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13日目・深夜 ずっと側に

 眠り過ぎていたらしい。

 起きたら真夜中だった。


 思ってたより、疲れてたんだな俺。

 こういうときって、損した気分になる。

 丸1日ムダに過ごしてしまった。



 倉庫の中は薄暗く、壁には映画が映し出されている。

 女児に人気のアニメ映画で、仁葉が好きなやつだ。

 昨日は投影機なんてなかったはずなのに、発電機もいつの間にか用意されている。

 さながら、映画館のようだった。


《よぉ、起きたか。こいつらには適当に飯食わせといたから》

《あっ、悪いな。ありがとう》

 竜が面倒を見てくれていたらしい。

 ぶっきらぼうなしゃべり方のわりに、親切なやつだった。


 俺が寝ている間に、竜は少年に投影機を設置させたらしい。

 倉庫にうち捨てられた舟の残骸を枕に、寝そべっていた。


 この時間だと、仁葉は眠っているはずなんだけどな。

 何故か竜のお腹の上で、少年と映画に夢中だ。

 どうやら、俺が寝ている間に2人とも竜と仲良くなったらしい。


 

《それで、これからどうすんの? 奥さん探すのか?》

 竜の問いに、俺は黙った。


 アヤメの居場所。

 実はなんとなく……わかってるんだよな。


 世界や仁葉の将来を考えれば、アヤメを見つけて世界を元に戻すべきだ。

 あいつはきっと、俺に自分を止めてもらいたがっている。


 でも、元の世界に戻れば。

 アヤメは3カ月後には、寿命で死んでしまうんだよな。

 だから、アヤメは世界を元に戻したくないと思っている。


 こんなモンスターだらけの世界より、俺だって日本が恋しい。

 でも、アヤメと永遠にお別れするなんて……そんなのは嫌だ。


 何が最善か、なんて俺にはわからない。

 でも、1番自分が何を大切にしたいかくらいはわかる。


 世界の人達が幸せになりますように。

 なんてことを、俺は1番に考えたりしない。


 そりゃ、皆幸せなのがいいとは思う。当たり前だ。

 でも、自分や大切な人達の幸せを犠牲にしてまで、それを願ったりはしない。


 俺が願うのは、やっぱり自分の幸せだ。

 アヤメが幸せで、仁葉が幸せなら。

 その選択が間違っていると言われたって、構いはしない。



《竜さんは、世界が元に戻ってほしいと思う?》

《どっちでもいい。元の世界はくだらないし、竜も強すぎてつまらん》

 竜の瞳は寂しそうに見えた。

 その横顔は、昔のアヤメにも似ている。


《世界を元に戻すと、アヤメ……俺の妻は余命3カ月で死ぬんだよね。だから俺は、妻も一緒に親子3人で。このモンスターだらけの世界で、生きていこうって思うんだ》

 もう、俺の心は決まっていた。

 決意を言葉にして、体の中から端末を取り出す。


《奥さんが見つかったとして、ずっと追われる生活だぞ? 逃げ切れるのかよ》

《俺ひとりでは難しいと思うけど、頼もしい仲間もいるし大丈夫かなって!》

 端末を持っていない2本の触手で、竜と少年を触手で指し示す。

 そしたら竜は呆れたように笑い出した。

 

《お前、なかなか図々しいな!》

《必死なもので。でも、退屈はさせないって約束する》

 くくっと竜はまだ笑っている。

 どうやらツボにはまったらしい。


《いいぜ。楽しそうだから、多少は守ってやる。けど、期待はしすぎるなよ》

《ありがとう、竜さん》


《別にいい。それより、奥さんの居場所はわかってるのかよ?》

《もちろん》


 竜に頷いてから、端末をのぞき込む。

 光のついていない液晶画面。

 薄明かりの中、反射でオレの顔を映し出していた。


《そういうことだから、アヤメ。聞こえてただろ?》

 通話モードになってない端末は、何も答えはしない。

 それでも構わず、端末に・・・語りかける。


 俺達の側にずっといたい。

 だからアヤメは、元の世界に戻りたがらない。


 なら、俺達の側にいたいあいつは、どこにいるのか。

 俺の知っているあいつなら、すぐ側で見守れる位置に隠れる。


 アヤメは不定形のモンスターで、何にでもなれると言っていた。

 人だけじゃなく、動物。

 そして……無機物にも。


 俺達の情報を知ることができて、ずっと側にいることができるモノ。

 アヤメがなるとしたら、これだろうと予想はついていた。

 

《側にいるのに顔も見せないまま、声だけでいるつもりなのか? お前は俺達が見えてるからいいだろうけど、俺達はそうじゃないんだぞ?》

《おい、お前。それ、電源入ってないぞ?》


 電源の切れたスマホに説教を始める。

 残念なものを見る目を、竜は俺に向けてきた。


《アヤメ。俺はちゃんと、お前を見つけたんだ。だから顔を見せろ。端末になって、ずっと俺と仁葉の側にいたんだよな、お前は》

 強い声で、はっきりと言ってやる。


 何も触っていないのに、端末に電源が入る。

 その本体が震えたかと思えば、みるみると膨れて人の姿を取った。


「さすがは私の雄仁ゆうじだ。君には敵わないな」

 真っ黒な長い髪。

 すっと細い眉に、切れ長の瞳。

 俺の知っているアヤメが、そこに立っていた。


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