表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の予言書  作者: 語部マサユキ
外伝 生き残った聖職者くずれ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

390/396

壊れたままの相棒

お久しぶりでございます。少しだけ帰ってまいりました。

 窓から差し込む光が朝である事を告げる。

 そして目を開けると飛び込んでくるのは見慣れた部屋の風景。

 外からは早くも働き始める人々の喧騒が聞こえる平和な風景に、ついこの前王都で大規模な邪気発生による魔物騒ぎがあったなど想像も出来ない。

 王都でアタシこと魔導士リリーが所属しているパーティー『スティール・ワースト』の根城にしている一軒家でこうして朝寝坊が出来る事が平和の証でもある。

 そんな平和をザッカールに、いやこの世界に齎した英雄がこの一軒家の一階の部屋に存在しているという事をする者は少ない。

 本来アタシはそんな平和を享受する事は出来ないハズで、下手をするととっくに死んでいたハズだったのだが、運が良い事にアタシもその英雄に助けられた事で今を生きている。

 そいつがやった事は別に強大な力を手に巨悪を滅ぼした勇者のように華々しいものでは無く、命がけで自分の命と引き換えに魔王を封印した……などと言う感動秘話でもない。

 ただ単に“そいつのやる事が気に喰わないから手を出した”“惚れた女の前で格好付けたかったから利用した”程度の気持ちしか無かった。

 まあ……だからこそ、私を含めた『予言書』から逸脱したひねくれ者たちは共感して協力出来たのだろうがな。

 そんな事を思い返しつつ、いい加減起きなければとベッドから立ち上がると真っ先に目に飛び込んでくるのはテーブルに立て掛けられた一本の杖。

 元から結構ゴツイ見た目ではあったけど、先日の強敵との戦いで破壊されてしまい急遽最低限使えるように補修してはいるものの、更に歪な形になってしまっている。

『狙撃杖』……私の最大の武器にして相棒は未だに元の形には戻らず、ぶっちゃけ非常に使いづらいままであった。


「いい加減ちゃんと直してやりたいね……相棒よ」


                   ・

                   ・

                   ・


 軽く着替えてから朝食の準備でもしようかとキッチンのある1階へと降りて行くと、タイミングが良いのか悪いのか……一階の部屋からパーティーの近接戦闘の名手である剣士カチーナが丁度出て来たところに出くわした。


「あ…………」


 二階から降りて来たアタシを見た瞬間にみるみると顔を赤くしていくカチーナに、アタシは満面の笑顔を浮かべる。


「おはようございます奥様。昨夜は優しくしてもらえましたか?」

「!?」


 かわいい……。

 そう言うと彼女は更に火が出そうな程顔面を赤くして黙り込んでしまう。

 彼女が自室として使っているのはアタシと同じ二階、しかし今出て来たのはリーダーである盗賊ギラルの部屋である。

 つい最近まで女性の服に無頓着で色気のない服装ばかりであった彼女が色気たっぷりのネグリジェ姿で現れたという事は……まあつまりそう言う事なのだろう。


「あ、ああああの……こ、これは……その……」

「な~に恥ずかしがってんの。別にいいじゃ~ん、アタシが戻って来たからって新婚さんの夜を自粛する事なんてないんだから。遠慮なく旦那に可愛がってもらえば~」

「う……うあ……」


 多分アタシが起き出すより前に自室に戻る算段だったのだろうが、夜の格闘が激しかったのか盛り上がり過ぎたのか、一日中走り続ける事が出来るような体力の二人も早起きは出来なったようで…………なんだろう、この可愛い生き物は。

 ますますいじめたい衝動に駆られるが、残念だがカチーナの背後から現れた旦那さんに窘められてしまう。


「その辺で許してやってよリリーさん。何か最近は秘めていた乙女が爆発しているのか、その手の話題を振られると思考停止しちまうみたいでさ」

「な~によ~そのくらいで。どうせ二人きりの時はもっと恥ずかしい事してんでしょ? アタシに揶揄われるくらい、ギラルに可愛がられる事に比べたら大した事は……って!?」


 どうやら突っ込みが過ぎたようで、アタシは真っ赤になったままのカチーナに脳天にチョップを喰らう事になった。


 紆余曲折、艱難辛苦を超えて、遂にと言うかようやく結ばれ結婚したギラルとカチーナに気を遣ってアタシは一週間ほどは古巣の孤児院で寝泊まりしていたのだが、いい加減冒険者稼業を再開する必要もあってこっちに戻って来た。

 実際アタシはこうして揶揄いはするけど、二人の時間を邪魔する野暮をする気は無いし存分に愛を確かめ合えば? と思っているのだが……見た目よりも遥かに真面目なギラルとしては“所帯を持ったからには自分の住処は自分で用意するべきだ”と考えているらしく、こうして根城にしている家もいつかは出て行くつもりでいるらしい。

 アタシとしては気にし過ぎじゃないか? とも思うが、元々ここは大聖女ジャンダルムが様々な理由で庇護を求めた女性たちを匿う為に用意した家だから、変に自分の家として扱う事に気が引けるのだろう。

 分からないじゃないけどね。

 朝の仕事は役割分担、三者三様に身支度を終えれば朝食の準備はアタシとカチーナが、火の用意や洗濯などはギラルが担当する事が定着している。

 元々は貴族で騎士団出身のカチーナは料理などの家事は苦手だったけど、冒険者を経てギラルと行動を共にする内にスッカリ上達していたようで……今ではエプロン姿が板に付いてきている。

 これも愛の力って事なのかね?

