エピローグ……消失……そして地球……
ついに最終回になりました。
この回まで見ていただきありがとうございました。
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『……ター。…スター。マスター』
何かせきをきったように繰り返される声。
憐れむような声色。
僕は心の中にうずまく歪んだ阿鼻叫喚を鎮めるためにややあって月影の声に反応する。
僕の意識的状況は混沌を極めていた。
「月影……僕はまだ生きているのか」
今の僕は真っ赤な液体。
生きているか死んでいるかもわからない状態。
『マスターの生体反応を確認。意識レベルクリアー。しっかり生きています』
久しぶりに聞く月影の声は控え目だ。
コックピット内に満たされた真っ赤な液体を分析した月影が数値変化を正しく感知して僕に報告する。
「現状を報告してくれ」
正体がわからない相手……しいていえば神話の裂け目から生まれでた『神』を相手にした感じだ。
あの戦闘に狩る側と狩られる側があるとするなら僕たちは狩られる側だった。
『イエス・マスター。現在地は元第八居住区コロニー軌道上。周辺宙域『空船』所属機体の反応ゼロ。当機『セラフ』交戦損傷率72%。現在は自己修復機能により22%まで改善』
どのような経緯でそうなったのかはどうでも良い。
そのことが示す事実が問題。
僕は見誤った感情論を持ちかけることもなく淡々と月影の報告に耳をかたむける。
『マスターの意識蘇生と『セラフ』の通常モード回復までの期間二年。現在
『空船』コロニーは確認できません。一年前に地球への落下を確認。テラフォーミングにより地球が』
月影は言葉をきった。
次の瞬間、360度クリアーな視界が僕の意識に繋がる。
そして現実を目の当たりにする、まさかと思い確かめるように意識を広げると驚愕に飲み込まれそうになる。
だって、それは歴史の教科書でしか見たことのない物体だったから。
「あの……青く綺麗な惑星は……」
美しいブルーマーブルの惑星。
惑星表面を覆い尽く青いものは液体なのだろうか。
僕は静かで穏やかな蒼い惑星に心を奪われてしまった。
『太陽系第三惑星地球』
僕はただただ息をのむだけだった。
この美しい惑星が地球。
その壮大な景観を独り占めした代償は帰るべき場所だった。
僕の記憶と常識ではあるはずの『空船』のコロニーが消えており、そこに暮らしていた大切な家族や仲間の命が見えない。
あれだけ騒がしかった僕の心のなかにポカンと穴があく。
「月影」
『はい、マスター』
「僕はどうすればよい」
かすれてしまった小さな声、馬鹿みたいな質問。
僕は沢山失ってはじめて命の尊さや帰る場所のありがたさがのみこんでいく。
だからはじめて馬鹿がつくほど素直になれた。
『宇宙空間においてマスターとイタチごっこの禅問答をすることも好ましいですが。地球圏への降下を最優先として提案します』
見えない腕で僕を後押ししてくれる月影。
こんな時まで薄ら寒いジョークを織りこむ月影の残念なセンスに感謝しながら僕はようやく事態の重さを察した。
「僕は地球へ行く」
冷たく混乱した想いをはぐらかすように僕の意思が月影に伝播する。
『イエス・マスター。そんな少々軽率なところが人間臭くて好きです。好きの好きはライクではなくラブです』
お前が推奨してくれた選択肢だろう――っとツッコミを入れたくなるが僕はひとりの人間として大きなリスクを伴う判断をしたかもしれない。
はじめの一歩とは勇気がいるものであり知らない世界に足を踏み入れることは怖い。
「死せるものたちに優しいキスを……」
『祈りのコード確認。『セラフ』リミッター解除』
無機質な流線型のボディーから八枚の銀色の翼と大きな三つの目の機体『セラフ』は『プラチナの賢帝』である僕とちょっとおバカな人工知能・月影とともに大気圏に突入することになった。
生きたままの流れ星。
もし地上に生存者がいれば流れ星に願いを込めてくれるだろうか。
僕はその願いが強いところに飛んでいくから。
だから流れ星をみたら強く願ってください。
――僕が貴方のもとにたどり着きますように――と。
いかがでしたか?
アナザー・インセスト~宇宙とキミとの間には~はこれにて幕をおろします……あれれっ? 続きはと思われる方もいるかもしれません。
そう思って頂けましたら作者としてとても嬉しいです。
一応、この後のお話としてアナザー・インセスト~地球章~と言うプロットがあるのですが、のちに執筆するかどうかは、作品に対する反応を見させていただきまして対応させていただきます。
さて、かきくけ虎龍の作品は連載中に『こちら陽気なたんぽぽ荘~大家と店子の家賃戦争』や『暴君すぎる女子モテな姉と真っ暗で腹黒すぎる心配性の妹に悩まされて生きていく僕の日常日記』も連載しております。
皆様、もしよろしければ読んでいただきましたら嬉しいです。
それでは、最後までご愛顧いただきありがとうございました。
また、アナザー・インセストのキャラクターが皆様にお会いする日を楽しみに、感謝の気持ちで幕をおろさせていただきます。




