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神様の予言書  作者: 語部マサユキ
最悪を盗んだ盗賊

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閑話 この世で最も硬い武器

あとがきでお知らせがあります。

何卒ご一読お願い致します!!

「まずは……マルス君! 巨人の拳をドリル状に、更に回転を加えて怪獣に飛ばす事は可能でしょうか!?」

「うえ? い、いや、僕はワーストデッドチルドレンのデッド・ホーク……」

「出来るのですか!? 出来ないのですか!?」

「は、はい! やります!!」


 この期に及んで正体がバレていないとでも思っていたのか不満げなマルス君であったが、聖女のうきんの怒号に逆らう余地は無かったらしく、キビキビと返事……敬礼付きで。

 そして指示通りに邪気の塊である黒い巨人の右拳をドリル状に変形させて、更に高速回転を加えると悪ガキどもは揃ってテンションを上げ始める。


「うおおおお! こいつはドリルのパンチ!? どうするどうする? 何て名前で行こうか?」

「これからコイツを怪獣目掛けて飛ばすんだよな? ならやっぱりせーので叫べる名前が良いよな?」

「う~ん、でも折角だから回転とドリルの要素は入れたい……」


 こんな状況であっても呑気にそんな相談をする悪ガキどもにシエルは脱力しかけるが、その相談も早々に決着したようで次の瞬間には『黒い巨人』が思いっきり右腕を引いてから勢いよく化粧怪獣に向けて突き出した。


「「「スパイラル・ドリル。ナックル!!」」」


 ドンと勢いよく発射されたドリルの拳は想像以上の勢いで突き進み、化粧怪獣の触手を数本断ち切りつつ、そのまま眉間の辺りに直撃する。


 ボゴ!! 「アアアアアア……アアアアアアアアアアアアア!?」

「「「やった! 直撃だ!!」」」


 そして弾丸の如く巨大な穴を眉間に作った事で悪ガキ三人は歓声を上げる。

 しかし対照的にその光景を冷静に見ていたシエルは眉を顰めていた。


「マズイですね……想像以上に化粧が分厚く硬い」

『どういう事であるか?』

「私が思いついたマルス君たちにも可能だと考えた最大攻撃は単純、マルス君の邪気操作を利用して先端をドリル化、その上で高高度から回転を加えて巨体の重量で突っ込む……その程度の事なのですが、その目算は思ったよりも遥かに甘かったようです」


 ドラスケの疑問にシエルは歯がみしつつ、化粧怪獣の顔面にめり込んだスパイラルドリルナックルと名付けられた邪気の塊に走った亀裂に目を向けていた。


「純正の邪気の具現よりも瓦礫を含んだ混ぜ物の方が硬度が上なのでしょうか?」


 なんとなくイメージ的に邪気も純粋100%の方が強そうに思っていたシエルは想定外のように呟く。

 だがそんな彼女の疑問にドラスケは否定の言葉を漏らす。


『いや、そうではないな。邪気の具現化を行える者は稀であるが、集中し濃度を上げれば強度も上がる。しかし今現在邪気を操るマルス自身の邪気使いとしての才能は戦闘よりも浄化に特化しておるというか……実は以前あやつが黒の巨人を操った時にも片鱗はあったがの、ヤツが邪気を扱うと負の感情の塊であるハズの邪気が満たされて成仏して行くのだ』

「……え?」

『この辺はヤツの負の感情からかけ離れた陽気さのせいなのだろうか? 今現在も黒の塊として邪気を操り、我も周囲から集めてはいるが集まると同時に都度霧散もして行っておる』


 それは『予言書』での『聖王ヴァリス』として邪気を操っていた場合とは異なり、大切な人を無くさず友人と共に明るく今を生きるマルスだからこそ会得した特性であった。

 死霊使いであっても邪気を道具と見なさず協力してくれる仲間と捉え一緒に楽しむ事で満足感を与えて自然と浄化してしまう。

 それは千年以上も前から忌み嫌われて来た『死霊使い《ネクロマンサー》』としては稀有な才能とすら言える。

 本来であればそれは歓迎すべき事であり、今この時でなければ最も重要な戦力であったハズなのだが……邪気を操り戦力として欲しい今だけは溜めた水がドンドン抜けていく状況は歓迎できない。


