128.流行の先
あれから数日が経った。
カイリさんやポッパーさん達は毎日仕事の合間に訓練を続けているようだ。ドラッシェン様も興味があるようで、見に行っては一緒に訓練のアドバイスをしている。
そう、ドラッシェン様は俺が考えた戦い方を実践できたのだ! 水も火も俺の戦い方ができる証明ができてしまった。だがしかし! ドラッシェン様は水も火もできたことが謎になってしまった。属性って一人一つじゃないの? それとも、人じゃないから可能なの? そういや、トラもいろいろできていた気がする……
スピナさんからも白いオーラの戦い方を教えてほしいと言われたけど、「そのまま頑張ってドン! できるようになってね」って言っておいた。若干不満そうな顔をしていたけど、「ドンできたら白はすごいんだからね、そりゃあもう、すんごいの!」って言ったら、張り切って出て行ったからスピナさんもみんなと混じって訓練していると思う。
スピナさんの孤児院は今のところ順調だそうだ。高齢の人も結構いるので、皆に仕事を割り振ったら、思ったよりも自分のすることが減り、訓練する時間ができたって喜んでいた。自由時間を訓練に費やすのは聖女としてどうなのかとも思ったが、スピナさんの戦闘能力はやばいからな……良いところは伸ばしてもらおう。
良いところで思い出した。
最近ポッパーさんが鉄板剣で狩りを始めた。どうやら仕事中も訓練をしたいという気持ちからこうなったらしいのだが、大丈夫なのだろうか?
「今はまだ切れない、だがマスターの戦い方が実践できた場合、切れ込みが熱で入れば鉄板剣でも切り裂けるはずだ! そうだろ! マスター!」
と、ポッパーさんが熱弁していたので「すごいね、できるといいね」ってフォローしておいた。ダンジョンの魔物は倒されるとドロップアイテムになるので、殴って倒そうが切って倒そうが別に問題はないんだけど、鉄板剣で調理をするときは、ポッパーさんのは使わないようにしようと心に決めた。
カイリさんもカイリさんで、「魚の出汁を取った時に出る脂が、水にもっと溶ければ料理はおいしくなるはずだ! 緑は溶ける量が増えた! ならば青だって溶けるはずなんだ!」と、なんかこじらせた考えになっていたので、水に油は溶けないことを説明したら絶望した顔になった。
なんかやる気を削いでしまったようでかわいそうだったので、乳化について説明しておいた。
青のオーラに全然関係ない話のアドバイスだったけど、そのうちマヨネーズとか作ってほしい。ん? もしかしてクランクさんなら水に油を溶かすという異世界ムーヴをかますことも可能なのか? 今度試してもらわないと……
「マスター、すみません。ちょっとご相談があります」
丁度よいところにクランクさんが現れた。これは俺が今しがた思いついた新事実を解明しなけれしなければならない。
「クランクさん、俺もちょうどクランクさんのことを考えていたんですよ。なにか問題でも起こりましたか?」
クランクさんは日頃からきりっとしたタイプなので分かりにくいのだが、今日は元気がないような気がする。
「はい、先日の話を聞いてから考えていたのですが。どうしても毒の研究には気が回りません。私が作った毒で人が苦しむことがあるかもしれません。そう考えると考えが進まないのです」
そうだった、先日俺はクランクさんに毒を作れないのか聞いたのだ。話の流れでクランクさんに直球で言ってしまったが、尋ね方が良くなかったのだろう……
「こないだは急に言ってしまってすみません。今まで俺も考えていて、この件についてはやらなければいけない問題だと考えていたのです。手順を飛ばして結論から話してしまいました」
「……」
ここはひとつ、俺の考えをちゃんと伝えておかないといけないだろう。俺だっていきなり上司から『これをやれ! 決めたんだからやれ!』と言われてもやれないし、良い結果を出せるとも思わない。
「グランディールは今のところベイツとその周辺の村にしか影響はありません。この影響というのは生活や文化、経済辺りです。これから食事が変わったり、食料が増えたり大きく変化していくでしょう。この変化がベイツ周辺だけで収まらず国や世界中に波及すればどうなると思いますか?」
俺は先日グランディールを、ベイツを流行最先端にすると宣言した。これは俺がやろうとしていることだし、やろうとしなくても間違いなくこれから俺が生活していけば新しいことの連続になっていくだろう。だって、俺の育った環境は違うのだから……
「世界中の食生活が豊かになり、苦しむ人が減るでしょう」
そうだね、クランクさんらしいすごく純粋な答えだと思う。
「そうですね、シャッドさんも頑張っていますし、飢えに苦しむ人、もしかしたら職に苦しむ人も減るかもしれません。ただ、苦しむ人が増えるかもしれないのも事実です」
「……苦しむ人が増えるというのは、よくわからないのですが?」
ちょっと遠回りの説明になるかもしれないが、大事なことだからじっくりと話そう。




