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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
6章 あの子の嫉妬 この子の覚醒 そしてオレは魚市場

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91話 ところで、戦場に舞い降りた天使の扱い

開戦の狼煙は

ヒュームとワーウルフの睨み合い


天使は弾み

ドワーフは直し

エルフも治す


人間の謀略のもとに

 上部ハッチの縁にスニーカーを履いた足をかけ、山岳級移動要塞モッフェカルティーヌの威を借る小物は腕を組む。

 黒のジャケットの下には首元を覆い隠す黒のパイロットスーツをきっちり着込んでおり、防御は万全。

 宙間移民船造船用4脚型双腕重機ワーカーの上でえばり散らすよう、舟生明人(ふにゅうあきと)は高らかに宣言する。


「オレの名前は舟生明人・ティール! そしてこれがぁ!」


 つづけてコックピットのなかでさめざめと泣いている少女を軽々拾い上げた。

 そして釣った魚よろしく天高くに掲げる。


「エルエル・ヴァルハラ! 見ての通り天界に住む天使だッ! 戦いなんてくだらないことはやめて崇め奉れぇぇいッ!」


 と、ぽっかり口を開けていたヒュームとワーウルフたちがいっせに目を見開いた。

 じょじょにぎゃん泣きをはじめる少女を見て、津波の如く色めきだつ。


「本物だっ! 間違いない! あの純白の羽は鳥族とは違う! 正真正銘の天使様だ!」


「お、おぉ……神よ……。滅びゆく我らに救いをもたらしてくれるのですね……」


 ヒュームとワーウルフたちは脇目も振らず少女へと祈りを捧げたのだった。

 名前のティール。それは、ルスラウス大陸に生まれてはじめて市民権を得た地方を指すためのもの。

 先日のリリティアとの出会い直しの際に、明人が改めて教わったルスラウス大陸での常識だった。


 そしてそんな明人が抱え上げているのは、天使エルエル。

 それは、先日使ったF.L.E.X.の存在を感知し、地上に舞い降りた正真正銘の天使だった。

 例えば、自分の作ったアクアリウムにまったく身に覚えのない魚が泳いでいたとする。その魚は泳ぎ回るたびに喧嘩をしていた魚たちを仲直りさせていくとする。しかも、予測不可能な力を使い始めたとする。

 結果、この世界の神にとって無視できる存在ではなく成っていたということ。


「うぇぇ、ひっく……ルスラウスさまごべんなざぁいですのよぉぉ……」


 観衆の前に晒されてもエルエルは泣き止まず。

 清潔感のある白のワンピースの胸部。たわわに膨らんでしまった胸を弾ませ、小さな手で涙を拭う。

 創造神ルスラウス直属の部下は、戦争を前に尻込みしていた臆病ものの謀略によって少女になってしまっていた。

 ワーカーの後ろに隠れていたカルルが長耳を垂らして頭を抱える。


「明人さん……アナタ無敵かなにかですか?」


 その身には身軽程度の革鎧と、肩には弓、腰には鞘に収まった剣。

 そして語るまでもない不敬を行ったという渋顔が貼りつけられていた。


「バカを言うな。オレは森羅万象あらゆる事柄が怖い。だからこうして使えるものはなんだって使うんだよ」


 羽毛布団のように軽いエルエルを天高く持ち上げた明人は、ニタリと笑う。

 これは、ワーウルフ種との戦争である。そして、明人にとっては依頼でもあった。

 聖都エーデレフェウスの城に住まうエーテル双王がひとり。女王テレーレ・フォアウト・ティールのヒューム救出の依頼を賜っている。

 覇道の呪いによって他種に対しての差別心を植えつけられたヒュームを守ってほしいらしい。

 しかもそれは決して簡単なことではない。それでもクーデターで疲弊しているであろうワーウルフ領にむかうためにはヒューム領を横断しなければならない。

 だから明人は、自身に危険の及ばない方法を考えに考えた。 

 そして、作戦行動中のモッフェカルティーