136.レッスン
「いいですか、釣りというのは魚との駆け引きです。こちらが勝てば釣れますが、魚が勝てば逃げられます。勝つためには技術と経験が必要です! がんばりましょう」
釣りは魚が掛かれば釣れると思う人が多いと思うが、それができるのは竿やリール、ラインなどのスペックが魚のスペックよりも優っている場合だ。しかし、釣りの面白いところは道具のスペックをあげればあげるほど、魚は釣れなくなる。
針を大きくすれば、小さい魚は釣れなくなるのはわかると思うが、太い糸を使っても釣れなくなるのだ。原因ははっきりわからないが、俺の持論だと糸の抵抗がルアーの動きを阻害するのではないかと思っている。もちろん大物狙いの場合はスペックが高い、この場合は切れにくい太い糸を利用するが、その分ルアーも大きくなり、重さも増えるので糸の抵抗をルアーの重さが打ち消しているのではないかと思っている。
もちろんいろんな道具があるので、PEラインの様に擦れには弱いが引っ張られる力にはめっぽう強い糸を使うことで糸を細くしたり、様々な工夫をすると釣りを簡単にすることも可能だ。
とにかく、たくさん釣るには釣り道具のバランスが大切だ。そして、バランスを整えると無茶な釣りをするとラインが切れたりトラブルが発生する。そこの何とかするのが釣り人の技術だと思う。
この技術をサポートするのがリールだったり竿だったりするわけだが、今回の釣り方は竿もないし、リールにはドラグもない、ぶっちゃけリールというより糸巻機なのだ! となると、俺が竿とリールの機能にある、ドラグやいなしの役割をするしかないだろう。
「ひとまず一人はリールについてください。あとの二人は俺のやることを見学! リールは俺が支持するときにゆっくり巻いて、それ以外はハンドルから手を放してください!」
「「「りょうかいっす!」」」
一方的に指示を出したが、こっちも必死だ。前回のブリほどではないが、それなりに引きは強い。ギリギリとラインは引っ張られていき、ラインがブルーブルの革に喰いこんでいる。
後ろを見るとイケメンのボブさんがリールの位置についている。残り二人は俺の反対側で不安そうに待機した。
「いいですか、張られた状態の糸を素手で触ると手が切れてしまいます。特にこの糸は強度があるようなので細く作りました。下手すると指が切断されてしまうので、必ず手袋や布などで保護してください。いや……あとでブルーブルの革で用意するのでmそれを使用するといいでしょう」
モルシチさんとグリッツさんは、真剣にうなずいている。さすがに指がとれちゃうとか言われたら真剣になるか……
「よし、魚がこっちを向いたようです! ボブさん巻いて!」
ボブさんがゆっくりとハンドルを回しだした。
「あ、もうちょっと早くてもいいかも。俺も引くんでたわんだ分巻き取ってください。そして魚が走り出したらすぐに手を放してくださいね」
俺の即席リールはドラグがないから、リールが回ればハンドルも回るのだ。そこに手があればロックが掛かってラインが切れ……このラインは切れないかもしれないな……針が壊れてしまうのだ!
しばらく巻くとまた魚が走り出した、今度は下にもぐっている!
「魚が深く潜っています! 魚が根にもぐられると厄介です、こういうときはちょっと無理をしてでも引いて、魚がこっちを向かないかチャレンジします」
俺は腕をあげ糸を引っ張る、魚がぐんと潜ろうしたら腕をゆっくりと下げ、勢いが弱まったらまた腕をあげる。
「腕を上げたり下げたりしているように見えるかもしれませんが、魚の動きに合わせて力を加えています。魚が疲れてくるまでこれを繰り返します」
しばらく格闘するとまた動きが弱まった。
「ボブさん、巻いてー」
ギリギリとライン場巻き取られていく。そろそろ釣れそうかな? と思ったが、魚がまた沖の方へ走り出した!
「ボブさん手を放して!」
俺はボブさんに指示を出すとグッとラインを握りしめる、さすがにラインをフリーにしたらどこまで魚が行ってしまうかわからない! 握ってラインにテンションをかけ続ける。
それにしても走る魚だ、というかブルーブルの革からうっすら煙が出てきてるのだが大丈夫なのか? 革もだけどラインも……大きな木の繊維は熱にも強いのだろうか? 今のところ切れる様子は無い。
しばらくするとまた勢いが落ち着いてきたので手のひらを縦にし、糸を親指の付け根辺りに引っかけ、引っ張る。
「ボブさん、巻いてー」
なんとかラインが無くなる前に巻くことに成功してよかった。
ざばーーーん!
「やったーーー!」
後方ではブラスさんが無事釣りあげたようだ。例のごとくポッパーさんが飛び込んで仕留めているが……あれ、毎回やるの?
こっちも順調だ。そろそろ魚影が見えてくる頃だろう……そして見えてきたのがイボイボの魚。
「よし、あれも仕留めてくる!」
「待って!」
飛び込もうとするポッパーさんに俺は待ったをかけた。
急に待ったをかけられたポッパーさんは体勢を崩し頭だけ海面についた状態で、モルシチさん達に腰辺りを持たれているが……大丈夫かな? 早く引き上げてあげないと溺れちゃうんじゃない?
「急になんだよー」
溺れかけたポッパーさんはやや不機嫌そうだ。というか、初めて見る魚に躊躇なく突っ込んでいこうとしたポッパーさんに同じ言葉を返してやりたい。
「あの魚には毒があると思います。毒はヒレと背びれにあるのでそこに触れないように仕留められますか?」
「……わかった」
ポッパーさんは大剣を手に取ると、ゆっくりと船から降りて行った。
「ヒレ以外は毒がないと思います。気を付けてくださいね、エラ辺りを傷つけられればそのうち失血死するでしょう」
俺の声が聞こえているかはわからないが、ポッパーさんは魚から視線を外さない。
というか、あの大剣もって浮いているのはどうなってんの? なにげにポッパーさんは泳ぎが上手なのか?
ポッパーさんはエラをひと突きし、船に戻ってきた。
「毒がある魚は逃がさなくてよかったのか?」
ん? 逃がす?
「逃がさないですよ。あの魚もおいしいんですから」
「は? 毒があるのに?」
なぜかブラスさんが驚いている。漁師三人組もなんか青い顔をしている。漁師のくせに船酔いか!
「この魚は俺が知っている魚だったら、ヒレと背びれを取り除けばおいしく食べれるんですよ。毒のあるヒレは、クランクさんへお土産にしましょう!」
多分、カサゴ系の魚だと思うんだよなぁ。すっごいでかいし、ボツボツしてるからオコゼの仲間かな? どっちにしろ高級魚だ。異世界仕様で全身に毒があった場合は……食べる前にドラッシェン様にでも確認しよう。
その後も釣りを楽しみ、漁師3人にも釣り方をレッスンしてお昼過ぎころには漁港へ戻ってきた。
どうやら中層にはブリっぽい魚が多く、海底付近はオコゼ系の魚が多いようだ。
もちろん釣った魚は〆た後マジックバックだ。大きくて船の上で捌くのはきついからな。
釣りを終えた俺はドラッシェン様の元へ向かった。多分今の時間ならクランハウスで昼ご飯でも食べてるんじゃないかなぁ。
それにしても、船から降りるとずっとフワフワするよね……ママチャリ乗りずらい。




