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神様の予言書  作者: 語部マサユキ
最悪を盗んだ盗賊

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閑話 化粧ババアの本音

「うわああああああ!? 高い高い高い!?」

「嘘だろ!? シエルの姉ちゃん俺達を生身でぶっ飛ばした!?」


 シエルの一撃が想像を絶する強烈さである事を目の当たりにして驚く友人二人だったが、以前直接対決した事のあるマルスだけは苦笑していた。

 まあ光の聖女ならこれくらいするだろうな~っと……。

 そして『黒き巨人』が城よりも山よりも高く、雲にまで到達しそうなくらい上空へと至り、邪気の暗雲を抜けて敵である化粧怪獣が見えなくなった辺りで手にした巨大な剣『男漢剣』から声が聞こえる。


『よ~しガキ共、こっからは気合いだ! 下に向かって我らを構え、急降下する巨人に全力で回転を加えてあの化粧怪獣に突っ込むのだ!!』

『全力である! 二撃目があるとは思わぬことだ! 一撃でヤツの向こう側までブチ抜くつもりで全力全開でかますのである!!』


 暑苦しいオッサンたちの声に驚くだけだった友人たちもハッとして、ワーストデッドチルドレンは決意の表情で頷き合う。


「よ、よ~し、やるぞみんな!」

「怪獣は僕らがやっつけるんだ!」

「全力で、全開で……いっくぞおおおおおおお!!」


ゴゴゴゴゴゴゴ…………

 そして上空へ昇り切り一瞬だけ巨体が静止状態になった瞬間、大剣を構えた巨人は強烈な横回転を始め、重力に引かれながら地上へと落下を始める。

 その回転は凄まじく、落下のスピードと相まって黒い巨体が一条の矢となる。

 その攻撃はワーストデッドチルドレンと剣と化したオッサン、更には巨人の本体を成すドラスケと、計六名の協力があってのモノ。

 一条の黒き矢と化した年齢も種族も超えた悪ガキ六名は示し合わせたワケでもないのに、全員が雄たけびを上げて化粧怪獣へと突っ込んで行く。


「「「『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』』」」」


 さすがにそんな雄たけびを上げながら突っ込んでくる巨大な存在に化粧怪獣とて気が付かないワケも無く、その巨大な顔面を上空に向けると周辺の地表から無数の触手を発生させて突撃を防ごうと上空へと伸ばし始める

 しかし、防ごうとしようと絡め取ろうとしようと、黒い矢と化した悪ガキ共の突撃は止まる事は無く触手は触れた傍から砕け散って行く。


『アアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』

「「「喰らえええええ! 化粧お化けええええええええ!!」」」


ドガガガガガガガガガガ…………

 そしてとうとう怪獣の顔面に到達すると、そのままさっきとは比べ物にならない巨大な穴を穿ち更に回転を加えてめり込んでいく。

 当然化粧怪獣も即座に回復しようと試みるが、ガリガリとめり込む先端の男漢剣に亀裂は生じる事は無く回復は全く追いつく事はない。

 そしてそれ以上に、破壊された傍から邪気は霧散され始めていた。

 それはマルスの死霊使いとしての新たな才能、攻撃のみを考えればマイナスであるとシエルが考えた『邪気浄化』の効果であった。

 マルスの攻撃を喰らうと同時に触れた邪気の元となった負の感情は、彼の才能なのか快活な性格に影響されたのか“十分だ”“満足した”という風に霧散して消えていく。

 攻撃のみで考えればマイナス点でもあったが、一度攻撃が通ってしまえばむしろ邪気にとっては猛毒とも言えた。

 しかし、そんな中でただ一つ……いやただ一人だけは絶対に納得せず抵抗を続ける元凶たる邪気が存在していた。

 マルスはその存在に対して突撃を続けつつも、流れ込んでくるそれが抱き続ける慟哭を感じ取っていた。


 何故だ! 何故皆私から離れていく!?

 何故私を見てくれない!? 私を一人にする!?

 貴族家に生まれた私を両親も家臣も他家の者たちも、私自身では無く作られた化粧そとがわしか見ず、興味すら無かったというのに。

 だからこそ誰よりも着飾り、化粧し、誰もが興味を持つように、誰もを縛り付けられるようにして来たと言うのに……。


 それは一人の女性からの負の感情、邪人と化し全ての存在を邪気で縛り付け化粧としていた王妃ヴィクトリアの本音であった。

 貴族家として生を受け、家の為に国の為に教育を受け王家に嫁いだ女性の……飾らない、化粧をしていない感情の発露。

 誰も寄り添ってくれない、夫である国王すらただ流されるままに婚姻しただけで自分には興味も無い……そんな毎日で確立された歪んだ人生観。

 化粧し取り繕わないと自分自身に寄り添ってくれる人は誰もいない。

 だからこそ更に求める……化粧を、装飾を。

 そして怯える……自分を下げる存在を、興味を持って行かれる別のナニかを……。


 マルスは今でも思い出せば憎たらしく思っていた化粧ババアの真の姿は、ただ誰かに愛されたかっただけの孤独に怯える子供と変わらない事に驚き、そして哀れになる。

 だがそれでも……終わらせなければいけない事は幼いマルスにも分かっていた。

 分かるからこそ、巨人の手にある男漢剣を更に強く握らせる。


「これで終わりだ化粧ババア! いや我が生涯の強敵、王妃ヴィクトリア!!」

『!?』


 マルスの咆哮と共に、黒い矢は遂に化粧怪獣の中心部である邪人本体へと到達。

 一気に貫き、そのまま怪獣の向こう側へと貫通……文字通りの風穴を開いた。


『ア……アア…………』


 そして残された化粧怪獣は縛り付けていた邪気の存在が無くなり、元の瓦礫の姿に戻って行く。

 轟音を立てながら土煙を上げ、まるで砂山が崩れるかのように……。


               *


 ついさっきまで巨大な瓦礫の寄せ集め、悍ましい怪獣の体を成していたというのに最早それは見る影もない。

 膨大な邪気で縛り付けていた瓦礫けしょうは中心部の邪人と化した王妃ヴィクトリアが失われた事で瓦解……王都広場に山となって散らばっていた。

 そんな最早瓦礫の危険地帯と化した王都中央広場にただ一人、骨と皮のみとしか思えない程にやつれ、白磁のよう……というより白磁その物と言えるほど白くなった女性が一人横たわっていた。

