第37話 漫画とかにある入浴イベントとは、意外と犯罪一歩手前。
【七五三田 悠莉】
……散々な目にあった。
ニキがキャンプ場を飛び回るコウモリか何かを発見し、無駄にテンションをあげながら『Fuuーッ! バッドマンッ!』とか言って、自分のはいていたサンダルをおもむろに脱ぎ、それを全力でそのコウモリらしきなにかに投げたのだ。て言うか、なんでサンダル投げてんだよ、なに?取って食べるの…?
まぁ、そんな様子を見ながら、俺は、(外国人って、いちいち楽しそうだなぁ)とか思っていると、三度目の全力投球の際、近くの枝にサンダルが引っ掛けてしまった。そして、何故か俺の方にやって来ると、腕をつかみ立ち上がらせて、なんとこの人、
『ちょっと、引っ掛かっちゃったじゃない! 取ってよ!』
と、半ギレでいってきたのである。いやおかしいでしょ、なんでちょっとキレてんだよ。自業自得だろうが。
で……それを取りに行ったら、服は引っ掛かるし、木からは落ちるし、体は痛いしと、散々な目にあって、今しがた神城と仁井園に治療をしてもらったわけなのだが……
「これでよし! もう痛いとこない?」
「ああ、悪いな神城、手間かけて…」
「いいよいいよ、災難だったね」
神城が薬箱に道具をしまいながらそう言うと、
「にしても、七五三田」
「……なに」
「アンタほんと細いよね、身体」
と、仁井園が急にそんな話をして、俺の身体をまじまじと見る。いや、恥ずかしいんだけど…あんま見ないでください。とか思っていると、神城も俺の身体をじろじろと見はじめる。
「……ほんとだよね、ご飯ちゃんと食べてんの?」
「食べてるよ、超食べてる」
俺の返事を聞いた仁井園が
「食べても太らないタイプなの?」
「……ああ…まぁ、そうかもな、人並みには食べてるし、つか、さっき一緒に食っただろ」
「いいなぁ、太らない体、私もそんな体が欲しいよぉ…」
と神城はこぼして、溜め息をついた。そうこうしていると、ギグスとニキがやってくる。そして
「今日はそろそろ解散らしいから、お風呂いきましょ」
と、ニキが神城と仁井園に声をかけた。ギグスも俺に
「悠莉、風呂に行こうぜ」
と言ってきたので立ち上がる。それから、ニキが俺の方に来ると、「さっきはありがとっ♪」とか言って何故か頭を撫でられた。
「や、やめろっ!」
恥ずかしいやら鬱陶しいやらで俺はその手をどける。
そうして、女性陣が「またあとでね」と言いながら、立ち去っていき、その後を俺とギグスが戻っていると、ギグスが
「悠莉、知ってるか?」
「……なにを?」
「ここ、女子風呂覗けるらしいぜ?」
「……………マジで?」
て言うか、なんでそんな事を知ってんですかね?なに?このキャンプ場来たことあんの?
「ああ、マジだ。 俺の先輩が去年ここに来て、覗きに成功してるらしい、言わばこの国際交流の……何て言うんだ?こう言うの、えっと…」
「……伝統、か?」
「oh、それだそれ、やるな悠莉」
指をパチン☆とならし、俺を指してHAHAHAと笑いながらギグスはご機嫌である。
ふむ……覗きイベントか…ラブコメ漫画なんかでは常套句と言うか、よくあるイベントである。そして、それには2パターン存在する。パターン1は、率先して覗こうとする主人公タイプである。彼等はエロの探求者であり、日頃からそう言った行動をとる為、ヒロインからはだいたいワンパンもらうくらいで終わりである。そしてパターン2が、いい人ぶって覗きを止めたりしてたら、なんかありえないくらいご都合的なハプニングに巻き込まれ、ちゃっかりラッキースケベを堪能する主人公である。彼等は優男を演じ、ヒロイン達は叫んで終わりである。まぁ、大概がこの2パターンだ。あれ?他にもあったような気もしないでもないが、とりあえず今はいい。では、俺はどのような行動に出ようか……?
正直、バレずに覗けるのであれば、見たくないと言えば嘘になる。しかし、ここは現実なのだ。
「覗き」なんてすれば、軽犯罪法違反(窃視)の罪、迷惑防止条例違反の罪、住居侵入罪に問われる可能性があると言うのを頭にいれておきたい。しかも、拘束なんてされてしまえば、最大で23日間は留置所である。夏休み終わっちゃうっ!
せっかくゲームも購入したのだから、ここは下手な行動は慎むべきだ。なので俺は、
「ギグス、悪いが俺はパスだ」
俺がそう言うと、ギグスは
「what's!? 悠莉正気か? 絶対にバレないんだぞ? 男なら行くべきだっ!」
「正直、俺もみたくないわけじゃない…だがな、ギグス。この国には法と言う恐ろしい絶対王者が存在する。そいつはこの国じゃ何よりも強いんだ」
「それはわかるけどよ…でも、おまえは美羽のアレを拝みたいと思わないのかよ?」
そう言いながらギグスは自分の胸の辺りで、ボインボイン、とジェスチャーを行う。見たくないわけないだろ。とも思わなくもないが、何故か知人をそう言う対象として見られることに嫌悪感を感じる。
「見たくないわけじゃないが……ま、法がな…」
俺は茶を濁すようにして話をごまかし、ギグスと風呂へと向かった。




