113.ポッパーさんの心情
苦い顔をしながらポッパーさんが話しだした。
「マスターが言う通り、パーティーを組むのはいい。でも、こいつらは俺がケガをして動けなくなった時に助けてくれなかったんだ」
あぁ、ポッパーさんは王都で身体が不自由になり、食うのに困る状態まで追い込まれていたな。
「違うわ! 私たちはあなたが生活できるようにダンジョンに潜ったの! 報酬をあなたにも分配するってみんなで話していたのよ!」
「そう、エメさんと息子ちゃんも居たでしょ? 息子ちゃんが成人するまででもって……」
「そうだぜ! 気合入れてダンジョンに潜ったのに戻ってみれば一家揃ってもぬけの殻だ。心配してたんだからな!」
シンカーさんと一緒にいた三人が、堰を切ったように話してきた。男性がブラスさん、女性がティックさん、バレットさんだったはずだ。ちょっと、どっちがティックさんで、どっちがバレットさんだかわからないけど……サラさんかスピナさんが欲しい、いや、秘書なのだからサラさんカモーン!
「いや……ほんとあの時はかなり切羽詰まった状態だったんだ。せめてそう言ってからダンジョンに行ってくれたらよかったのに」
「いや! ポッパーさんはあの時、俺たちの考えを受け入れないだろう。俺たちをかばってケガをしたのに、俺たちを責めもしなかったあんたが受け入れたとは思えないな!」
シンカーさんが熱くなっている。喧嘩にならないよね? 俺はみんなと違ってムキムキじゃないし、争いごとには不向きだからね。
「たしかに……受け入れなかったかもしれない。俺も不自由なってもなんとかできるとおもってギルドに掛け合っていたからな。まぁ、それも甘い考えだったと後から後悔した」
「ポッパーさんはギルドで、なんでもいいから仕事をしたいって言ってましたもんね。俺はそんなに仕事をやりたいと熱心な人が、どんな人なのかなって気になっちゃって……ふふ」
やばい、ちょっと本心がでてしまいそうだ。当時はなんか面白そうなことが起こってるなぁ、なんて思いながら、並んでいた列から抜けてポッパーさんを待っていたんだった。
「あぁ、そうだったな。あそこで俺が怒鳴ってなかったらマスターと知り合えなかったのか……」
確かに、あそこで目立ってなかったらカイリさんが気付かない限り、接点はなかっただろう。もしかしたら健康でダンジョンに行っていたら会うこともなかったのか。
「だとしたらポッパーさんが困窮して困っていたのは、俺に合うために必要だったんですね。俺に合わなかったら、これから立場の弱い人たちを助けたいという、今の目標を持つこともなかったでしょう」
普通に冒険者をしていたら自分の生活だけしか考えることはないだろう。クランにとってポッパーさんは重要な人だと俺は考えているけど、ポッパーさんはどう思っているんだろうね。
「……そうか。なぁ、俺には今大きな目標があるんだ。それは生涯続けていても終わらない目標だ。しかも、冒険者として名が挙がることはないだろう。パーティーを組むとしたら俺の目標に向かって一緒に行ってくれるメンバーだけだ。『紅の剣』はシンカーさんがリーダーだったが、俺がリーダーをする」
シンカーさん達はポッパーさんをしっかりみながら話を聞いている。まぁ、これで嫌だったらクランの中に4人の『紅の剣』を在籍させればいいだろう。問題ない。
「要するに……パーティーには入らない! パーティーに入ってくれないか?」
だよね、ポッパーさんならそういうよね。
「俺は今、息子と一緒にダンジョンでブルーブルを狩っている。そこで得た肉を使った芋汁を国中で広める計画を全面的に支えているんだ。それを考えたのが、成人したばかりのシャッドさんって言うやつでな……誰でも安い金でうまい飯が食えるようにしたいんだってよ!」
そうなのだ、シャッドさんはすごいよね。最初は芋汁が大好きな料理人見習いだと思っていたのに、こんなに大きな目標を考えるんだからすごいよね。俺が口を滑らしたからじゃないんだからね!
俺はポッパーさんの横で、うんうんと頷く……あ、芋汁が出てきた!
「俺も金がなくて、うまいものどころか食い物すら買えない時があってわかった。腹が膨れれば活力ができる、活力がでてくれば希望ができる。希望があれば今の俺みたいに目標ができる! シャッドさんの考えに乗った形だが、これは俺にしかできないと思っている。だから俺と一緒に、俺の目標を助けてくれないか?」
芋汁をふーふーしながら、俺は芋汁よりも熱いポッパーさんの勧誘を聞いた。あちっ! やっぱり芋汁の方が熱いかもしれない。
「どうだろうみんな? ポッパーさんのやりたいことに協力すれば名は売れないらしいが……人を救えることができるようだぞ?」
シンカーさんが口火を切った。
「私はやるわ! 私はひと家族すら守れなかった。でも、ポッパーさんの目標を手伝えば、ポッパーさんが守りたい人を守れるんだよね? ということは、結果的に沢山の人を守れるんでしょ? 悪いけど、『紅の剣』は辞めるわね!」
「私も! 名声なんていらない! エメさんや息子ちゃんも元気だったし、息子ちゃんもパーティーに入るんでしょ? 私はそこでみんなを守るの! 私もパーティー抜けるね」
ちょっと、ほんとにティックさんとバレットさんの区別がつかなくて困っている。ひとまず芋汁を食べながら頷いておこう……冒険者ギルドの芋汁もうまいじゃん! これは売れるな!
「ポッパーさんはAランクに上がったと聞いた。ここに居れば皆を守りながら強くなれる。強ければ食事以外でも役立てるときは来るかもしれない……あと、ポッパーさんと一緒に活動したい。元気になっていてよかった。というわけで、俺も抜ける」
ブラスさんも賛成みたいね、ブラスさんが一番若く見える、ポッパーさんに懐いていたのかもしれないな。ポッパーさんは面倒見がいいからなぁ。
「困っちゃったなぁ、パーティーメンバーが居なくなってしまった……ポッパーさん、悪いけど俺も仲間に入れてくれないか? 俺も国中の困ってる人を助けたいし、何より君を助けたいんだ。助けるのが遅れてしまったが……よろしく頼む!」
芋汁おいしかった! そしてなんだかうまいこと行きそうな気がする。ここで俺が何か言うのも野暮だろう。
「ごちそうさまでした。それでは、グランディール所属の新パーティー名を考えておいてくださいね。トラも待っていると思いますしお先しますねー」
俺はギルド食堂を後にした。
トラは入り口で、エリーさんからおやつをもらっていた……




