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118.しゃぶしゃぶ

「シャッドさーん、新しい食材がありました! 一緒に食べましょう!」


 俺は今、厨房で料理を作っているシャッドさんに声をかけている。今日の晩御飯は漁師さんからたくさんもらってきたカニがある。それに俺が釣ったタコもある。

 いや、もうすでにシャッドさんが夜ご飯の仕込みをしているだろう……その一品にカニとタコを使用するのだ。


「それは……マスターから見るとすべてが食材なんですね」


 シャッドさんがカニとタコを見て困っている。この世界では食べる習慣がないものなのだろう。そういえばエビも食べてなかったもんな。あの大きなエビを食べてないなんて、この世界の人は絶対損していると思う。いや、この世界に神様がいるのなら、俺がたくさん食べれるようにしておいてくれたのかもしれない。


 俺はこれ以上お腹が出ないように節制すると心に誓っているから、そんな罠には引っかからないけどな! 神様の言うとおりにして、おじさんまっしぐらになんてならない。


 俺は鍋に昆布汁……この世界ではうまい汁と言っていたんだったな、うまい汁を入れて温めた。うまい汁はものすごく大活躍している。味噌汁にも使えるし、なんだかんだで使い道がある。昆布の乱獲で海底がはげないか心配していたが、謎の土オーラのおかげで今のところ問題はない。


 次に俺は小麦粉・卵・牛乳とうまい汁を混ぜて生地を作った。

 そう、タコと言ったらたこ焼きだ。タコ焼きを作らなければならない! 牛乳と卵はサラさんからもらったので確保できた。肉を食べるのはちょっと気が引けるが、卵なら大丈夫だ、ほんと気分の問題なのだが……


 鶏のエサには貝殻を粉々にして混ぜ、カルシウムを多めに摂らせている。鶏に貝殻を食べさせると卵を毎日産むようになると聞いたことがあったので実践したら、めっちゃ産むようになりびっくりした。貝殻を消化吸収できる鶏のお腹ってすげーなって改めて思った。


 俺のお腹は見かけはまだほんのちょっと立派だが、さすがに貝殻を食ったらポカリエスの出番になるかもしれない……食べないけど。


 生地は作った、あとは具材をどうするかだ……

 タコ焼きと言えば、紅ショウガ・長ネギ・天かす辺りだろうか? うん、全部ない!

 天かすは作れそうだからやるとして……今回はシンプルに行こう! そもそも、ソースもないから醤油か……おいしくできるのだろうか?


 そして忘れちゃいけないのが鉄板である、これがないと丸く作れない。

 俺は鉄貨とちょっとだけ銅貨を混ぜてクラフトした。なんか微妙に丸の大きさがまちまちのタコ焼き用の鉄板ができてしまったが、別に売り物にしないんだしこれでいいだろう。

 あとは串はクラフトできるとして、油をひくやつ……あれの正式名称は何だ? よくわからないけど、油をひく奴は今のところない。先の毛みたいなところの材料もないしクラフトもできないのできれいな布で引くことにしよう。




 現在、食後の時間になった。本日の晩御飯もおいしかった、シャッドさんの作る料理はすごくおいしい。だんだん、あっちの世界の食事と変わらないくらいおいしくなってきている気がする。


 ちなみにクランハウスの食堂はエスポワールのメンバーが毎回そろう。正確にはカイリさん一家は宿にいるのでいなくて、エスポワールメンバーじゃないけど、秘書候補のサラさんと一緒に来たエヴァさんはクランハウスに住んでいる。もちろんドラッシェン様もまだいる……というかすでに馴染んでいる。


 他のメンバーは各自自分の家で食べたり、もう一つ新たに作った大食堂で食べたりしているようだ。大食堂の方は、カイリさんとシャッドさんが見習い料理人さんに教育を行いながら数を作って勉強中ということだ。


「実は今日、新しい食材を見つけたので皆さんに試食してもらいたいのです。ちょっと準備しますね!」


 俺はさっそくカニしゃぶとタコ焼きの準備をした。


 まずはカニしゃぶだ、こっちは特に用意するものがなかったので簡単だ。うまい汁を温めるだけでいい。しかしここにきて問題が起こった! カニをさばくのが面倒だ……

 そうなのだ、カニをさばくのが非常にめんどくさいのだ。シャッドさんはカニを扱ったことがないと思うし、俺がナイフでカニをさばいたら、間違いなく食べる部分がなくなるだろう。


 仕方がないので、伝家の宝刀クラフトでハサミを作成した。宝刀なのに刀じゃなくてハサミなのがミソだ。あぁ、カニみそ早く食べたい。


「あの……マスター……それは?」


 サラさんがなにやらハサミを気にしている。もしかしてハサミってまだこの世界にない道具?


「これはハサミと言って切る道具です。はさんで切るんで比較的安全な道具ですね。まぁ、刃物なので使い方を間違えると大けがしちゃいますけどね」


 話しながら俺はカニの足をちぎり、ハサミで縦に切れ込みを入れて切っていく。


「そのハサミすごいですね! そんなに簡単に切れるなんてすごく便利です!」


 カニを切っている俺を見てシャッドさんが話しかけてきた。


「あとで、数個作っておくので使ってみてください」


「私も薬草を切るのに便利そうなので使ってみたいですね」


 クランクさんも気になったらしいので「りょうかーい」と伝えておいた。


 カニというものはどうしてこうも集中してしまうのだろう。現在のクラン内の食堂はシーンと静まり返り、チョキチョキパチンという音だけが響いている。

 だんだんカニを切るのがめんどくさくなった俺は、人数分のハサミをクラフトし、みんなに預けた。そこからみんなでカニさばき大会だ! 最初は使い方とか、コツとかを話しながらやっていたのでワイワイやっていたのだが、徐々に会話がなくなり、最終的に無言でもくもくやりだした。


 ちょっとこのままいくと食べる前に朝になってしまうかもしれない……捨てるって言われたからカニは大量にあるのだ! キリが良いところでやめないと、大変なことになる!


「量もそれなりにできたので食べましょう。この温めたうまい汁にカニの身を、しゃーぶ、しゃーぶと付けたら出来上がりです。まずはそのまま。味が足りなかったらしょうゆでもつけてください。それではお先にいただきます」


 異世界初のカニだ! いうあ、あっちの世界でもカニなんてここ数年食べてない。カニは値段の割に食べる部分が少ないので子供が産まれてからは食べる予定がなかったのだ。

 そして、異世界のカニもカニだった。やはりカニはうまい!


 カニがなくなるまで、またしても食堂に沈黙が続いた。どうしてカニはこんなに静かになるのだろう? みんなしゃぶしゃぶして黙々と食べている。もしかして、俺が最初カニを食べたとき、無言で頷いてみんなに食べるように促したのが良くなかったのか? カニは無言で食べるものだと思われたのかもしれない……


「みなさん、カニはおしゃべりしながら食べてもいいんですよ。すっごく静かですけど大丈夫ですか?」


「おぉ! うますぎて話すの忘れていた!」


 ポッパーさんが反応した。どうやらおいしくて話す前に次のカニを食べていたようだ。

 カニは無言の儀式だと思われてないようでよかった。

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