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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
6章 あの子の嫉妬 この子の覚醒 そしてオレは魚市場

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98話 ところで、ヒュームはいくじなし

村の民による否定

いくじなし


会議は平行線


頼れる男は

天使をもちもちしつづける

「フンッ、やはりヒュームはヒュームか。飼いならされた家畜根性が染みついているようだ」


 朝髪の如く乱れた剛毛は動物にとっての鎧は筋肉にも似て逞しい。

 艶のない毛に包まれた腕を組み、カラムは小馬鹿にする感じで湿った鼻を鳴らす。

 その鋭い眼光の光る先には、ヒュームが可愛そうなほどに身を縮めている。


「……ご、ごめんなさい。でも、この村が戦いに巻き込まれたら暮らしていけなくなってしまうんです……」


 青年は、椅子の上できゅっと目を(つむ)った。

 彼の着込んだ前合わせの上着はひどく汚れて貧相な体つきと見た目に拍車をかけている。上下ともにボロボロにほつれ、村の代表というにはいささかみっともない。


「オレたちは日々の糧を得ながら暮らしていくだけで精一杯なんです……。それなのにこれ以上の負担は……耐えられません」


 膝の上で震える手の爪は土で汚れ、薄汚れた7分丈の麻ズボンから伸びる足は異様に骨ばっている。

 見ただけで栄養も教養も行き届かず貧困と食糧難の影が漂っていた。


 これはおそらく覇道の呪いではない。純粋な差別や見下しの(たぐい)が生んだ弊害なのだろう。

 ユエラですら呪いとは関係なしにヒュームという種全体を毛嫌いしている。人に限らず動物にも起こりうる生物としての本能であろうと明人は予想していた。


――過去に行った迫害が時を経て自分たちの子孫にまで紡がれるか。まったくどいつもこいつもどの世界もだな。

 

 過去の因縁は世代を越えても引き継がれるということは地球でもよくあったこと。

 1度貼られた侵略者のレッテルは時を経て下の世代を苦しめる。相手が気高く生きることをモットーとするプライドの高いワーウルフであれば、尚更当たりは強い。そっけない顔で同席しているが、ドギナとヘルメリルも感情のよめない顔をしていた。


