第23話 美少女だろうが、童貞だろうが、人間に変わりはない。
という事でやって参りました。漁協でございます。空には鳶がまい、潮と魚と油の匂い。波が防波堤をくすぐるちゃぷちゃぷと言う音……あと、俺は物思いにふけりながら振り返る。
カチャカチャ…チャカっ…ガゴっ……
無言で黙々と仕事をこなすおば様方。なんか思ってたんと違う。
***
「おつかれさまでーす」
そう言ってやってきたのは本仮屋だ。なんでも用事まで少し時間があるから、初心者の俺に仕事の流れを教えてくれるらしい。あ、そう言えばこの間神城が言っていた『来週末空いてる?』の件は、なんか買い物があったらしく、それに付き合ってほしかったとの事だった。ちなみに、話だとそれには仁井園が同行している。
本仮屋が学校のジャージ(上下とも臙脂色)でやってくると、周りの人達に挨拶を済ませ、俺を見つけて駆け足でやって来る。
「おはよございます、七五三田くん! 朝早くからすみません」
「いや、大丈夫だ。やると言ったのはこっちだしな」
「ありがとうございます! えっと、とりあえず場所違うんで移動しながら説明しますね」
「え?場所ここじゃないの?」
「あ、はい。ここは別の人達が仕分けをする場所なんですよ」
そう言うと、本仮屋は歩き始めた。俺はもといた場所を離れ本仮屋のあとに続く。歩いていると本仮屋は説明をはじめた。
「朝ごはん食べましたか?」
「あ、いや…俺朝食わないんだ…」
「え?ダメですよ、ちゃんと食べないとっ! 私皆におにぎり握ってきたので、良かったら食べてくださいね!」
「……マジ?わかった」
「それと、今日はもう1人バイトの子が来ますので後で紹介しますね」
そんな話をしていると、作業場へ辿り着く。近くにいくと、中から、
――ガーガガガガッ…ガッ…ガーガガガガッ
という何かを削るような音が聞こえた。
「え…なにこれ、ココ歯医者かなんかなの?」
俺の発言を聞いた本仮屋は、「え?違いますよ、もう!」と言って、けたけたと笑う。笑う顔を初めて見たかもしれない…。そんな素敵な笑顔の本仮屋はドアを開けると中へと入っていく。そして、俺もあとに続いた。
中にはいると、潮の香りがいっそう強くなる。中には、青い籠のようなものが大量にあり、広めにとられた手作り感溢れるテーブルには、沢山の牡蠣が放り出されている。本仮屋は、そこで牡蠣を拾い、なんか特殊な形状をしたヤスリみたいなのを牡蠣にあてているおじさんに声をかける。
「おはよう、てっちゃん」
「おー、夢、今日はこれないんじゃなかったのか?」
「あ、うん、だからお手伝いしてくれる人をつれてきたんだよ」
本仮屋がそう言うと、おじさんことてっちゃんは俺の方をみて、本仮屋に耳打ちする。
「……(ゴニョゴニョ…)」
耳打ちをされた本仮屋は、顔を赤くし声をあげる
「ちがっ…! 彼氏やないしっ! もうてっちゃん!アホな言わんとってよっ!」
おうおう、どうした急に、てかイントネーション急に変わりましたね、急に"はんなり"した感じになりましたね。コイツ出身関西なのか?
「ほんまにもう! てっちゃんすぐそう言うこと言いはるから嫌やわ!」
そう言ってそっぽを向く本仮屋を見て思う。ほんまに本仮屋の出身関西説あたりそうやんけ、ワイはちょっと驚いてるやで!……なんか俺の言ってるのは関西弁とはちょっと違うな。
それから俺が「えっと…」と溢すと、本仮屋が「せやった…!」と言って、
「この人が今日お手伝いをしてくれる七五三田くん、てっちゃんよろしくね」
「おう、兄ちゃんよろしくな、俺は本仮屋 哲二、そこにいる夢の叔父にあたる。今日は難しくはない作業だから、あんま気ばらずにやってくれ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
それから、本仮屋とその叔父さんに仕事を教わる。本仮屋はもう、関西弁を喋らずにいつも通りになってしまった…。なんだろ?なんかおしい感じがする。
「―――てことで、よろしくな兄ちゃん」
「あ、はい。この牡蠣クリーナーとか言うので、フジツボを落とせばいいんですよね?」
「そうそう、今日はパートのおばちゃんが来れなくなったし、夢も用事があるとか言うしよ、だから困ってたんだ、ほんと助かるよ」
「……ははは」
そんな話をしていると、人が作業場へと入ってきた。
「こんにちわ~…あ、おはようございま~す…」
入ってきた人物の方を見る。そこには、1000人に1人レベルの美少女が立っていた。身長は150くらいだろうか?栗色のボブカットが眩しい…ッ!
