06 魔法はありませんが呪いはあります
ずいぶん間が空きましたが、こちらの話も再開します。
勝手に呼び出しておいて、人を「役立たず」呼ばわりするとは。
「リーアさんは失礼極まりない!」
「ええ?」
怪訝そうに形のいい眉をひそめる。
濡れた髪を掻き上げながらこちらを見る仕草はとってもセクシーだ。しかし、色仕掛けなんかしても無駄だ。わたしは女だし、本人もそのつもりは微塵もないだろうけどさ。無意識の色仕掛けが、この人の暴言を許して来たんじゃないかな。
兎に角、言われっぱなしでいてたまるか!!
「勝手に呼び出しておいてなんですか! 魔法が使えないから役立たず? わたしの世界では魔法が使えないのが普通なんです! そんな魔法という概念がほぼ二次元でしか存在しない世界から、わたしを呼び出しちゃったのは誰ですか?! リーアさんの方がよっぽど役立たずです!」
「な、なんですって!?」
アーモンド形をした綺麗な目がつり上がる。美人は怒っても美人だ。年増だけど。
「リーアさん、わたしが魔法を使えないこと、あのお爺さんとチビっ子に隠したいんですよね?」
ぴくり、と形の良い眉が動く。
うん、リーアさん凄くわかりやすい人だ。
「殿下に対して不敬な口の聞き方は慎みなさい」
「殿下?」
途端、しまったという表情になる。リーアさんは、あの子の身分を隠しておきたかったらしい。
どうやらあのチビっ子……レーヴィットさまだっけ? 身分が高そうだとは思っていたけど、殿下ってことは。
「もしかして、王子さまですか?」
「……くっ」
図星だ。
「へええ、あの子って王子さまなんだ」
だからあの偉そうな態度。納得だけど、可愛げはない。
「だから! 口を慎みなさい! 今後は殿下とお呼びするように」
「はいはい」
「『はい』は1回でよろしい!」
「はい!」
リーアさん、結構口うるさい。
「取り敢えず殿下のことは、置いといてですね。状況を整理しましょう。わたしはレー……殿下の呪いとやらを解く存在として召喚されたんですよね?」
「ど、どうしてそれを……!」
リーアさんは焦っているけど、普通にお爺さんたちと話していたじゃないですか。それにですね、こっちは魔法少女志望なんだから、異世界召喚なんて願ったり叶ったりな状況なんです。
ラノベを読みながら、自分だったらこういう時どうするって色々考えていたのだから、適応力があるのは当然です。
「リーアさんたちは、殿下の呪いを解きたい。だから呪いを解くことができる人を召喚しようとした。でも出てきたのは、魔法が使えない小娘だった。これは失敗だと焦ったリーアさんは、失敗がバレないように工作しようと、わたしを連れ出した……ってことで間違いないですよね?」
「……間違いないわ」
青ざめたリーアさんは、茫然自失状態だ。
よかった。ほぼ予想どおりだ。でも、リーアさんは失敗を隠すために、どんな工作をするつもりだったろう? 考えると少し怖い。
ここは……少しでも優位な状態に持っていかないといけない。命に関わる可能性は大なのだから。可愛いとか美人とか、コミュ力が最強とか、特殊能力でもないと、異世界からきた人間の末路は悲惨である。そう、本来モブキャラは異世界なんかに行っちゃいけないのです。
わたしが神として崇めるラノベでも、うっかり巻き込まれて召喚されてしまう凡人もいる。
わたしはそんな、うっかり要員。悲しいくらいに凡人だ。しかも、暗黒の高校受験から抜け出し、リアルで充実した高校生活を送る予定だったのに、陰で「魔法少女」と呼ばれている痛い奴だ。
そんなほぼ平均的なわたしが異世界で生き残るには、強気でいくしかない。そして、この世界で生きる術を手に入れる。
「わたしの世界には魔法は存在しませんが、呪いは古くから存在しています」
「では、お前も呪いを使えるとでも?」
「はい、もちろんです」
ま、おまじないレベルですけどね!
でもハッタリは必要だ。例えそれが少女漫画のおまけで付いていた、おまじないブックだとしても、おまじないはおまじないだ。
このハッタリは効き目があったようで、リーアさんはこの話題に喰らい付いてきた。
「では……殿下に掛けられた呪いを解くことができるというのか?」
解けるわけがない。でも、正直に言えるわけもない。
「その前に、呪いを解くには必要な情報があります」
たしか、呪いを掛けた相手を知らないと解けない……と何かで読んだ。これまでのなけなしの知識を寄せ集めて、いかにもって感じで答えることが今は必要。
「まず呪いを掛けた相手。そしてどのような呪いなのか。最低限、これらの情報が必要です」
さあ、どう答えが返ってくる?
彼女が素直に答えてくれるかどうか……。
「何をバカなことを。そのくらい読めないようでは、本当に呪いが解けるとは思えないわ」
リーアさんは、目をさらにキリキリと吊り上げる。
あーやっぱりダメかあ。困ったなあ。こうなったら童話的呪いの解呪法しか残っていないぞ。
何となく、この人は内輪事情を話したがらないだろと思っていた。さて、どうしようかな……と思った直後だった。
部屋のドアが大きく開いた。わたしとリーアさんは、音がしたドアの方へと一斉に目を向ける。
「リーア。教えってやったらどうだ?」
幼い少年の声が、室内に朗々と響く。
突然部屋に突入してきたのは、さっき魔方陣のところにいた男の子だ。
レーヴィットさまだ!