「そちらの用意した村を防衛拠点とする策は頓挫したことになる。次の手を考えるのであれば迅速こそ懸命だろう」


「策ならば2の手3の手どころかいくらだって用意してある。まだ気を揉む段階ではない」


「そうねぇ……だな。ヒュームちゃ、たちが拒絶するのであれば村はどうあっても……使用できぬ、である」


 ヒューム種のみで粛々とおこなわれたという話し合い。それこそが代表のつどう会議に遅れた理由でもあったらしい。

 そして、青年は不幸にもこの場にやってきて結論を王たちへ伝言する役割を指名されてしまった。


「このアザムラーナに住むヒュームたちはみな一様に家族なんです……。誰かひとりでも反対するのならば……村は渡せません」


 痩せこけた青年は、自分たちが運命共同体あることを示唆した。

 話しによれば参戦肯定派はおよそ4割、反対派は2割。残りは無回答という白票なのだとか。民主主義の投票ではおよそ苦勝といったところ。

 しかし、ここはアザムラーナの村。日本のように法で管理されているはずもなく、力か感情で総意が決定されるてもおかしくはない。


「つまり、村人が全員首を縦に振らないといけないワケねぇん……オホンッ! いけないらしいな」


 威厳満ち溢れる黒壇の鎧を着てなおオカマ調が滲みでる。

 ドギナも王としての初仕事では無理もないか。きっとこれから慣れていくのだろう。

 その筋骨隆々の肢体に怯えるように、青年はわたわたと答える。


「ぼ、ぼぼ、僕は当然賛成派ですっ! ですが村を拠点にするにはやはり全員の共感が得られないと――」


「んっ、ぽぉ~~~あ~~~」


 突然の嬌声が青年の声を遮った。

 気の抜けた音により厳粛な会議の場が一時ほど妨げられる。

 円卓を囲う面々が1度だけちらりと声のした方角を向き、即座に目を逸らす。


「うへぇあひぃ……」


 審判の天使エルエルだった。

 幼いとまではいかない少女は、明人の開いた股の間にすっぽりと収まっている。

 そうやってフェイシャルマッサージを受けていた。とろけきったチーズのような表情は究極の至福の時間を物語る。


「お客さぁん。だいぶ()ってますねぇ」


 大きな手に撫でられ揉まれて天使の頬は縦横無尽に形を変えた。

 リリティアほどではないがもちもちの頬は大福のよう。

 これは、セクハラではなく治療の謝礼だった。スーツを着用し直した明人は、自身の欲望のままに天使の頬をマッサージしつづける。


「ずっとえがおをしゅるのもらくではないのれすのよぉ」


 腑抜けたエルエルは耐えられぬといった様子で明人にずるずると寄りかかっていく。

 すると、豊かな胸の谷間に挟まった首輪の鎖がジャラリと音をたてた。

 なお、キューティーは埃の積もった床で丸くなって眠っている。布団代わりに掛けられた黒のジャケットはほんの僅かな優しさ。


 本当は、本当に偉大なのだろう。エルエルの喘ぎ声が会議を妨害しようとも誰ひとりとして文句をつけるものはいない。ヘルメリルに至っては、大扉の魔法から出てきた一瞬だけ「ぴっ!?」と短く鳴いただけ。それからは一切天使の話題に触れようとはしなかった。


「はっ、あ~、ぎもぢいいでずのぉ~。これがふにゅ~様のお力ですのよぉ」


「ほっぺをぷにぷにすると気持ちいい能力ってなんだ……?」


「いえ~。これは恐らく事実ですのよ~、ほぉ~あ~もっとやってくだはい~ですのよぉ」


 呆れつつもその手は止めず。うねうね動く器用な指先で、明人は白くきめの細かい頬を余すことなくもちもちしつづける。

 やられている側も拒否するどころか、延長をせがむほどにお気に()しているようだった。


――そういえばリリティアもなんか似たようなこと言ってたっけ…。


 あれはいつだったか似たようなこと耳にしたことがあった。

 そして、その時の明人の心境は「なに言ってんだコイツ?」だった。

 いつ力が芽生えたのか。俯瞰(ふかん)で考えるならば、いつから人類にこの力がそなわったのか、だ。

 感応し、導き、本質を表し、生まれ持つ力。人類はどのようにしてこの蒼の力に目覚めたのだろう。

 持ってしまったことによってワーカーのパーツ、操縦士となった。つまり、すべては平和ではなくなったということが起因しているのだろう。


――もう知る必要も知りようもないことか。


 そんな終わってしまった世界に明人が思いを巡らせていると、視界の端で不意に動く影がひとつあった。

 頭には薄汚れた三角巾。長尺のスカートは素朴で、その身なりはおおよそ中世の家政婦ような。腰に巻かれた皮のコルセットは巻く必要もないだろうが、ワンポイントで洒落ている。


「…………」


 なにを話すでもなく無垢な瞳でそこに佇んでいた。

 明人は明らかに自分を見つめる少女へ首をかしげる。


「なにか用?」


「…………」


 問いかけても少女は話さない。

 ただ、その明人と同じ色をした瞳は、だらけきった天使と、明人を交互に見ているようだった。


「……っ! ……っ!」


 ぱくぱく、と。薄いピンク色の唇がしきりに動く。

 なにかを訴えかけているような、戸惑いを孕んだ表情。もどかしさ。


「あひぇ~、このこ、みなとですのよぉ~」


 エルエルは胸板に体重を預けながらぐぐ、と両手足で伸びをする。 

 もはや天使だろうと人だろうと関係なく、マッサージチェアに座った極楽の顔をしていた。


「みなと……心無人ってあの?」


「はいですのよ。しかもこの子にかけられているのは無声、喋れなくなるタイプの呪いですのよ」


 そう言って腰をよじりながら明人の膝の上で姿勢をピンと正す。


「心を喪失する以外の障害も心無人って呼ぶのか。そうなるとこの子は比較的軽症ってことになるのかね」


「心無人とは魔法によって後天的に与えられてしまったものの総称ですのよ。あと貴方様のなかでかけられている翻訳とワタクシたちの心無人という単語はおそらく字面が異なっている思うんですのよ」


