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115.待ち時間の潰し方

 俺は今、漁港の桟橋にいる。


 ベイツの街の漁港は両脇が山に挟まれたワンド状になっていた。ワンドとは、釣り用語で内側にえぐれている形状のことをいう。

 前に海底の変化を魚は好むといったが、別に魚は海底だけの地形の変化を好んでいるわけではない、このように内側にえぐれている地形だったり、逆に出っ張っていたりする場所も好むので、絶好の釣りポイントだったりする。


 なので漁港というのは釣りポイントになりやすいのだが、ここは漁師さんの仕事場なのだ。なので、昔は漁師さんのご厚意で釣りをさせてもらえたが、近年、釣りのマナーが悪く、釣り禁止の漁港が増えてきている。マナーといっても、ゴミを捨てて行ったり、船を固定しているロープに針を引っかけていられたり様々だ。

 釣り人たちが、自分たちで釣りができるポイントを壊していっているのを見ると複雑な気分になる。


 しかし俺は今、異世界にいる!

 異世界で釣りを嗜んでいるのは今のところ俺一人である。もしかしたら、釣り好きさんは探せばいるのかもしれないが、今のところ見たことがないので、俺がマナーに気を付ければ釣り禁になることはないだろう。


 さて、今回の釣り場は桟橋だ。今ある釣り道具で何を釣ることができるか……

 あっちの世界なら、根魚、アジ、イカなどがある、あ、季節が合えばサバだったり、サヨリなんかもいたな。とにかくいろんなものが釣れるのだ。たまに大物が掛かることもあったりして、釣り人がたくさんいたな。



 しばらく周りを見回し、俺はオフショアロッドにエギを取り付けた。

 エギの先端側にはさらに重りを追加し、桟橋の柱にそーっと垂らして上下に誘う。エギというものはイカを釣るのに使用するルアーなのだが、別にイカだけが釣れるわけではない。

 普通に魚も食ってくるし、なんかわけがわからないあたりに遭遇することだってある。ただ、エギの針の部分のカンナは、フック上になってないので魚の口などにかかってもすぐ外れてしまうので釣りあげることができないだけだ。


 今回は、この重りを付けたエギでタコを狙う!

 釣り用語でいうと、オクトパッシングと言う……言うよね? まぁ、タコ釣りだ。アジング、ジギングとルアーを使った釣りには『ング』を付けたがるが、一体なんでなんだろう? 難しいことは考えないでおこう。


 3本目くらいの桟橋の柱で当たりがあった! 当たりといってもグッと重くなるのだが、重くなったところで合わせた。あどはグリグリと巻き上げるのだ! 相手が狙い通りタコだった場合、柱や海底の石などにくっつくと面倒なことになる。ひどいと30分くらいタコが動くまで何もせずに待機しなければならない場合もある。そんなに待つのはゴメンなのでとにかく巻き上げなければならない!


 そして上がってきたのは予想通りタコだった。まぁまぁのサイズだ! 今まで異世界の魚はかなり大型だったが、タコは地球で見るのとたいして大きさは変わらなかった。もしかしてタコの子供を釣ってしまったかな? でも、十分食べれる大きさなので確保しておこう。


 タコはぬめりが強いので、食べる前に下処理が必要だ。今はそんな暇はないので、イカと同様に眉間の急所にナイフを突き刺して締めた。そして動かなくなったタコをマジックバックに入れた。


 それから俺は桟橋の柱中心に攻め続け、6匹のタコを釣った。大きさは全部同じような感じだったので、異世界のタコは普通のタコだということが分かった。いや、もしかしたら遠海にはもっと大きなタコもいるかもしれない……決断するのは早い。




 タコ釣りを辞めたが、いまだに漁師さんが帰ってこない。さっきの女性はもうすぐ帰ってって言ってなかっただろうか? 人によってもうすぐという基準は違うものだからな……


 そういえば、時間に必ず遅れてくる人と知り合ったことがある。遅れるといっても数分とかのレベルじゃなく、数時間レベルで遅れてくるのだ。当時はまだ携帯が普及していなかったので、待ち合わせ場所で延々と待たなければいけない状況になり、大変な思いをした。

 毎回毎回数時間待たなければいけないのが苦痛になり、その人との縁はなくなってしまったが、彼は今何をしているのだろう? 朝9時約束なのに、お昼過ぎに来るのは遅れるという言葉で片付けられないと思う。


 まぁ、今回は約束をしてきたわけではない、気長に待つしかないだろう。

 せっかくだからタコの下処理をしよう、タコはとにかくぬめりが強い。だからこのぬめりを取らなければいけないわけだが、大きなタコを手でぬめり取りをしていたのでは埒が明かない。そこで出番があるのが洗濯機。よくタコを処理するお宅には、タコ専用の洗濯機があるという話を聞いたことがある。

 でも、今は洗濯機はない。ならどうするか? 俺は海水を汲んだ桶をもって岩肌が見える山辺に向かった。あとは、タコに塩をすり込んでから岩肌へ、タコをベチーン、ベチーンと叩きつけた。


 何気に重労働だ。タコは異世界サイズじゃなかったといっても、タコはそれなりに大きいし重い。何回も叩きつけるのは骨が折れる。タコには骨はないが……

 ちょっと身体強化しちゃおうかなと考えもよぎったが、俺は身体強化を使ってシーサーペントを爆散させた男だ。シーサーペントが爆散するならタコなんてどうなるかわからない、やらないほうが無難だろう。


 とにかくこういう単調作業は無心になるのが一番だ。


 ベシーン


 ベシーン


 ベシーン……


 延々とタコを岩肌に叩きつける俺、そしてだんだんタコが軟かくなってきたので桶に組んだ海水で洗おうかと後ろを向いたときに話しかけられた。


「なぁ、さっきから何やってるんだ? そんなにイライラしているのなら、獲ってきた魚でも食うか?」

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