「皮肉が過ぎませんか? そのような良さげな才能が唯一マイナス点になり得るこの場に居合わせてしまうと言うのは……」

『言うてやるな……と言いたいがの、あの小僧、悪友を伴っておるからか以前よりも遥かに邪気の浄化速度が早い。相当に今この瞬間が楽しいらしい。逆に瓦礫を取り込み更に醜くなって行く化粧怪獣の方は絶望を感じておるのか更に邪気が高まり巨大に、強固になって行きおる』


 言っている間にも徐々に大きさを増していく化粧怪獣は、さっきまでは『黒い巨人』より少し大きいくらいであったのに、今は3倍は大きくなり触手の数もドンドン増えていく。

 そして次第に触手が蜘蛛の脚の如く頭を中心に前進を始める。


ズザザザザザザザザザザ……

「コロスウウウウウウウウ……ワワワワワーストデッドオオオオオオオオオ!!」

「う、うわあああああ!? こっち来るよ!?」

「なんて気持ちワリイ動き!?」

「ジャンプだマルス! 後方退避!!」


 それは少年たちでなくとも見た者全てに吐き気を覚えさせる悍ましい光景で……ほとんどの国民が退避し空っぽのなった王都で目撃者が少なかった事は救いだったかもしれない。

 だが反射的にジャンプしてしまったのが誘いであると彼らが気が付いたのは聖女の叫びを聞いた後だった。


「違う! 真っ直ぐ下がるんじゃありません!!」

「……え?」


 ドドドドドド……

 黒い巨人が着地する直前、無数の触手が大地を裂いて出現する。

 シエル自身、自らの動きであるなら反射的に正面の突撃が誘い出ると対応出来た事であったが、やはり素人の子供たちにその辺を対応させるのは無理があった。


「「「うわああああああ!?」」」

「く……防護結界を!?」


 周囲を完全に囲まれ悪ガキたちが慌てる中、シエルは咄嗟に黒い巨人を守るべく防護結界を発動しようとする。

ドン…………

しかし結界が発動するより前に、黒い巨人は触手の包囲網から突如弾き飛ばされた。

 どこかで見た事のある、正確にはとある教会において誰が見ても格闘僧であると見た目で分かる肉体を持った男の拳によって。

 そしてその男は自分にも襲い掛かる無数の触手群を体格に見合わない見事な動きによってスイスイとかわすと、弾き飛ばした『黒い巨人』の元へと降り立った。


「連れないではないかシエル殿! 我も混ぜては貰えぬか? あのようなデカ物、この先二度とお目にかかる事はなさそうであるしな!!」

「どんな時でも変わりませんね貴方は……」


 どんな状況でも変わらぬ脳筋スマイルを浮かべるハゲオヤジ、格闘僧ロンメルの姿にシエルは呆れつつもどこかホッとした気分になった。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 しかしそんなシエルの心情とは裏腹に、折角捕らえたと思った敵を逃がした事で怒りに触れたのか化粧怪獣は悍ましい顔面を更に歪ませて、触手を滅茶苦茶に振り回しながら突っ込んでくる。

 まるで動きが地上をウネウネと這うタコの様であり直視しがたい気色の悪さなのだが、無数に迫る触手にそんなモノに気を取られる暇が無いのがある意味では幸運なのか。

 大雑把に避ける黒い巨人の肩に乗ったシエルとロンメルは、当たると思われた触手を魔法や拳を駆使して巧みに叩き落して見せる。

 遠目では鞭のように思える触手も眼前では大木が迫り来るようなモノ。

 一撃の破壊力はすさまじく、拳で打ち払う度に足先までしびれる感覚にロンメルは嬉々とした表情を浮かべた。


「わははは! いけ好かぬ化粧ババアと思っていたが、ここまでの力を見せつけて来るとはやるでは無いか! 見直したぞ!!」

「言っている場合ではありません師範! 気持ちは分からないでは無いですが、現状倒す手立てが無いのですよ!」

「シエル殿らしくないでは無いか。いつもなら自らが前に出るくらいであろうに」

「……天秤に掛かるのが自らの命か背中を預ける同志であるなら遠慮は無いのですが」


 そう言ってチラリと『黒い巨人』にシエルが視線を向けた事で、ロンメルはおおよその状況を察する。


「……この黒い巨人の正体は何であるか?」

「現孤児院の悪ガキ3人……」

「ああ、ヤツからであるか……仕方のないガキ共である。という事は以前拳を合わせたのもコヤツらであったか?」

「その辺はもう少々複雑なようで私も詳細は分からないのですが、恐らくは……」


 最近ワーストデッド入りして粗方しか事情を聞いていないシエルは“なんとなく”でしか理解していないのだが、それでも『黒の巨人』を3人の中でマルスが主導で動かしている事は察していた。

