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129.豊かさの外側

「クランクさんは豊かな生活の外側を考えたことがありますか?」


「豊かさの外側?」


「そうです、例えば俺が毎日おいしいものを食べて、毎日楽しく釣りをやっています。でも、この生活をするためには俺がおいしいものを食べれるように調理する料理人、料理人が使う食材を作る農家や、狩人が必要です。あと、釣りに時間をさけるように家を管理してくれる人だったり、様々な人の協力がないとこの生活ができません」


 ぶっちゃけ今の生活がこれなんだけどね……いろんな人の協力がないと好きなことができないのだ。


「要するに、たくさんの人の時間を奪って俺はぜいたくな生活をしているのです」


「奪うって……そんなことないですよ。誰も不満を言ってないじゃないですか」


 俺が自分を否定するようなことを言ったもんだから、ものすごくクランクさんが慌てている。クランクさんもポッパーさんと似ていて真っすぐというか、純粋だよね。あんまり意地悪しないように気を付けないと。


「そこなんです! グランディール内では今のところそのような話が出ていません。しかし今、この国では農業を頑張っているのに生活が苦しかったり、働いているのに苦しかったりということも多いんじゃないですか?」


「そうですね……頑張って働いても、それに見合った賃金をもらえてない人も王都にはたくさんいます」


 そだね……そういうこともあるんだとなんとなく思ってたよ。あと、いいキーワード出てきたね!


「クランクさんも分かっていたんですね。先ほど話していた、豊かな生活をおくっている人に向けた不満はどうすると無くなるかですが、賃金が大きいのです。正確には職場環境とかいろいろあるのですが、自分が贅沢するにはお金が必要です。でも、裕福な生活をおくる人にも、お金は必要なのです。ここで、お金の奪い合いが始まります」


「お金の奪い合い……」


「そうです、現実では雇用主が必要分を引いて労働者に支払うので、奪い合いはおこっていません。ただ、労働者が奪われ続けます」


「そんなことは……」


 クランクさんがすっごいオロオロし始めたけど、なにか思い当たる節でもあるの?


「まぁ、雇用主じゃなく買い手が圧力をかけて安く買いたたいている場合もあるので……例えばの話ですよ。あ、俺は王様にポカリエスを金貨1枚で売ったの……別に気にしてませんからね」


 俺は気にしていない。ちゃんと困っている人に使われているんなら問題ない。使われているよな?


「……気にしてたんですね」


 俺のユニークあふれるユーモアジョークで、クランクさんが落ち着きを取り戻したようだ。


「とはいえ、みんなが納得できる状況を作るのは難しいです。お金持ちがいるのは仕方がありません。それはそれだけ価値がある仕事をやっているのだから。でも、最低限は守らなければいけません。生活ができないとか、住むところがないなんてもってのほかですね。豊かさにも大なり小なり大きさは違うかもしれませんが、小さな豊かさも守っていかなければいけません。それは、この流行を始めたグランディール、そして創設した俺の仕事だと思っています」


 ようやく言いたいことは言えた気がするが、俺の語彙力がクランクさんに通じているのだろうか? 昔から妻に『あなたの言いたいことは難しい。理解しようと思っていない人が聞いたらわからない』とわからないことを言われている。わかるように説明しているのに、わからないって言われても困るんだけど……


「……その小さな豊かさを守るために毒が必要になるんですか?」


 クランクさんは俺を理解してくれる人だったようだ。ちゃんと伝わったー。


「結果的にですが、そうなります。正確には先日説明した通り、毒に対する対処法を用意しておきたいのです」


「毒が作られなければ、対処法も問題ないのでは?」


 そうだよね、そうなんだけどね……


「グランディールは最先端の商品を売ってたくさんの利益を得て、それを作り手たちに不満が出ないように配分します。そして、クランのメンバーはオーラを纏える人材も豊富で、暴力では太刀打ちできません。そんな時、グランディールの利益をかっさらいたい人はどうすると思いますか?」


 これでどうだろ? 伝わるかな? 伝わってくれたかな?


「同じようなものを作って売ります」


 そうだね、クランクさんならそうだね。


「そうですね、同じようなものを売ればうちよりも品質やデザインが良かったら売れますね。でも、そこはグランディールがすでに地盤を固めている商売環境ですので、後から参入してきた人たちは、グランディールがいると邪魔でしょうねぇ……」


 こういう時は悪い笑み大作戦だ。ちょっと顔を横にそらして横目でクランクさんを見て、ニヤリと笑うのだ。


 ほらほら、なんだか知らないけどクランクさんの顔が青ざめてきましたよ……


「まさか……正面からでは太刀打ちできないから……毒を使って……」


 そうなると思うんだよね。ならないくらいこっちが巨大になるって手もあるけど、そう考えるメンバーは上位陣には間違いなくいない。そもそも、食うに困る人たちをなくそうと考えて行動しているんだから、できるだけみんなが笑顔でいる方法を検討するだろう。

 結果的に大きくなるかもしれないけど、自分の利益を最大にするために大きくするのは……俺はするかもしれない……みんなが止めてくれるだろうけど。


「そうですね、毒を使ってくる可能性が高いと思っています。もちろん、相手のやることなのでどの毒が使われるかわからないのです。だからできるだけ多くの毒と、その毒にかかるとどうなってしまうのか、毒への対処法の研究が必要だと考えています」


「毒は苦しめるためではなく、救うために必要なのですね……わかりました……皆を守れるよう最善を尽くします!」


 クランクさんの悩みが少し腫れたのか、ちょっと顔のこわばりが薄れたように見える。毒は探すのも大変だし、対処法も見つけるのも大変だろう。人材も増えたことだし、クランクさん以外にも人を増やして取り掛かっていかないといけなさそうだ。


「あ! 水と油が混ざるか確認するの忘れてた!」


 俺がこのことに気が付いた時には、すでにクランクさんは退出していた……

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