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137.ピリッとする魚

「シェンさん、ちょっと見てもらいたい魚があります」


 俺は今、クランハウスの食堂へ来た。

 ドラッシェン様は朝から皆の訓練を見学し、お昼になると食堂で唐揚げを食べながらエールを飲んでいることが多い。


 朝の訓練は俺も最初は型の素振りをしにいっていたのだが、朝まずめに間に合わないことがわかり、最近はたまに行っている。


 ハーパンにアロハシャツでキンキラキンの装飾品を身に着け、唐揚げを食べながら昼間からエールを飲んでいるイケメンはなんというか……注意しずらいな。でも、訓練の教え方はすごく評判がいいのだ。スピナさんと同じくらいの人気がある。それも、老若男女問わずの人気なのだからすごい。


 唐揚げとエールで働いてもらえるのだから、安いものだと思っておこう……


「なんだ? 我に用があるなんて珍しいな」


 実のところ俺はドラッシェン様とあまりかかわっていない。お互い好きなように個人行動しているのだ。まぁ、特にやってほしいこともないし、ドラッシェン様も来てみたら、思ったよりもうまい飯が食えるから残っている感じなんだと思う。

 要するに俺がこの世界に来た時のまま、好きなことをしている。


「毒があると思われる魚が釣れたので、知っていないか確認しに来たのです」


「どれ見せてみよ」


 見せろと言われても1mくらいある魚だ、ここでは見せれない。


「ここだとちょっと狭いんで厨房行きましょう」


 俺たちは厨房に向かった。

 厨房といっても異世界の厨房はちょっと構造が違う。素材がでかいことがあるので解体スペースがあるのだ! クランハウスの厨房だけ、だけどね……宿の厨房にはそんなものはなかった。


 俺は解体スペースに、オコゼなんだかカサゴなんだかわからない魚をマジックバックから取り出す。


「これなんですけど……知ってます?」


「あぁ、ピリッとする奴じゃないか。食えるのか?」


 あぁ、古龍基準だとピリッとする程度なのね……基準が高すぎてわかんねー。


「食べれると思うんですけど……シェンさんに試食お願いしてもいいですか?」


「いいだろう、ワレは一回喰ってみたがそのピリッとしたのが好きじゃなくてな……エールが合うつまみにしてくれ!」


 そういうとドラッシェン様は食堂へ行ってしまった。




「ピリッとかぁ、基準がわからんな……」


「その魚どうしたんですか? いえ、それ魚ですよね?」


 厨房にいたシャッドさんが声をかけていた。お昼ご飯を作ってくれていたのかな? お疲れ様です。


「シャッドさん、お疲れ様です。今日釣ったんですけど、毒がある魚だと思うのでシェンさんに見てもらったんです。ちょっと調理をお願いできますか? 捌き方は……むずかしいので俺がします」


「わかりました、どんな料理にするんですか?」


「おつまみが欲しいみたいだったので、フライにします。準備お願いできますか?」


「わかりました」


 シャッドさんに準備をお願いした後、俺は魚に向き合う。


「どれ、捌くかな……」


「あの……僕がやってもいいですか?」


 声の方を見ると、ボブさんが手をあげていた。


「やりたいんですか?」


「はい、今後釣れた時に、毒がある部分を知らないと危険だと思いまして」


 なるほど、その通りだ。よし、やってもらおう!


「それじゃ、お願いしますね! まずは毒がある背びれとヒレを切り取ります。ヒレが刺さらなければ触っても大丈夫だと思うので、気を付けて切り取ってくださいね。毒の研究に使うので切り取った部分は捨てないでください」


 俺の指示通り解体は進んだのだが、思った以上にヒレが堅かった。ナイフでは全く歯が立たず、背中の肉ごと剥いでようやく背びれが取れた。胸ビレも同様で肉ごと切り取った。

 それ以外が難しいかなと思ったが、ボブさんの手際もよく、それに魚も大きいためすんなり進んだ。この手の魚って中骨が真っすぐ通っていないから小さいとめんどくさいんだよね。俺はカサゴ系はめんどくさすぎてヒレを取ったらそのまま素揚げにしていたくらいだもん。




「フライができました。試食お願いします」


「おぉ、来たか。どれどれ……」


 ドラッシェン様はフライを一口食べエールを飲み、フライに醤油をかけエールを飲み……


「ちょ、試食なんですから俺の分も残してくださいよ! それで、ピリッとしましたか?」


「あぁ、悪い悪い。ふわっと柔らかく、脂ものっていて美味だぞ。前に喰ったときはピリッとしていたのに不思議だな」


 こっちからすると、ピリッとしたから苦手だって言ってる方が不思議だよ。


「この魚はヒレに毒があるんですよ。本来ならピリッとしたじゃ済まないはずなんですけどね」


「そうかなのか! ヒレをとって喰うのはめんどくさいな」


 めんどくさくなくても、普通の人は毒があるから取るんですよ。龍基準はダメだ!


「それじゃ私も食べますね。どれどれ……」


 おぉ、確かに身がふわっとしていてうまい! これはタケダとかブリには無いうまさだ。


「みなさん、おいしいです。これは売れますね! 取り扱いは厳重な注意が必要そうですが……」


 皆もおいしく食べているようだ。

 モルシチさんとグラッツさんは、なぜかエールのジョッキを持っている……あんたら自由だな……まぁ、早朝から漁に出てこの後は仕事がないのだろう。ゆっくりすればいい。


「ボブさん、漁をする船にも今日の釣り道具載せれば釣れそうですか?」


「大丈夫だと思います。ただ毒がある魚ならば、他の魚と一緒に置けないのでそこをどうするかですね」


 なるほど、それもそうか……これはマジックバックか? それか毎回ヒレを取るかだが……どっちにしろヒレの処分に困るのか。


「後日マジックバックを用意します。あと、手を保護する物も考えないといけないですし、あとで届けますね」


「お願いします」


 そんな話をしながら俺たちは、オコゼなんだかカサゴなんだかを堪能した。

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