??日目 望む未来
16日目は長野雪様よりツイッターにて、触手ランドセル幼女のイラスト(おかわり)をいただきました!
ありがとうごさいます!! 直したいところがあって、日付変わってしまってすみません!
《それにしても、機関のやつらこないものだな》
「端末を全て不能にしておいたからな。あと、移動手段が単純にない」
不思議がれば、アヤメが笑う。
俺達は竜に乗ってモンスターだらけの街を乗り越えてきたが、機関の奴らはそうもいかない。
それもそうだなと納得した。
《旅の支度もできたし、明日にはここを立とう》
ここ数日、街に繰り出しては準備をしてきた。
仁葉と真が食べるための食料や服、生活用品はすでに手に入れてある。
「そうだな。最近は雪が降る。南の方へ移動しよう」
火を焚いてあったけれど、倉庫の中はかなり冷える。
夜は尚更で、アヤメが寝ている仁葉を抱き寄せた。
アヤメは毛布でぎゅっと仁葉をくるむ。
俺は頭の上に置いてあった魔法瓶に触手を伸ばし、その中のお湯を飲んだ。
これでしばらくは、湯たんぽになれる。
仁葉はアヤメに任せて、すやすやと寝息を立てている真にくっついた。
◆◇◆
「パパ、この公園貸し切りだね!!」
《よかったな、仁葉!》
次の日の朝、竜の背に乗って移動を開始した。
途中見つけた大きな公園で、休憩をすることにする。
公園で、レジャーシートをしいて。
青空の下で食べる弁当というのは、なかなか粋なものだ。
《それにしても、この公園。【モンスター駆除済み】って端末には出てるな。機関から離れているのに、こんなところまであいつら出張してきたのか?》
「おそらく違うな。機関とは別のコミュニティーだろう。人間全員が自我を忘れて、身も心もモンスターになったわけじゃない」
疑問を口にすれば、アヤメが答えてくれる。
今日のお弁当は俺のお手製だ。
カセットコンロを使ってご飯を炊いて、おにぎりを作った。
前みたいにモンスター達がやってるスーパーがないので、おかずは釣った魚をすり身にして団子をつくり、特性のタレで味付けしたりと工夫している。
《さぁ2人とも。いっぱい食べていいからな》
おにぎりを仁葉と真に渡す。
食べ物の優先順位は、子供達からと決まっていた。
俺とアヤメはモンスターなので、人間の食べ物を食べる必要はないのだ。
「くしゅっ、パパありがとう!」
「ありがとうございます」
仁葉と真がおにぎりを受け取る。
2人とも少し鼻声なのが気になった。
仁葉にいたっては、くしゃみをしている。
《前よりも酷くなってないか? 辛くなったら言うんだぞ》
不安になれば、2人とも大丈夫だと笑顔で答えた。
たぶん、ムリしてるよな。
俺とアヤメに気遣わせないようにしてるんだろう。
モンスターだらけのこの世界に、医者はいない。
薬局で風邪薬をとってきて、2人与えてはいるのだけれど。
あまりよくなる気配がなかった。
熱はないし、一応は元気だ。
でも、ここらで大事をとったほうがいいかもしれない。
「こういうとき、不便だな。この世界は」
アヤメがぽつりと言う。
何も俺は口に出していないのに、同じことを考えていたみたいだった。
そっとアヤメの手にも、おにぎりを置く。
美味しそうにおにぎりを食べて、俺達を心配させまいとしている子供2人。
それを見ているアヤメが、何を考えているか予想はついていた。
《ただの風邪だ。すぐによくなる。もしも酷いようなら、俺が医者を探してくるよ》
「モンスターになっても自我を失っていない人間だけでも、数が限られている。その中に医者がいる確率は、どれくらいだと思う?」
直視したくない現実を、アヤメは淡々と口にする。
でも、それでも。
《もしかしたら、このままよくなるかもしれないだろ》