「あ、木乃葉さん」
本仮屋がそう言って彼女の側にいく。て言うかマジか、こんな人間がいるのか…と息を飲むレベルの可愛さである。大袈裟?そうかも、でも他の言い方を俺は知らない。あと、ここだけの話だが俺は可愛すぎる子は苦手である。自分に自信がないからかもしれないが、同じ人間として見れないと言うか、怖いというか……これで性格まで良かったら激しく疑念を抱いてしまいそうになる。きっと偏見なんだろうけどな…。
それから、本仮屋がその子の紹介を俺にする。なんでも彼女は先月からちょいちょい入っていて、名前を木乃葉 ひとひら と言うらしい。名前すげぇな。もうあれじゃん、名前だけで詩完成してんじゃん。なんなの?君は吟遊詩人かな?
それからこちらも自己紹介を終え、作業にはいる。
「てっちゃんさん、今日は牡蠣だけですか?」
「おー、そうだよ、今日若いのが来るって聞いたから、いつもより多めにあげてきたんだよ」
「もー、あんま仕事増やさないでくださいよ!」
「ははは」
そんなやりとりをその美少女と叔父さんがする。作業をしていると、本仮屋が時計を確認し、「あ、私そろそろ行かなきゃ」と言って立ち上がった。
「私もう行かなきゃなんで、行きますけど、皆さんおにぎり作ってるので後で食べてくださいね」
と言って鞄からタッパーをとりだし少し離れたテーブルに置いた。みんな各々お礼を言って、本仮屋は作業場から離れる。その際、俺のとこに来た本仮屋は
「七五三田くん、ほんと今日はありがとうございます! よろしくお願いしますね!」
と言ってから去っていった。さて、それからもくもくと作業をこなし、お昼となる。すると叔父さんは、
「ちと、組合の方行ってくる、おまえらは夢のお握り食べといていいからな」
と言って、出ていってしまった。美少女と俺が二人で取り残される。すると美少女はスマホをとりだし、ポチポチといじりはじめた。
(俺は何しよう……)
とりあえず、叔父さんに言われたようにおにぎりでも食べようかな?と思い、俺は立ち上がってタッパーの置かれたテーブルへと向かう。
開けてみると、ふりかけがかけられたりしたおにぎりが並べられており、おかずに卵焼きとウインナーがそえられていた。
俺はその中からおにぎりを一つ取り出して頬張る。
「……うま」
俺がおにぎりを食べていると、美少女がやってきて声をかけてきた。
「……えっと…君名前なんだっけ? 地べた?」
「……ちげぇよ七五三田、七五三田 悠莉」
「そっか、悠莉って童貞っぽいよね」
え、何この子いきなり名前で呼んできたんだけど…あと、童貞っぽいって言うな。そんな事を言いながら彼女はおにぎりをつかみ頬張る。
「あ、うまっ…夢ちゃんおにぎり上手」
「あぁ、うまいよな」
「……え?」
「え?」
何?今話ふったんじゃないの?返事しちゃダメなやつだったの?
「あ、ああ…」
何引いてんだよ…
「ね、悠莉って年いくつなの?」
「……16だけど」
「マジ?じゃあタメじゃん、私まだ15だけど、学校どこ行ってんの?」
「時高…」
時高と言うのは、うちの学校の略称である。
「へー、頭いいんだね」
「……そうか? 普通じゃね」
「いや、高校行ってるだけでも頭いいし、私行ってないから」
「……そうなの?」
「うん、私働いてる方が好きなんだよね」
「……そうすか」
「うん」
やべぇ、会話終わっちゃったよ…こういう時何話せばいいの?コミュ力あるヤツとかならすらすら話題がでるのだろうか…?とか思っていると、
「ね、悠莉、学校に可愛い子いる?」
と、木乃葉がふってきた。可愛い子……そう言われ、まっさきに神城が思い浮かぶ。
「ま、いるんじゃねーの…」
「マジ?悠莉その子のこと好き?」
「……嫌いじゃないな」
「なにそれ、あー、なんか君が童貞である理由が分かった気がする」
マジで?コイツすげぇなエスパーなの?あと、その理由がわかるなら改善策を是非とも聞きたいものである。
「……なんで俺は童貞なの?」
「え…?あはは、マジか、普通それ聞く? ウケるんだけど」
いや、ウケねぇから。それにおまえにとってはどうでもいいかもしれないけどな、俺にとっちゃわりと重要な……
そんな事を話していると、叔父さんが戻ってきた。
「おーい、おまえら飯食った? 続きするぞ」
「はーい」
木乃葉が返事をする。くそう、もう少しで俺が一皮むける方法を聞けたかもしれないのに…っ!と、悔やんでいると、
「悠莉、私の事は"ひとひら"でいいよ」
と一言言って、ひとひらは作業に戻った。いや、呼び方よりも脱・童貞の方を知りたかったです。
諸事情により、次回投稿は3日後となります。
よろしければ、ブクマしといてください。ごめんね❗




