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魔力ゼロの最強魔術師〜やはりお前らの魔術理論は間違っているんだが?〜【書籍化決定】  作者: 北川ニキタ
第二部

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50/89

―50― 誰?

「あっ、おはようございます、アベルくん」


 教室に入ると、ミレイアが僕のとこに駆けて来て、挨拶をする。


「あぁ、おはよう」

「その、アントローポスちゃんはどうしているんですか?」


 ミレイアは他の生徒に聞かれないよう小声で問うてきた。


「部屋で大人しくしている」


 そう答えると、ミレイアは安心しきったような表情をする。

 自分を陥れた存在の心配をするなんて、お人好しなんだろうな。

 それから俺は席に座ろうと教室を見渡す。

 座る場所は特に決められていなかったので、どこでもよかったはず。

 だから、近い席を選んで座る。


「僕の隣にわざわざ座るなんて、なにかの当てつけかい?」


 ふと、隣に目をやると、男子生徒がすでに座っていた。

 口ぶりからして、俺のことを知ってはいるようだが、はてさて……誰だ、こいつ?


「えっと、どちら様でしたっけ?」


 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥というからな。俺は正直に聞くことにした。


「クラス戦で戦った僕のことを忘れたのかよ!」


 なぜかその男は立ち上がって叫びだした。

 近くで大声を出すなよ。うるさいだろ。

 にしても、クラス戦で戦った生徒のうちの一人か。だが、クラス戦には多数の生徒が参戦していたからな。

 正直、ほとんどの顔を覚えていない。


「すまない、悪いが覚えていない」

「くっ……ホントに腹が立つ男だな」


 男は苦虫を噛み潰したような表情をしながら席に座り直す。


「チーム戦にて、他のチームと手を組んでお前らを追い詰める作戦の指揮したのが、この僕だ」


 あぁ、そういえば、チーム戦の際、俺たちに啖呵を切っていた生徒がいた。

 その生徒が、まさしく今、隣の席に座っているこいつなんだろう。やっと、過去の記憶と一致したな。


「にしても、君にしてやられるとはね。油断していたよ」

「ん? なんで俺なんだ?」


 そんなことを言われる心当たりはないんだが。


「隠しても無駄だよ。君、毒ガス使いなんだろ? それで、僕たち全員を気絶させたんだ」


 あー、なるほど。

 チーム戦の結末は、俺のチーム以外の生徒は謎の原因による気絶で敗退ということになっていた。

 実際、アントローポスによる〈霊域解放〉によるものだが、どうやら俺が撒いた毒ガスによって気絶させられたと思いこんでいるようだ。

 それに、受験時の試合で、俺は〈気流操作(プレイション・エア)〉により相手を窒息させることを多用していたのも、俺が毒ガスを使っていると思われていたらしいし、その2つが結びついた結果生まれた誤解だろう。


「それはどうだかな……」


 肯定も否定もどちらもしないほうがいいと思い、曖昧に誤魔化すことにする。


「ふんっ、誤魔化しても無駄だ。次はお前を倒すからな。覚えていろよ」

「まぁ、楽しみにしておく」


 次、戦うときがいつになるかはわからないが、もしクラス対抗試合で戦うことになったら、それは負けるわけにいかないから、勝たせてもらうけどな。


「てか、散々話しておいてなんだが……お前の名前聞いてもいいか?」

「そうか、自己紹介はまだだったな。ユレン・デルガルドだ。忘れるなよ」

「そうか。俺の名前は――」

「アベルだろ。知っているよ」

「そうか」


 どうやら、俺の名前はすでに知っているようだ。





「チーム戦が終わって早々で悪いが、次に行われる試合の概要を今から伝えようと思う」


 このクラスの担任のセリア先生が教室に入ると、教壇に立ってそう口にした。

 生徒たちはざわめき出す。せっかくチーム戦が終わり一息ついたのに、また次の試合があるのか、とそんな会話が聞こえてくる。


「早速、お前を倒す機会がやってきたな」


 隣に座っているユレンが腕を組みながらそう口にした。俺は「そうかもな」と頷いておく。

 さて、前回のチーム戦は先生の説明を全く聞かなかったせいで、痛い目にあったからな。

 今回はちゃんと聞こう。

 なにせ、会長とかわした『血の契約』のおかげで、この試合で優勝をしないと死ぬかもしれんからな。


「次に行われる試合は『クラス対抗試合』だ」


 そう先生が言い切ると再び教室中がざわめき出す。俺は、事前に会長から聞いていたから、なんとも思わないが。


「各クラスから代表の生徒を2名選出し、計8名によるトーナメント戦が行われる。1勝するごとに評価ポイント3ポイント付与される。ちなみに、敗北した場合は1ポイントのみ減点だから、出場するメリットは非常に大きい」


 8名によるトーナメントだから、優勝するには最大3勝する必要がある。

 俺の今の評価ポイントはDクラスの初期ポイントの10ポイントに加えて、チーム戦にて2位だったため1ポイント加算されるから、合計で11ポイントあることになる。

 優勝してしまえば、合計20ポイントになるからCクラスに昇格するな。


「さらに優勝者には、特別報酬が与えられる」


 特別報酬……? 気になるな。


「優勝には、特別報酬として望みを1つ言うことができる。学院側は可能な限り、その望みに応えよう」


 マジか……。

 好きな望みを言っていいなんて、例えば、アゾット剣の研究がしたいと言えば、受け入れられるかもしれない。

 アゾット剣を研究すれば、賢者の石を生成するためのヒントが得られる可能性が高いため、なんとしてでもアゾット剣を研究したいわけだが。

 それが、クラス対抗試合を優勝することで得られると。

 俄然やる気がでてきたな。


「先生、クラスの代表者はどうやって決めるんですか?」


 隣に座っているユレンが質問をしていた。

 クラス対抗試合に出るには、代表者にならなくてはならない。そのために必要なことは、ぜひとも聞きたいところだ。


「あぁ、それは自由だ。君たちで好きに決めてくれ」


 まさに、投げやりといった感じで先生はそう口にした。


「クラス対抗試合が行われるのは、今から二週間後だ。それまでに決めておくんだ」


 それで、クラス対抗試合に関する概要は終わったのだろう。

 通常の講義へと戻っていった。





「あの先生、一つお聞きしたいことがあるんですが」


 授業の合間、俺は担任のセリア先生のところを尋ねていた。


「アベル、お前が質問とは珍しいな」


 そう言って、先生は俺のことを見る。


「その、『クラス対抗試合』の優勝者に贈られる特別報酬についてなんですが」

「それがどうかしたのか?」

「例えば、アゾット剣の研究の権利を特別報酬に指定することは可能ですか?」

「もう特別報酬のことを気にするとは、随分と早計だな」


 セレン先生は苦笑しながら、こう口にした。


「あぁ、恐らく可能だろう」

「ありがとうございます」


 俺はそう口にしてから、心の中で決意する。

 必ず『クラス対抗試合』で優勝しよう、と。




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婚約者を殺された冤罪で、ダンジョン奥地に投獄された俺は、ヤンデレ勇者がくれた〈セーブ&リセット〉のスキルで何度やり直してでも、このダンジョンを攻略して、村人全員に復讐することを誓う


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