「子供というのは、病気や怪我をしやすいものだ。今回大丈夫でも、未来は?」
アヤメはことごとく、俺の言葉を否定してくる。
暗い顔をしていた。
《俺が守るから。お前も、皆も。だから、信じろ》
しゅるりとアヤメの腕に触手を巻き付けて、力強く言ってやる。
本当はそんな自信なんてない。
できないことだって山ほどある。
けど、不安がってたって何もいいことはない。
アヤメのことだから『この世界を元に戻そう』とか、そんな結論に辿り着いてしまいそうだ。
いや、現に今考えているんだろう。
《ずっと側にいるって、約束しただろ》
「だが」
まだアヤメは、何か言いたそうにしている。
手を握っている触手とは別の触手を、アヤメの唇に押しつけた。
《未来への不安って、尽きないよな。備えるのは大事だ。でも怯えすぎて、本来なら手放さなくていい幸せを捨てるのは……嫌なんだ》
ここでの生活は、不自由だ。
ままならないこともたくさんある。
でも今の俺は、こんな日々に幸せを感じていた。
コンビニにいけば、大抵のものは手に入る。
蛇口をひねれば水が出てくる。
今に比べればかなり満ち足りた生活。
モンスターだっていなくて、命の危険もない。
なのに、俺は昔に戻ろうとは思わない。
たとえ状況や、環境が最悪だろうと。
好きな人達がいれば――そこが俺にとって居心地のいい場所なんだ。
そう気づいた。
安心感とは無縁のこの場所で、心の安らぎを感じる。
側にいたい、守りたいと思う人がいるから、俺は頑張ろうと思える。
今までは、ただ起きて会社に行って。
それからご飯食べて寝て起きて、そしてまた朝が来ての繰り返し。
特にやりたいことがあったわけでもなく、日々を貪っていた。
頑張ることなんて面倒だ。
そう思っていたはずなのに、違っていた。
自分で気力を振り絞って、頑張らなくちゃいけないんじゃなくて。
守りたいと思えば、気力は勝手に湧いてくるものなんだと知った。
頼られることは、面倒なことじゃなくて。
甘えられている、信頼されていると思えば……嬉しくなるものだった。
変わったと、自分でも思う。
俺は昔の俺より、今の俺が好きだ。
大切にしたいものができて、欲張りになってしまった。
ここで手に入れたものを、手放すことは。
つまらない俺へと戻ることだ。
《俺は今が幸せだ。皆がいる今が、一番幸せなんだ》
「……そうか」
アヤメが俺を掴む。
俺を目線の高さまで持ち上げると、ふんわりと笑った。
「君が私や仁葉達といることを、幸せと言ってくれるのが嬉しいよ。私も同じだ」
ちゅ、と軽くアヤメがキスをしてくる。
それからぎゅっと抱きしめられた。
「……君と両思いになるまでは、ずっと苦しかったんだ。自分の幸せばかりを考えていた。君と一緒にいることが優先事項で、他は二の次だったんだ。君の気持ちさえも、後回しにしていた」
まるで蛍のように、柔らかな色でアヤメの体が光る。
内側から半透明に透けるようだった。
《アヤメ……?》
「私は今、幸せだ。人は自分が幸せだと、人の幸せを願えるようになるというけれど、本当だったんだな」
快晴だったはずの空に、黒が混じる。
まるで絵の具を垂らしたように、空がぐにゃりと歪んでいく。
「今は自分の未来より、君達の未来が愛おしい。そのための力が私にあるなら、躊躇わず使いたいと願うんだ」
《おい、アヤメ!! お前まさか!!》
空だけじゃない。
歪み始めたのは、風景まるごとだった。
アヤメは立ち上がって、俺ごと戸惑っている仁葉と真を抱き寄せた。
それから、2人の頬へとキスをする。
「君達の幸せが、私の幸せだ。自分の生よりも、君達の生を私は望むよ」
最後に「愛している」とアヤメが呟いて。
唐突に、俺の意識は途切れた。




