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第45話 思い出と言うヤツはセピア色に染まると言うが、わりとカラーで覚えてる。

「なぁ、なんで今日神城は誘わなかったんだ?」



――――ヒュー……パンッ!!



俺の質問と花火の開始がかぶる。しかも、屋台の発電機の音やら周りの喋り声によって俺の声はうまく届かなかったらしく、仁井園はただ、俺がなにか言ったと思ったようで、俺の方を見ると


「え? なんて?」


と声を大きめにして返した。……その言葉を聞いて、何故だかわからないが、コレは聞かない方がいいような気がして


「なんでもないっ!」


と俺は仁井園に言った。すると仁井園は首をかしげ、また空を見上げる。色とりどりの花火が辺りを赤や緑、ピンクにオレンジと染め上げる。そんな花火を見ながら、祭り会場に来て花火見るとか何年ぶりだろうか?なんて、ふと思った。


―――たしかあれは咲来と橘 伯李がまだ出会っていなかった頃、咲来に手を引かれて、咲来のお母さんと、家の親と祭りに行ったのだ。走り回る俺達を見て、『転ぶなよ』とか言われながら走って人の隙間をぬけていったっけ………



(確か……)



俺は昔を懐かしみ、咲来のつれていってくれた"せかいいち大きな花火のみえるとこ"があったことを思い出す。


「仁井園、場所移動しないか?」


俺は仁井園に声をかける。


「え? なんで? ここでも花火見えるじゃん」


「あぁ……まぁ、そうなんだけどな、せっかくだから、おまえに見せたいんだよ」


「………へ? どういう…」


「まぁ、あれだ、ついてきたら分かるから」


そう言って俺は歩き出す。しかし、キョトンとして仁井園が動かない。俺は花火が終わるといけないと思い、仁井園の手を握って


「こっち」


と言い、連れていく。あの日の咲来のように……


「ちょ、七五三田! なに?! どこいくの!?」


「"せかいいち大きな花火のみえるとこ"!」


「は、はぁ?!」


少しばかり強引だっただろうか?でも、この時俺は仁井園に見てほしかった。真っ暗な夜を色鮮やかに輝かせ、町に色をつける花火のように……


咲来がいなくなり、あの時から真っ暗だった俺のセカイに色をつけてくれた一人である彼女に…きっと俺はなんのお返しもできていない、そう思ったから―――




いやまぁなに? 人多いとこあんま好きくないってのも正直なくはないんですけどね。




そんなこんなで人混みをぬけ、会場から離れた方へと仁井園を引いていく。


「ちょっと! 花火見れないんだけどっ!」


「今から超デカいの見れるんだって!」


それから人気のない脇道にはいり、山沿いにある階段をあがる。


「ちょ、アンタほんとどこ連れてく気っ?!」


「あともうちょい!」


………そういやコイツ下駄だっけ? 俺はそう思い、一度止まって振り返る。息を切らした仁井園が、


「マジ…強引すぎるから……はぁ、はぁ…」


「いや、まじですまんかった。おまえの足元配慮するとか言っといて」


「それな! (まぁ、嫌いじゃないけど…)」


「え? なんて?」


今仁井園が小声でなんか言った。うまく聞き取れなかったけど…まさか……


「……あの、怒ってますか?」


「は? いや怒ってないし、つか……手!」


俺は言われてハッとし、パッと彼女の手を離す。


「あ、あぁ、ごめんごめん」


なんの考えもなしに手なんか引いちゃってました。ほんとすみません。とか思う俺の謝罪をガン無視して


「で、どこに世界一大きな花火があるわけ?」


と、仁井園は腰に手をあて、辺りを見回す。


「いや、あともうちょい先だ」


「……うへ、まだ歩くの?」


「マジでもうちょいだからっ」


「……ったく、ならさっさと行くよ」


なんやかんや付き合いの良いヤツである。我が儘に付き合わせてごめんね。


それからもう少しだけ階段を上がると、そこには大きな鉄塔が立っている。


「……七五三田、鉄塔と木で見えないんだけど……」


「後ろ向いてみ」


俺に言われ、仁井園が振り返った瞬間―――――



―――ドーンッ!



先ほどの会場なんかよりも、迫力のある音が響く。


「……すご……」


仁井園はその光景を見て、そうこぼした。そして


「すごいすごいっ! 超デカいっ! あたしこんな大きな花火初めて見たっ!! 七五三田すごいじゃん! 100点っ!」


と言って俺の肩をバシバシと叩きながら、ぴょんぴょんと跳ねてはしゃぎ始める。痛い痛い。つかなんの点数ですかねそれ…まぁ、満点貰えたなら良かったです。


「な、デカいだろ」


「ほんとにデカいじゃん! まさかこんなところがあったとは…っ!」


「ここはあれだ、会場と違って花火の打ち上げ場所に近いんだよ、あと、ウチの親戚の私道通らないと、分かりづらいから人もいない」


そんな話をしているうちに次々と花火がうち上がっていく。コロコロと変わる色に、仁井園が染まる。子供のように目を輝かせ、大きな花火を見る彼女を見て、俺は


「仁井園」


「……ん? なに?」


「ありがとな」


「は? なにが?」


「いや、ボランティアの時…」


「あー…別に、普通でしょ」


「いや、普通ではねぇよ…少なくとも、今まで俺はあんな状態の時に助けが来たなんて事はなかった」


「助けって…まぁ、なに? あれでしょ…!」


「なんだよ」



「"友達"だし…救うのに理由なんかいらないでしょ」


仁井園は照れ臭そうにそう言った…。そう、言ったんだ……。



「……」


「……え? なに? 七五三田?」


仁井園はこちらを向く。そして


「……え!? ちょ、アンタ…」


「……こっちみんな」


「……いや、嘘でしょ…なんで…」


「知らねぇよ! こっちみんな!」


「七五三田……」


「な、なんだよ!」


「正直引くんだけど……」


「う、うるせぇ!」


俺は流れて顎の先に溜まるそれを手で拭って目元を腕で擦る。何故それらが流れてきたのかは分からないが、何故か無性にホッとしたような気がした。そう思っていたのは、俺だけではなかったのだと、安心した。


仁井園は引くとか良いながらも巾着からフェースタオルを取り出して俺に渡してくれる。てか…巾着にそれよく入ったな……とか、なんか思ってしまう。コイツ財布もでかかったしスマホも入れてんのに…とか考えながらも、俺はその優しさに


「ありがとう」


と言って受け取り、顔をふいた。………そのタオルは柔らかくて、すごく良い匂いがした。

























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