 そしてシエルが現状最優先すべき事態を掻い摘んで説明すると、さすがのロンメルも難しい顔で唸る。


「なるほど、アヤツの再生能力と化粧の分厚さを鑑みると一撃で屠るより他なし。しかし現状で考えうる至上の一撃はガキ共しか実現できんか」

「はい……しかしご説明した通り、彼らに一撃を託すにはどうしても硬度が心もとない。どう考えても邪気で生成した固体よりも硬いプラスアルファが無ければ」

「ぬう、確かにソレは難しい問答であるな。気合一閃、拳で鋼鉄を砕けようと大山の深部に達する事は出来ん」


 普段なら再生能力を超える連打で掘り進めるだのと口にしそうなものだが、ベッドするのが子供の命であるとなれば当たって砕けろなどとは口に出来ない。

 実力者と認めた盗賊であれば平気で天空高くぶっ飛ばす脳筋ハゲであろうと一応は聖職者としての矜持も持ち合わせているようだった。

 しかしそんな風にロンメルが眉を潜めていると、不意に首から下げていた彼には似つかわしくない装飾、緑色の宝玉が光り始めた。


「師範? 何ですかその宝玉……突然光を」

「む? 何であるか盟友……」


 宝玉はまるで語り掛けるように点滅を繰り返し、そしてロンメルは宝玉に対してそのまま返事をする。

 それは事情を知らないシエルにしてみれば奇妙な光景であったが、その宝玉は以前ロンメルと肉体談義かたりあいをして友好を持った盟友グランダルの成れの果て、魔力体の結晶であった。

 魔力体の結晶となったグランダルの意志は今も生きていて、所持者であるロンメルだけが彼との意思の疎通と“彼の力の具現”を可能としていた。


「ほう、貴殿にはそのような力が……。なに、肉体の限界? フハハ戯言を。その程度で我が鋼の筋肉を壊せるものか! 貴殿が良く知っておるであろう?」

「えっと……あの、ロンメル師範? 一体誰と話して?」

「むん! では今一度我が肉体を依り代にするが良い、盟友グランダルよ!!」


 そして傍から見れば独り言のように宝玉に向かって語り掛けていたロンメルだったが、突然緑の宝玉を天に高々と掲げた瞬間、突如発生した強烈な光に包まれて行き……光が収まったその時そこにいたのはシエルの良く知る脳筋ハゲではなかった。


「え? ええ!? あ、貴方はブルーガでお会いしたAクラス冒険者のグランダルさん!? 一体何がどうなって? ロンメル師範の正体が貴方だったとか!?」


 現世での呪肉体を失い魔力体のみになったグランダルではあったが、依り代になり得る者の許可を得る事で再び肉体を得る事が出来るのだが、その辺も詳しくは知らないシエルはただただ驚くのみでトンチンカンな事を言ってしまう。


「くおら悪ガキ共! 幼き身でありながら戦場に自ら踏み込むその胆力を評し、我らより乾坤の一振りを貴様等に授けようではないか! むうううううううう……」


 しかしグランダルは驚くシエルを尻目に『黒の巨人』に向かって一しきり怒鳴り、腕を胸の前で合わせて胸筋を強調するポーズ、いわゆるモストマーキュラーを取ると全身からまばゆい光を放ち始める。

 そして輝く巨大な筋肉の塊はその巨体を更に大きく長く伸び始めて……ついには人間が扱うには巨大すぎるが『黒の巨人』が手荷物には相応しい一振りの剣と化して行く。


「え……えええええ!?」

『ぬおおおおお! こ、これは凄い……我が肉体がそのまま武器に!?』

『これぞ我が熱き魂とロンメル殿の鋼の肉体が織りなす不滅の武装。この世で最も硬く気合の入った最強の剣。熱き血潮を介する魂を持つ益荒男のみが手にする事を許された乾坤一擲の大剣……男漢剣なりいいいいい!!』

