133.鍛造と鋳造
予約設定間違っていました。
「金属の加工法には鍛造と鋳造というのがあります。ちなみに、カジさんが行っていた、型に溶けた金属を流し込んで形を作るのが鋳造。そして、俺がやりたかったのが鍛造です」
「鍛造とはどういった方法なんじゃ?」
カジさんは興味津々らしい。というか、本当にこの世界には鍛造がないの? 高温にしなくていい分、こっちの方が先に発展しそうなんだけど?
「鍛造は熱を加えた柔らかくなった金属に、衝撃を与えて形を作っていく方法です。簡単に言うと、叩いて形を作っていきます。この叩くという作業が、金属を鍛えるという意味で鍛造と言われるらしいですね」
カジさんはあごに手で触りながら考えているようだ。
「叩くと鍛えられるのか?」
鍛えるという表現があれだよね、日本人らしい発想というかなんというか……抽象的な感じだよね。
「鍛えるというのは、叩けば強度が増すから言われている表現でですね……」
「強度が増すじゃと!」
いきなり立ち上がって興奮気味にカジさんが立ち上がった。なんか背筋が伸びているけど、腰は痛くないのだろうか……
「そうなんですよ。カジさん落ち着いて座ってください。なぜ強度が増すか説明しますね」
「……そうじゃな」
俺の言葉で冷静になってくれたのか、カジさんはゆっくりと腰を下ろした。本当に腰大丈夫?
「そもそも金属には不純物だったり、目に見えないような隙間があるんですよ」
この隙間というのが俺もあっているのかわからない。ただ、結晶が~とか組織が~とか言われてももっとわからないだろう。だから隙間ってことにしておくのがベストだと思う。
「その不純物と隙間を叩いてつぶすことで取り除きます。作業自体は熱した金属を叩いて伸ばし、さらに熱して柔らかくなったら折りたたんで、また叩くの繰り返しです。行程中に不純物は外側に追い出され飛び散っていきます。そして叩くことで隙間が無くなっていくのです」
「ほうほう、叩くことで不純物の取り除きと、隙間をなくすのが一気にできるわけじゃな……」
カジさんは今までの経験で何か思うところがあるのだろうか? 真剣に考えているようだ。
そして、スズくんとジンくん……眠そうにしてるけど大丈夫? なんかスピナさんの顔が怖くなってきているよ?
「そうですね、理にかなった方法だと思います。あと、熱した金属を急速に冷やすと金属のゆがみを抑えられるのでさらに丈夫になり……」
「なんじゃと!!」
カジさん、驚いたときに立ち上がるのやめた方がいいんじゃないかな? 絶対腰痛めてるよ? あとで、クラフトさんのポーションでも、スピナさんから渡してもらおう……
金属は時間が経つとわずかだが歪みがでる。このゆがみを取る方法として、昔は数年間放置する方法がとられていた、いや、今も大きな鉄骨とかはこの方法がとられているのかもしれない。空港に向かう途中に鉄筋が山積みにされて錆さびになっているのを見たことがある。あれは売れないからぶん投げているのではなく、放置することで歪みを出し、歪みを取り除いた後出荷するのだとおもう。
歪みは一定量出たあと、それ以上歪まない。だから、歪みを出してから仕上げをすれば高品質な鉄骨になるというわけだ。
しかし、歪みが出尽くすまでに待っていたんでは生産が間に合わない。それに置いておく場所も確保するのが難しいし、置いておくだけでコストが発生してしまう。そんなお悩み解消方法が、熱した金属を急速に冷やす方法だ。
熱した金属を0度以下に急速に冷やすことで強制的に歪みを発生させることができる。サブゼロとか言われている方法だったはずだ。異世界では0度以下の温度を作る方法が今のところ思いつかないのでサブゼロは無理そうだが、水で冷やすだけでも多少は効果が出るだろう。
「カジさんも作った剣が歪んだ経験あったりします? 強度が増して、歪みにくい剣や防具なだけで、かなり高品質になると思うんですよね。そして、高品質なものは高く売れます。話を聞いた感じ、鋳造が主な生産方法だった様子、鍛造で武具や日用品を作り、ベイツの特産品にしてはどうかなと思っています」
「やる! やるぞ! わしはやる。悪ガキども……いや、クランのルールだとスズさんとジンさんか……わしの技術を受け継いでくれないか?」
カジさんが急にクランのルールを思い出したようで呼び方が変わった。いや、これはルールというよりも……
「カジさんが、スズさんとジンさんを成人と認めているようですよ。うちのクランは自分と同列に扱っている人には『さん』と付けるルールがあります。基本成人した人は能力の差があれど得意分野では自分よりも秀でていることが多いのでみんな『さん』づけで呼ぶんですけどね」
「ちょっと難しい話だったからよくわかんないんだけど、すげー強い武器が作れるのか?」
ジンくんは強い武器に惹かれているようだ。まぁ、男の子は最強の武器にあこがれるからな。俺もエクスカリバーとか作ってみたい。名前だけですでに強そうだもん。エクスカリバーをクラフトすれば必要な材料出るかなぁ……
「強い武器なら高く売れるんだろ? 儲けて毎日うまいもの食おうぜ!」
スズくんはうまいものを食うのが楽しみなようだ。残念だったね、うちは月給制だからな、多少高給にはなれるだろうが大金持ちにはなれん! ただ、うまいものはカイリさんのところに行けば食べれるだろう。
「じゃあ、決定ですね。今、各種金属を取り寄せ中です。鍛冶場も早急に作ります。カジさんは身体を直してください、スズくんと、ジンくんは魔力循環の訓練を。スピナさんよろしくお願いしますね」
「わかりました、ほかにも興味がある人がいれば誘ってもいいですか?」
「いいですよ、熱いところでの作業になりますし、力も必要です。ある程度、役割分担で負担を減らすようにしますが、みなさんに説明しておいてくださいね」
鍛冶師を探すだけのつもりだったが、この世界の武具は鋳造産だったのは驚きだ。これならベイツの特産品等して、高品質な武具を追加しても欲しがる人は多いだろう……
「あ、ずりー! 俺たちは強制されたぞ!」
「そーだ! そーだ!」
「君たちは罰だからね。別に罰がすんだら辞めてもいいよ。最強の剣は他の人が作ることになるだろうけどね」
「「最強の剣……」」
最強の剣という、超パワーワードに二人はとまどっているようだ。
「俺たちが最初の職人になるんだろ? 一番先輩なんだから責任もってやらないとな!」
「そうだよな、先輩の俺たちよりも腕がいい職人なんて出てきちゃだめだよな。抜かれないように気合い入れていかないとな!」
やる気になってくれたようだ。大変だろうけど頑張ってくれ……




