122.船
「ふふふーん ふふふーん 鈴が鳴る~」
俺は今、チリンチリンとベルを鳴らしながら自転車に乗っている。季節は初夏だが鈴が鳴ると言ったらクリスマスソングだ。今の俺には季節なんて関係ないのだ。
できるだけ邪魔にならないように自転車に乗っているわけだが、街の人々は珍しいのかこちらを見ている。たまに目の前で立ち止まられる時があって、そうなると危ないのでチリンチリンと音を立てながら、危険をアピールして運転中だ。
それにしても自転車はいい、馬車まで早くはないが、俺が走るよりも明らかに速い。それなのに俺の力で進んでいるのだ、実に気分がいい。
ただ、ひとつ困ったことがある、俺の後ろに『紅のナイフ』のメンバーが追随してくるのだ。
自転車を追いかける6人……なんか絵面がよくない。何が良くないって、みんなオーラを出しているのだ、昨日まで『紅の剣』メンバーはオーラはまだとか言ってなかった? なんで一晩でできるようになってんの? まさかポッパーさんが鉄板剣で鬼の猛特訓でもしちゃった?
それにしてもちょっと面白いことがあった。『紅のナイフ』のメンバーで、オーラの色が一人を除いて赤なのだ。唯一、シンカーさんだけ青。『紅の剣』のリーダーが実は青かったというのはなんとも感慨深い。パーティー名とリーダーが変わってから真実が知れてよかったね……
もし紅の剣のままAランクに名がってその時に、リーダーの自分だけ青かったら血の気が引いてしまうだろう。
ひとまずオーラを使って走っているので6人は皆笑顔だ。上司が部下をいびっているようには見えないはずだ。というか、みんなそんなに煽らないでね? 俺はこれで結構限界に近いんだよ。もうちょっとゆっくり気持ちよく進もう。
ことの発端は、俺が漁港に船を作り釣りをするという発言だった。
船は帆船だとキャストの邪魔になるし、人力になりそうだけど一人で漕げるかなと話していたのにポッパーさんが反応した。ポッパーさん曰く「食料の確保は俺たちの仕事でもある!」ということだった。
いや、海の幸は漁師三人組にお願いしたから大丈夫なんだけども……しかし、ポッパーさんの行動は迅速だった。俺がクランハウスを出るころには、6人に増えたメンバーで流れるようにお風呂の水を入れ替え、玄関前に集合していたのだ。お昼に青オーラの戦い方講座はどうなったんだ?
しかし、さすがにここまでされてトラと行ってくるからいいよとはいえない。そんなわけで俺たちは今漁港に向かっている。
さすがに自転車では厳しい山道は、ポッパーさんにおんぶしてもらっている。自転車を収納し、歩いていこうとしたのだが、ポッパーさんがしゃがんで乗れという姿勢でこちらを見ているのだ。そんなポッパーさんをスルーすることは俺にはできない。
だから今、俺はポッパーさんの背に乗り、俺の背にあるマジックバックの上にはトラが丸くなっている。ブレーメンの音楽隊みたいだ。しかし、俺たちは船を奪いにはいかない。ちゃんと作るからな。
漁港についた、これから船を作らなければいけない。船について全く知識はないが、船釣りは経験済みだ。だいたいなんとなくだが、船のことは分かる。ただ、問題なのは無駄に増えた人数を収納するためにちょっと大きな船が必要になってしまったことだ。
さすがに自転車の時のように、俺が船に乗るから男性陣は泳いできてね、なんていえない。陸と違っておぼれちゃったら大惨事だ。
俺は船釣りでもキャストがしたい。前の世界の船はキャストできるスペースが船の先端くらいだったからな。キャストできそうな船といえば和船だろう。乗組員はたくさんいる、オールで漕いでもらえば進めるし、和船なら潜り漁も可能になりそうだ。よし! 木材はたくさんある! ちゃんと倒れた状態で収納したから大丈夫なはずだ!
俺はイメージを固めて和船をクラフトした。
うん、なかなかいい感じにできたと思う。ただ、俺のイメージがたくさん人が増えちゃったというのに引っ張られたのかかなり大きめな和船になってしまった……これは、オールで進める代物なのだろうか?
ひとまずオールもクラフトし、紅のナイフメンバーに船を水上まで移動してもらった。
当たり前だが船は浮いた。いや、浮かないと困るんだけどね……あとは、遠くまで行ってから沈まれても困るから今日は近場で釣りをしたい。昨日、漁の結果を見ると根魚類がいなかったように見える。漁の特性上獲りづらいのか? それともいないのか、わからないのでタイラバ釣りに挑戦したい。
出港したのだが、なかなか進まない。やはりオールで漕ぐのは難易度が高かったらしい。みんなばらばらに漕ぐせいでくるくる回る。大丈夫? 俺船酔いすぐしちゃうからこのままだと酔うんだけど?
しかたがないので、いったんストップ! 俺は鉄貨と銅貨を取り出して、スクリューをクラフトした。
最初からこうしておけばよかったのだ。俺は今、海をすいすい進んでいる。
俺が作ってスクリューは手回し式だ。ミンサーのように手回しするとスクリューが回転するようになっている。これのすごいところは、反対回しをするとバックができるのだ! なんて画期的なんだろう。
運が良いことに、船内にはオーラが使えるパワータイプが数人いる。というか、俺以外はみんな身体強化マシマシのメンバーなのだ。疲れたら代わりばんこに回転してもらえばいいだろう。
ちなみに旋回は、オールを旋回したい方向に突っ込めばよい。こちらもパワータイプがいるから余裕だった。ただ、一回目いきなりオールを突っ込んだら船が急旋回して、危うく転覆しかけたので2回目からはスクリューを止め、オールも徐々に入れて調整することにした。
異世界はパワーで結構なんでも解決する、しかし脳筋気味にやるとこんな失敗もあるわけだ。
やはりやってみないとわからないことはたくさんあるもんだな。