 エルエルは明人の顔の前で細っこい指を指揮棒のように振った。

 心無人(みなと)とは魔法的障害者の総称。今や覇道の呪いにかかった種族ですら心無人と認定されている。

 すると明人のなかで、どこぞの呪われた兄妹の影が横切った。


「…………」


 そして少女はおもむろに跪いた。

 奥ゆかしい胸の前で手を結び、結んだ祈りに額を当てる。


「エルエルのところの信者だろ? なんか祈ってるみたいだしなんとかしてやれないのか?」


 明人は100年の信仰も覚める顔をしたエルエルの脇に手を突っ込んでひょいと持ち上げた。

 文字通りその体は羽のように軽く、淡い卵のような艶を帯びた皮膚はうっすら汗ばんでいる。


「うーんそうしてあげたいのは山々の山ですのよ。でも地上との過干渉は天界の望むところではないんですのよ」


 エルエルはむにゃむにゃと歯切れが悪い。

 代わりに目をぐしぐしとこすって眠気を散らした。


「それに、この子の願いはワタクシではなくふにゅ~様にあてられたものですのよ?」


「オレに? なにを?」


 明人には願われる覚えなんて微塵もなかった。なにせこの少女と青年の名前すら聞いたことがない間柄だ。


「………………」


 なのに少女は顔すら上げず、じっと祈りを捧げるだけ。

 言葉は話せないが一心不乱という様子が見てとれる。もう汚しようのないスカート越しに地べたへ両膝をついて微動だにしない。


「しょーがないですのよ。いちおう乗りかかった船だから協力してあげるんですのよ」


 と、エルエルは井辺りまで高く浮き上がり、くるりとまわって伸びをした。

 それでもやはり胸が重いのか尻を突き出しいつもの浮遊状態へと移行する。

 そして少女の頭にぽん、と手を当てた。


「村を救って、ヒュームを救って、ボクたちを助けて。ずっとそれだけを繰り返しつづけているんですのよ」


 で、どうする? とでも言いたげにエルエルは明人へ向かって小首をかしげる。

 眉で切り揃えられたブロンドの髪がさらりと流れた。


 とうに窓に区切られた外では夜が耽けている。

 静けさに身を委ねると外からドワーフによるどんちゃん騒ぎが響いてきた。いつでも騒がしい種族たちは飲めや歌えやのお気楽主義。踊る阿呆に見る阿呆で例えるならば無論のこと踊る阿呆の位置にいようとする。

 付き合わされるエルフもノリよく、今ではこの村に住まうヒュームですら輪のなかにいる。補給物資はヘルメリルが大扉で届けてくれるので、腹を空かしたワーウルフたちも相伴(しょうばん)に預かっているだろう。


