138.毒
今年最後の更新です
「こんにちはー、クランクさんいますかー?」
俺は今、クランクさんの自宅兼ポーション作成作業場に来た。
今朝釣った、カサゴなんだかオコゼなんだかわかんない魚の毒をクランクさんに見せるためだ。毒を扱うので今回はトラとドラッシェン様に着いてきてもらった。トラは最初嫌がったが魚のフライで釣った。
小さかったときはあんなに猫じゃらしでホイホイ釣れたのに……っていうか、歩いているだけで足にじゃれてきて、俺に蹴られてしまうくらいチョロかったのに、今のトラはスレ過ぎてなかなか釣れない。
ともあれトラとドラッシェン様がいれば間違いはないだろう。トラだけでも大丈夫な気はするが……トラは回復魔法で消滅させてしまうと前に言っていたのを覚えている。あまり得意分野ではないのだろう……
「マスターじゃないですか、もうすぐポーションのキリが良くなるのでもうしばらくお待ちください」
クランクさんはお仕事中だったようだ。
クランメンバーに、オーラ取得者が増え、ミドリ草の採取が容易になった。とわいえ、採取方法や採取場所は一部の限られたメンバーにしか教えていない。乱獲や流出、品質維持を考えると誰でもオッケーとは言いにくい。
特にベイツの街近くのミドリ草はポーションの効果が高い。今のところ、どこのミドリ草でも手順を踏めばこの回復量のクオリティを持ったポーションができる保証がないので機密扱いなのだ。
まぁ、ほぼ毎日『紅のナイフ』メンバーがダンジョンに行っているので教える必要もなかったというのもあるけど。
「お待たせしました。本日はどうしましたか?」
マジックバックから作り置きした料理を、トラに食べさせながら機嫌取りをしていた俺にクランクさんが声をかけてきた。それにしてもトラはいっぱい食うな……ドラッシェン様の分もあるからケンカしないでね……
「今朝、毒を持っていそうな魚が釣れました。クランクさんにも知ってほしくて持参しました」
「毒のある魚ですか!」
クランクさんが椅子から立ち上がりめっちゃびっくりしている。毒って何だと思っているんだろう? いったん座ろうか?
「魚にも毒がある生物がいるんですよ。あとは、植物やキノコなどにもありますね。昔から。これは食べちゃいけないといわれているものなんかが毒の可能性が多いと思いますが、心当たりありませんか?」
そう、先人の知恵というか、これは食べちゃダメとか、だべすぎちゃダメというのは医療が発達する以前から伝わっているのだ。だからきっとこの世界でもそういうものはあると思う。
「確かにあります、それが毒の可能性があるんですか?」
「そうですね、体調を壊すから食べないほうがいいとかあって、それが伝わるうちに食べなるなになっている可能性はあります。単純においしくないから食べないってのもありそうですけどね」
例えば苦い根っこと言われていたミョウガだろう……まぁ、あれは寄生虫の問題もあったはずだから美味しくないと体調を壊した両方が当てはまりそうだけど。
「なるほど、そして今回は毒の魚ですね」
「そうなんです、これなんですけど沖の海底にいる魚です。多分魔物じゃないと思います、この手の魚は背ビレや胸ビレなど鋭利な部位が刺さると痛いだけでなく、毒が回ります」
俺は話しながら、マジックバックから魚のヒレを取り出した。
「これが刺さると危ないわけですね……」
クランクさんは、恐る恐るヒレを眺めている。
「そうなんですよ、それで今日はこの毒がどれくらいなものなのかを検証します。それじゃあ早速失礼して……イテッ!」
「な! なにをしてるんですか!!」
俺が入れを腕に手の平に刺したのを見てクランクさんがガバッと立ち上がりこっちに走ってきた。
「どれくらいの毒か確かめないといけないです。俺は動物で実験とかできるだけしたくないんですよ。魔物なら……いいような気がしますけど、毒に強い魔物だったら実験になりませんし……おぉ! めっちゃ腫れてきましたよ! そしてなんか痛い!」
毒が回ってきたのか痛くなってきた。オニダルマオコゼの様に神経系になにか作用はしないのだろうか? ひとまず痺れではなく痛みがくるようだ。
「な……な……」
「クランクさん、安心してください。俺だってちゃんと考えてやっています。今日は専門家のシェンさんが居ます。命に危険があれば何とかしてくれるでしょう」
トラだと消滅させられるリスクがあるけど、手加減すれば毒だけ消滅くらいさせられるだろう……できるよな?
「それに、俺は釣り人なので魚の毒にはちょっとした知識があるのです。似たような魚の毒の対処法を知っているので、今回はこうやって症状を観察しているのです。クランクさんは1人でやっちゃだめですよ?」
そうなのだ、このためにトラとドラッシェン様を連れてきたのだ。
俺が話せなくなったらどっちか助けてね? あ、話せなくなったら助けてっていうの忘れてた……
良いお年を!