 それは言わずと知れた化粧怪獣の元凶であった王妃ヴィクトリアであり、その姿は自慢の高価でド派手なドレスも、左官の如く塗りたくると言われた化粧すら無くし……既に胸部より下を失った状態で、ただただゴブリンに付けられた顔面の傷跡を晒し、呆然と空を見上げていた。

 

「結局……私は何を望んでいたのでしょうか…………」


 邪人と化し、邪気を操り人も物質も全て取り込み飲み込み、無理やり縛り付けていた全ては邪気を失うと共に消失し、同時に力の全てを失った自分自身の体は白くチリとなって崩れていく。

 最早死に対する絶望も悲しみも、あれほど執着していたハズの化粧にすら興味も無く、ただただ空虚な笑いだけが漏れて来る。


「ハ……ハハハ……結局何一つ、誰一人残らなかったという事か。あれほど外側を取り繕い縛り付けようとしても、結局最後には何も残らない。滑稽極まりない……こんな事であるなら、あの屈辱的でしか無かった怪盗に荷物扱いされた夜に誰か自分を呪う者に敵として殺された方がマシだったな……」


 最後になっても孤独、一人寂しく誰にも知られる事なく消える……それだけが自分に残された最後の時間である事に乾いた笑いしか出ない。

 しかしそんな事を呟く彼女の元にただ一人の少年が姿を現した。

 その少年は平民の服を着ているものの、ヴィクトリアにとって因縁のある人物であり、彼女は驚愕した。


「お前……まさかヴァリス王子? 生きて……おったのか!?」

「…………」


 公式では死亡扱いになっているヴァリス王子ことマルスは無言でそう言う王妃を見つめるが、逆に長年不遇の立場に追いやり最後は母であり姉である唯一の侍女を亡き者にしようと画策した張本人であるヴィクトリアは心の底から歓喜する。

 自分を殺しても飽き足らない程に憎んでいるであろう少年の登場に。


「はは……は、これは傑作です。まさか生涯の最後に傍にいてくれるのが君だとは……どういう事であっても私の存在に意味を持たせて下さるとは」

「…………」

「さあ好きにするが良いぞヴァリス王子よ。最早私は王妃でもないただの残骸。そこの石で頭を砕くのでも良い。ボールのように蹴り砕くのでも良い。この憎たらしいクソババアに最後の意味を与えて下され……」


 この期に及んでもただ一人で死ぬのだけは嫌だった王妃ヴィクトリアは敵として、怨敵として無様にやられる敵役としての最後でも満足だったのだ。

 ざまあみろと、死んで当然地獄に堕ちろと唾を吐かれてでも一人で終わるワケではないのなら上等であると……。

 既に灰の塊のように崩れる体は子供の力でも簡単に崩れる。

 無言で近寄る少年に蹴飛ばされるか踏みつぶされるか……そんな風に思っていた王妃だったが、その瞬間はいつになっても訪れず違う感触が残された右腕に……少年が手を握り、握手をしている姿に再び驚愕してしまう。


「…………え?」

「……まあやり方は無茶苦茶だし褒められたもんじゃないけど、俺達は結構楽しかったよ。こんな事言ったらいろんな人に怒られるけど」

「…………」

「今度機会があるなら、もう少しおとなしめの事で遊ぼうぜ、おばちゃん!」

「!?」


 少年からの言葉は恨み言でも罵りでもない、王妃ヴィクトリアにとって今までの人生で一度も言われた事のない言葉。

 年が離れていようと、どれほど憎い相手であろうと全力で戦った相手に対して握手して友好を示す。

 それはつまり…………。


「ああ……そうなんだ。私は結局……友達が欲しかったのだ」


 最後の最後に本当に望んだモノを自覚し、そしてこんな醜く憎たらしいハズの自分を友達として扱ってくれた少年に王妃は一筋の涙を流し……徐々に崩れて行く。


「ごめんよ…………そして、ありがとうね…………」


 少年の手の感触だけを最後の手土産に、王妃ヴィクトリアは風に舞い虚空へと消え去って行った。



カクヨムネクストにて新作連載始めました。

『魔法×科学の最強マシンで、姫も異世界も俺が救う!』

https://kakuyomu.jp/works/16818093091673799992

 宇宙戦争の最終局面で愛機ごと爆死したハズのエースの主人公が、愛機と共に異世界に飛ばされて戦うメカ、異世界、そして美少女の物語です!

 宜しければご一読よろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
めっちゃ、めっっっちゃ嫌いなキャラだったけど…まあ、ほんの少しだけ同情した 来世は自分を見てくれる友人に出会えるといいな
ババアに共感してしまってちょっとだけ涙が出た。悔しい、化粧お化けのくせに。 良き旅路を。
誤字報告機能でタイトル部分を報告できなかったので、ここに書きます。 今回のタイトル”閑話 化粧バアアの本音”は化粧ババアだと思います。
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