 ひとつの輪が次々に繋がって、大きな大きな(えん)を作っている。

 少なくともこのアザムラーナの村は今だけは平和だった。


 それらを加味し、明人は椅子に座り直してから頭の後ろで手を組ぶ。

 そして、瞼を閉じた。


「へぇ、この子ってボクっ娘なんだ」


 一室がざわりと波立った。

 それはあまりにも非情な男に対しての疑惑の眼差しが集まる。


「そこぉっ!? ですのよ!?」


「だってオレ関係ないし。そうでなくとも危ないことはしたくないんだ」


 明人の辞書にしょうがないの文字はない。

 思考を殺して行動に出ることこそもっとも愚策と捉える。利益を求め、自己犠牲はなるたけ少なく生きる。だから臆病者と蔑まれようとも反論は決してしないのだ。


「……っ! っ!」


 少女は目尻に涙を浮かべてすがりつくような視線を投げる。

 しかし見上げられた明人はすでに瞼の裏だけを見ていた。


「な、なんという男だ……! 先の闘いにしろ性根が腐っているとしか思えん……!」


 尾を激しく揺らしてカラムは低く唸る。


「だったらカラムがやればいいだろ? でもやらないんだ。やらないならくどくど吠えるな」


 対して明人はどこ吹く風。涼しげにパイロットスーツに包まれた足を組む。寝る姿勢を整える。

 そして、ヘルメリルは対峙するふたりを見つめて楽しげに目を細める。


「おい、NPCよ。この村のヒューム全員の首を縦に振らせてみろ」


「断る。こうなることを予測してのモッフェカルティーヌ持参だろ?」


 多少燃費が悪く小回りはきかぬともモッフェカルティーヌに籠れば防衛拠点は完成したも同然。難があるとするならば、村とは違って最小限の設備が整っていないことくらい。

 長い目で見て、武器の調達と食料の自炊が可能なのは大きな戦力となりうる。そのうえ、唯一の瞬間移動魔法もちのヘルメリルがあまり右往左往せずに済むということ。とり逃がした敵がドワーフ領とエルフ領に潜む可能性を考慮すれば戦力は少しでも多いほうが良い。


 それらをわかっていても動かないのは、この作戦がエルフ女王であるヘルメリルの主導によって動いているから。責任の所在は言わずもがな彼女が背負うことになっている。


「だいいちオレの提案を蹴ったのはそっちだろ?」


 明人は片目を開いてヘルメリルを見やった。


「フッ、ムキになっているのか? しかし、貴様のだした案は最後の手段としてとっておく」


 しばしの間。青年は全員の顔色を伺うように周囲に気を配り、カラムは憎々しげに娘の仇を睨む。

 ドギナはやはり厳粛な空気に慣れぬだろう。そのくねくねとした身の振り方はもはやオカマに戻っている。

 そして少女もただ眼で訴えかけるだけ。


 平行線。そして、えんたけなわ。いつしか夜はとっぷりと暮れ、村の灯が消えていく。

 会議の行く末を見守るために待機していた明人は、どっこらと立ち上がって地べたで寝息をたてているキューティーを抱え上げた。

 生産性のない会議。無駄な時間。明人は、そっと廊下へとつづく扉へと手を伸ばす。


「だったら、だ。……だったら私もエーテル女王と同じ手法をとらせて貰う」


 睨むように。しかし、ヘルメリルは発言する。

 ぷいっと逸らした顔は横を向いて、ちらりと黒い髪からハミ出した長耳の血色が良い。

 ドアノブまで伸ばした明人の手が、静止する。その顔は邪気に満ちた微笑み。


「嘘をつくつもりじゃないだろうな? 希望の品を納品して報酬がないとか勘弁だぞ?」


「……つかん。私に出来ることならばなんでもひとつふたつくらい言うことをききいれてやるといっているのだ」


 言って、ぴこぴこと桜色の長耳が揺れた。

 明人は代表たちの集う円卓にむかって振り返る。


「その依頼確かに引き受けた」


 そして威風堂々、宣言してみせた。

 これで決闘に追いやった個人的な勝負の恨みが晴らせる。

 ヘルメリルもきっとそれを理解した上での苦肉の提案だったはず。


「明日にでも行動に移す。だからそれぞれオレの指示に従ってもらおうか」


 ヒュームたちの懐柔。ここからが本領発揮である。




○○○○○

語られないオカマのSSコーナー

……………


「んもぅ! そんなことならワタシも明人ちゃんの言うことなんでも聞いちゃうぞっ!」


「ドギナは、ドワーフ王様だったよな?」


「そうよんっ! 女王様にもなれちゃうんだからんっ!」


「じゃあ、ドワーフ領で土地をくれ」


「うぅん?」


「土地。庭付きで、花壇と畑が作れるくらいの土地」


「やだっ……! 明人ちゃん現実的ねっ……」

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