13.釣りは魚との知恵比べなのだ!
釣り回です。
本編ではちょくちょく釣りの知識が出てきます。
宿の部屋はとてもシンプルだった。ベッドが一つ置いてあるのみ! あとは何もない。
ベッドは藁なのか? 寝心地は良くなさそうだな。
じいちゃんのマジックバッグに布団があったはずだから、あれで寝よう、そうしよう。床に布団だと身体がバキバキになりそうだけど、ベッドよりはマシだろう。
部屋の広さは六畳くらいで、物がないから広く見える。
あ、部屋の隅が壊れていて隙間風が入ってきているな、あとで木でも拾ってきて直しておいてあげようかな、というか俺のために直そう。
「無駄に広いスペースは道具を置くためにか?」
『置いていくなんてひどいニャ。最低だニャ!』
トラが不満をぶつけているが、普通の人には「ニャーニャー」としか聞こえないのだ。
「ニャーニャーとなに鳴いてるんだい?」
優しく問いかけたのだが……
『聞こえないふりするニャ!』
ご立腹のようである。
「よし、釣りに行くぞ! ついでに木材でも探そう。トラを首に巻くと暑い! 無理だ! トラマフラーは冬にする!」
そういい俺はまだ見ぬ釣果を求めて海に向かった。
「なかなかいいサーフではないか」
街の近くの海岸は、海水浴場の様な砂浜が広がっていた。たくさんいた人たちは解散したらしい。
もっと街から離れるたところには岩が見えるからあっちに行くと磯があるのかな? 時間に余裕があったら行ってみよう。
トラは波打ち際で遊んでいる。波打ち際で濡れるか濡れないかのギリギリに挑戦しているようだ。息子も教えていないのに、同じ遊びをやりだしたんだよな。なんか遺伝子に組み込まれている何かがあるのかもしれない。
楽しそうなトラを横目に、マジックバッグから釣り道具を取り出す。
「ショアが目的の日で良かった。オフショアなら船が無いとダメだった」
ショアとは、海岸など岸からの釣りで、オフショアは船など岸がない沖の方でやる釣りだ。
ショアの場合、ルアーを遠くに投げないといけないので竿が長い。
オフショアの場合は水深が深い場所になるので重いルアーが必要になる。足元に魚がいるので遠くに投げる必要がないので、短くて太いものが使われる。
俺はメタルジグ(28g)を付けたジギングロッドで、沖の方へ軽くキャストした。
「50mは飛んだか? この世界でPEラインはクラフト可能なのかな? 編み込んだりなんて人力では無理だろ。切れたらもう釣りができないなんて最悪だよな」
根掛かりが怖かったので、着水後すぐにただ巻きで回収。しかし、根掛かりを怖がっていれば魚はなかなか釣れないだろう。
「ひとまずフルキャストだ!」
考えても仕方ないので、いつも通りキャストする。それにしても飛んでいるような気がする。
「なぜか飛びすぎてる!ヤバい!」
俺はお小遣い制だった。子供が産まれてから、更にどんどん小遣いが減っていってたからお金がない。PEラインは下巻き糸で底上げして、150m巻きを使っていた。
あっちの世界ではフルキャストしても100mくらいしか飛ばなかったので、そのつもりだったが、なんか異常に飛んだ。
「あぶないなかった~。あれ?」
気が付いたことがある、スプールのPEラインが減っていない。
「ラインは使い放題なのか……これは助かった」
ラインの心配がなくなったので、メタルジグが着底するまで待つ。
「結構沖まで飛んだはずだけど、浅いな。遠浅か」
ショアジギングでは、まずはメタルジグを着底させる、根掛かりが多い場所では着底を省く場合はあるが、基本は着底。ジグが着水してから着底するまでの時間を測れば、おおよその水深もわかるし、着底時のラインに伝わる振動で海底が岩なのか砂なのかくらいはなんとなく判断できる。釣りは魚との知恵比べなのだ。
ただし、この底を感じるのはPEラインでないとわかりにくい。PEラインは擦り傷にはめっぽう弱いが、引っ張られる力にはめっぽう強いのだ! その特性のおかげで細いラインを使用できる。細ければ摩擦抵抗が減り飛距離が伸びる。そして感度も良い、ジギングにピッタリのラインだ。
「遠浅で底が固くなさそうだから根がかる心配はないかなぁ~。でも根魚は期待できなさそうだ。青物かフラットフィッシュが居れば楽しめそうだ」
3回ほど大きくしゃくってしばらく待ち着底。これを繰り返す。
4回ほど繰り返したところで、ガツンとした当たりがあり、竿が強烈に引っ張られる。
「おぉ、ここでもジギングは通用するのか!」
喜んでいたのもつかの間、すごい力で竿が引っ張られる。
「ちょ! ちょ! ブリみたいな引き方するんだけど!」
これは青物系の引きに近い! とにかくパワフルだ。
問題は、ショアジギング用の竿にブリを釣り上げるパワーはない。もちろんリールもそれに合わせているためパワー不足だ。PEラインは引っ張られる力には強いので何気に持つが、竿が限界まで引かれ、しなりが無くなればあっという間に限界が来てしまうだろう。
「異世界の魚ハンパネー!」
勝負はあっという間に訪れた。ルアーを回収するとフックが伸びていた。
100円ショップのジグでは無理があったらしい。
「100均じゃなくてもフックはきびしそうだなぁ。自分で作るしかないか」
異世界での初釣りはボウズ。
俺は異世界の魚に惨敗したのである。




