114.船
芋汁を食べてお腹が膨れたのでサーフに向かった。
そういえば俺のお腹はちょっとポッコリ程度になったのだ。やはり毎日動いているのが良かったのだろう。食べ過ぎるとお腹が出っ張るが、それは太っているわけではない、胃が大きくなって出ているように見えるだけだ! お腹をへこませばずっごく凹むんだから大丈夫だ。
今日の狙いはタケダだ。
昨日大遠投したらドラゴンが釣れてしまったからな、たまたま知り合いでよかったが、次は知り合いでない可能性が高い。というか、海の奥に知り合いなんていない! きっと碌なことにならないだろう。
だから今日はおとなしくタケダを釣るのだ。タケダも、おいしいし、引きも抜群だ。魚種的には不満はないのだ、ただ無性に大遠投してみたくなったし、もしかしたら遠海のほうにはマグロとかカツオみたいな回遊魚もいるんじゃないかと思っただけなのだ。ドラゴンなんか釣れるなよ!
今日もタケダは爆釣だ。もう少ししたらキスの時期になるだろう。そうなったら秋までタケダともバイバイしなければならない。寂しいが、キスもうまいし、俺にはイッテというアジっぽい魚を釣れるポイントもある。今年はキスばっかり釣って飽きることはないだろう
しばらくタケダを釣っていたら、ふと思い出したことがある。
そういえばベイツの街には船着き場があったはずだ……うろ覚えなのだが、ベイツの街に来た時に船が見えていた気がする。あの時は水は踏めば固くなり、それを踏み台にして飛べば移動が可能だという、俺理論が異世界で通用してハイになっていたからか、うっかり忘れてしまっていた。
船があるのなら、船に乗せてもらえば遠海で釣りをするのも可能になるじゃないか!
俺にはオフショアの竿にタイラバだってある、今年は船釣りに挑戦するのもいいな……問題があるとすれば、俺が船酔いしやすいってことくらいか。
俺は船釣りも嗜んでいた。
知り合いに船を持っている人がいたので、一緒に乗せてもらって楽しんでいた。ただ、楽しいのは最初だけで、船に乗って30分もせずに、もうげろげろげーになっちゃうのだ。もう、海にまき餌しまくりながら釣りをするのだが、もちろんそんなまき餌に効果はない。
でも、凪の時だけは俺の心も凪になり酔わない、この世界の海は都合のいいことに穏やかな時が非常に多い。きっと船釣りも楽しめるだろう。ということは、さっそく船を用意しなければならない! いつでも船釣りができるようにするには自分の船が必要だ。
船に乗せてもらえば船釣りができるなんて思っていたが、前言撤回する! 俺の船を操ってくれる人を、俺の船に乗せて船釣りをするのだ! きっと探せばクランメンバーのなかに漁師さんがいるだろう。
俺は今、絶賛迷子中だ。
まさかサーフ沿いに歩いて行っても船着き場につかないとは思ってもみなかった。どうやら船着き場は町の中にあるらしい……俺はタケダを卸している知り合いの漁師さんを訪ね、場所を聞き、歩いているのだが、なかなかそれっぽいところにつかない。それどころか、山道みたいになってるんだけど大丈夫なのか? 俺は海に行きたいんだぞ? 山じゃないんだぞ? トラを先にクランハウスに帰さなければよかった……
山道を歩き、不安になり、そろそろ引き返そうかなというところで視界が開け、漁港らしきものが見えてきた。船が一隻あるし、あそこが俺がベイツに来た時に見えていた場所で間違いないだろう。
漁師さんの説明通り来たんだし、あそこが海賊の基地だったとかそういうのは絶対にないはずだ。目的地が見え、俺の重かったはずの足が羽のように軽くなった。小走りで漁港に向かう、
瞬足に履き替えた小学生……いや、裸足になって徒競走を走る小学生ばりの猛スピードで漁港についた俺は、近くの女性に声をかけた。
「すみません、俺も船が欲しいのですがここにおいても大丈夫ですか?」
「え? 船ですか?」
もしかしたらだけど……声をかける人を間違えたかもしれない。あまりにも興奮しすぎて、第一漁港人の同年代っぽい女性に直球で声がけしてしまった。
「そうなんですよ、船に乗って魚を釣りたいのです。だれか許可出せる立場の人いませんか?」
「……もう少ししたら、漁に出た旦那たちが戻ってくると思うので待っててもらえますか?」
良かった。勢いで声をかけてしまったが、お偉いさんの関係者だったようだ。
「わかりました、それまであそこら辺で釣りしてますね」
俺は女性に挨拶をすると、桟橋のほうへ歩いていき時間つぶしの釣りをした。