『男漢剣……なるほど、善き名である!!』

「すげえええええ! 巨大な剣だ!!」

「やべえ! かっけええええ!!」

「行ける! この“ダンカン剣”ならあの化粧怪獣だって!!」


 さすがにその光景には多少の事では動じないシエルですら驚愕の声を上げてしまうが、当の剣になった本人たちであるロンメルとグランダルの暑苦しい会話、現れた巨大な剣にテンションを上げる悪ガキ共の声が聞こえて来て自分だけが驚いているのが馬鹿らしくなってしまう。


「あ~、えっと……大丈夫なのですか師範? いえグランダル殿なのでしょうか? どうやらそのままその子たちに自分たちを使わせる気でいるようですが?」

『問題ない光の聖女よ! この『男漢剣』は我ら筋肉で繋がる同志の魔力と筋力が高ければ高い程硬度も切れ味も増す生きた武器! 怪獣の厚化粧ぐらいどうという事はない!』

『我らの鋼鉄の筋肉とヤツの厚化粧、どちらがより分厚いのか勝負といこうでは無いか!』


 聞こえて来るのは二人分のオッサンの声であるというのにまるで同一人物が話しているかのような言葉にシエルは呆れつつも苦笑を漏らし、巨人の肩から地上へと降り立つ。


「はあ……まったく貴方も良い年でしょうにロンメル殿。いつまで前線で悪ガキでいるつもりなのですか」

『ワハハハ、スマンな奥様。後ろで尻を叩いてくれる仲間がいるからこそ、安心して悪ガキでいられるのだ! 我らのようなガキはのう!』


 楽し気にそんな事を嘯くロンメルであるが、実際彼は『予言書』で仲間を失った事で本当に自分らしくない立場である『大僧正』として精霊神教を率いる事になっていた。

 逆に言えば彼がそうやって現場でバカやっていられるというのは平和の証でもある。

 それは『聖魔女』になるハズだったシエルも『聖王』に堕ちるはずだったマルスも同様で、この場に居合わせた全員が『予言書』とはかけ離れた立場で、かけ離れたそれぞれが思う自分なりの生き様を胸に強敵に立ち向かっている。

 自分だって未だ、人妻になっても変わらず悪ガキの範疇である事に苦笑しつつ、シエルは地上に降り立って声を張り上げる。


「良いですかワーストデッド・チルドレン! これより君たちを天高くまでブッ飛ばします! 昇るだけ昇ったら手にした剣を構えて全力で回転、怪獣目掛けて力の限り突撃するのですよ!!」

「は……はああああ!?」

「聖女の姉ちゃん、何を言って!?」


 突然言われた事の意味を理解できず悪ガキたちが声を上げるが、シエルは言うだけ言うと錫杖を両手に構えて腰を落とし、両足で大地を踏みしめる。

 それは清楚とはかけ離れた力強い、目一杯の力を集中する為の構え。

 そして光の聖女は自らの守護精霊に呪文と言うよりはただの怒号のような言葉を気合たっぷりに叫ぶ。


「ハアアアアアア! 金剛、光体化アアアアアアア!!」


ズン……瞬間、シエルの脚が数センチは沈んだかと思うと、光の聖女に相応しい神々しい白き光が彼女の全身を包み込み、手にした錫杖にも膨大な光が集中し始め最終的には10倍もの長さになって行く。


「さあ、お行きなさい……死んだら全員お説教ですからね!!」


 そしてシエルは光の錫杖をそのまま振りかぶり……『黒き巨人』の丁度臀部に当たる付近を思いっきり振りぬいた。


ドゴオオオ!! 

「「「うわああああああああああああああああ!?」」」


 光属性魔法による身体強化を加えたシエルによる地上最強のケツバットを受けた『黒き巨人』は次の瞬間にははるか上空へと吹っ飛ばされた。

 巨大な暑苦しい名前の剣を手にしたまま。




カクヨムネクストにて新作連載始めました。

『魔法×科学の最強マシンで、姫も異世界も俺が救う!』

https://kakuyomu.jp/my/works/16818093091673799992

 宇宙戦争の最終局面で愛機ごと爆死したハズのエースの主人公が、愛機と共に異世界に飛ばされて戦うメカ、異世界、そして美少女の物語です!

 宜しければご一読よろしくお願いいたします!!

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