109.超ロングキャスト!
「おりゃ~~~~!」
おもいっきりフルキャストしたジグはものすごいスピードですっ飛んで行った。
というか、キャスト終わったのに未だにラインがスプールから出続けているのはどうしたものか……
これはどっかでラインを止めないとダメなのか? でも、すごい勢いで出ているラインに指を入れたくないな、指がもげてしまったら大変なことになる。ポカリエスは持っているけど、わざわざ痛い思いはしたくない。
ひとまずラインが出なくなるまで待とう……
数分は待っただろうか、ラインが止まった。どれリールを巻こうかなと思った瞬間、目の前に龍が現れた。
「我に攻撃してくるのは誰かと思ったがアタルか……」
目の前には黒い龍……俺の名前を知っているということはドラッシェン様だろう。
「まさか龍が釣れてしまうとは……」
「我の縄張りに急接近してくるものがあったからな。どんな奴なのか顔を見に来たのだ。ほれ、これはお前の『釣り具』だろう」
ドラッシェン様はルアーを掴んでここまで持ってきたらしい、というかどんだけのスピードで来たんだ? やっぱり転移魔法とかあるのかな?
「ありがとうございます。まさかドラッシェン様の島まで行ってるとは思いませんでした」
「気にするな、アタルのことも気になっていたし丁度良い」
いや、気にするのはこっちなんですけどね……
「ドラッシェン様、申し訳ありませんが人型になってもらえますか? 誰かに見られたら大騒ぎになるので……」
「うむ!」
うむ! じゃないっての!
ドラッシェン様はいつものハーパンアロハシャツのイケメンに変化した。よし、これなら大丈夫だろう。街の方で大騒ぎになってないといいけど……
「せっかくなので俺が生活している街を見て行きますか? あ、クランを作ったのですがみんなの名前を『さん』付けで呼ぶ決まりを作ったんです。俺がクランマスターなんですよ! すごいでしょ?」
「そうか、楽しんでいるようで何よりだ!」
ドラッシェン様は満足そうにしている。
そして俺は何も釣れてないのに、街に帰らなければいけない気がして満足できていない……
「そういうわけで、街の皆にはドラッシェン様も『さん』付けで呼びますけど大丈夫ですか?」
「うむ、大丈夫だ! この名前はアタルが付けた名前だしな。好きに呼ぶがいい」
あぁ、そういえば俺がじいちゃんの勘違いからつけられた名前を訂正していたんだったな。
「それでは街では呼びやすく『シェンさん』と呼びますね。」
俺は今、クランハウスに帰ってきた。
クランハウスには色とりどりのオーラ全開で武装したメンバーが集まっていた。ドラッシェン様は見られていたかもしれない……
「マスター無事だったか! マスターが釣りをしている辺りにでかいドラゴンが見えた! 襲われなかったか?」
ポッパーさんが声をかけてきた。
奥の方には青いオーラ全開で走ってきている人がいる……多分カイリさんだろう。
「すみません、超ロングキャストをしたらドラゴンが釣れちゃいまして……帰ってもらったので大丈夫です。皆さん解散しても大丈夫ですよー」
俺はできるだけ、できるだけ大事にならないように説明した。
「……ところで後ろのお方はどなたですか?」
白いオーラ全開のスピナさんが声をかけてきた。地震を鳴らさなかったのは偉い! さすがスピナさん!
「紹介しますね! こちらはシェンさん。んーと、俺のお父さんみたいな人ですね! 帰り道にたまたま会ったんで街に招待しました」
「「「「……」」」」
全員が黙った。そりゃあそうか。ドラッシェン様の見た目は俺より若い。なのにお父さんって意味が分からないだろう!
「おーい! マスターは無事か! 磯場の方にドラゴンが出たって聞いて青ざめたぞ!」
カイリさんはいつでもオーラを出すと青いよ……だから今も青いよ。
「大丈夫ですよ。カイリさん、お客さんです。美味しい料理をお願いしてもいいですか?」
「お、誰だ? すごく強そうだな!」
カイリさんの第一印象は強そうか弱そうなのか? そういう志向するのはポッパーさんだと思ってたよ。
「マスターのお父様だそうだ。マスターがあれなんだから強いに決まっているだろう」
あ、ポッパーさんも強いか弱いか判断してたのね!
「シェンだ、アタルが世話になっているな。これからもよろしく頼む!」
「承知いたしました!」
スピナさんが大きな声で返事をし、片膝をついて頭を下げた。
続いて他のメンバーも片膝をついて頭を下げた……
え、もしかして正体ばれちゃってる?