 焼いたパンに目玉焼き、少々の野菜にスープと……野営の時に比べれば相当に豪華な朝食を三人で囲い、今日はこれからの方針を話し合う事になった。


「そろそろ資金も心許なくなってきたからな。冒険者稼業を再開しないとオカンの雷が落ちるかもしれんからな。“お嫁さんを苦労させるつもり?”って目が笑っていない笑顔を浮かべて……」

「今のところ私も同業なのだから苦労するのは一緒ですけど?」


 病める時も健やかなる時も……ってか?

 まあギラルが本当にそんな極潰しであったなら、本当にミリアさんの鉄拳が待っているだろうけど、この男にそんな未来は浮かばないけどね。


「金稼ぎ……ってなるとやっぱり討伐系か? 採取系は新人のテリトリーだから余りあらしちゃいけないとか言ってたっけ?」

「まあな……その辺は塩漬け状態じゃ無ければ余り手を出したくはないな」


 冒険者のクラスが低い者ほど危険の少ない薬草、食材などの採取を受注するモノだが、当然そんな仕事を上のクラスが取ってしまえば彼らの仕事が無くなってしまう。

 この辺は冒険者ギルドの暗黙の了解ってヤツで、住み分けも考えるとアタシも多いに同意する考え方だ。

 今現在ギラルとカチーナはCクラス、前回の昇格に落ちたアタシはDクラス……どちらも魔物の討伐依頼が多くなるクラスなのだから、やはり狙うは討伐系が妥当だろう。

 しかしギラルは心配そうにアタシに視線を移した。


「それは良いけどリリーさん、君の相棒は未だに壊れたままじゃ無かったか? 使えないって事は無いようだけど」

「さすが……道具って事には鋭いよねギラルは。軸を壊されたのが原因なのか、魔力の充填が一呼吸遅いし照準もブレるんだよね。伏射プローンならまだしも立射スタンディングだと全然ダメ。何より重たいし、いい加減本格的に修理したいところだけど……」


 盗賊と言う攻撃や支援を常に行う立ち位置でギラルは様々な道具や武器を多用するだけに、道具の手入れや不具合などの事には聡い。

 アタシの『狙撃杖』は今は使えるけど本調子の戦いが出来る程ではない事を見抜いていたようだ。

 小柄で体格的なハンデの大きいアタシに取って機動力は最大の武器なのに、このままでは移動しながらの射撃も碌に出来ないから。


「あん? だったら直せば良いんじゃないの? それとも何か特殊な問題でもあるとか? 特殊な魔石が必要とか、特殊な金属がいるとか? 必要なら手を貸すぞ」

「リリーさんの遠距離射撃はパーティーにとって不可欠。必要であるなら私たちも協力いたしますよ? 資金面でも何でも」


 あくまで同情とかではなくチームとして必要だからと援助を申し出る二人の心意気に苦笑してしまうけど、残念ながらそう言う事じゃないんだよな~。

 アタシはきまり悪く頬を掻く。


「それがさ……狙撃杖あのこを制作したのは知り合いの魔導武具職人なんだ。そいつはアタシのクセを良く分かっていて整備も修理もいつもお願いしていたんだけど……先月からその職人が塞ぎ込んでいてね」

「まさか、あの“邪気大量発生事件”で誰か大事な人を失った……とか?」

「いやそうじゃないよ。不幸中の幸いと言って言って良いかはさておき、そいつは誰かと死別したとかそういう不幸には見舞われていないよ。まあ別件で大切な人を失ったのは事実だけどね」


 案の定、先月と聞いたギラルは途端に神妙な表情になるが、残念ながらその予想は外れである。

 先月の事件と慣れば真っ先に浮かぶのはソレなのはギラルだけじゃなくザッカール王国民であればみんなそうだろうが、先月はその他にも大事件があった。


「そいつはアタシやシエルと同じ孤児院の出身でね、いわば幼馴染とも言える付き合いで……先月あったオリジン大神殿の大事件でそいつは想い人を永遠に失う事になったのさ」

「オリジン大神殿で…………あ」

「? なに、どういうことです?」


 どうやらギラルはピンと来たらしいが、カチーナはまだ分からないようで器用にナイフとフォークで目玉焼きを切り分けている。

 そんな彼女にギラルは目玉焼きをサラダと一緒にパンに挟んでかぶり付く。


「ほら、先月のオリジン大神殿って言えば俺達も無関係じゃないイベントがあっただろ?」

「私たちも関係あるイベントですか? そんなのシエルさんとノートルムさんの結婚式しか…………あ」


 そしてそこまで言われてカチーナも気が付いたようだ。

 そう、アタシの親友にして光の聖女エリシエルの結婚式……それが行われた事でアイツは永遠に失う事になった。

 初恋の相手を……。


「お察しの通り、孤児院でガキの頃からの幼馴染でその頃からず~っと好きだった女の子が、とあるイケメンの聖騎士様に掻っ攫われてしまってね……絶賛ハートブレイク状態ってワケなのよ」

「あらら……」

「シエルさん……あの人意外と罪作りな人ですね」


 カチーナの感想にアタシも多いに同意する。

 まあその最大の被害者であったノートルムさんは大願成就を成して負債を完全に完済達成、見事今や幸福絶頂状態なんだけどね。

 その分成就しなかった者にとっては更なる負債がのしかかるのだけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
マジすかマジすか帰ってきたんですか⁉︎リリーさん主役の外伝…楽しみに読ませていただきます! しかしまあ…カチーナさん、随分と新婚生活を満喫しておいでのようで…へへ、昨晩はお楽しみでしたね?(^^)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