじゃね? よし、これを使おう!
「……まさかタングステンでトレブルフックが作れるなんてな。スキルは偉大だ」
無事クラフトでフックなどをタングステンに作り替えに成功したが、そろそろ暗くなる時間だ。部屋のベッドをマジックバックに収納し、布団を取り出す。
ちょっとペタペタするから夕食後お湯を貰おう、と考えながらゴロゴロしながらきれいになった壁を眺めるのであった。
「宿をクラフトしなおすのに流木何本いるのかなぁ……」




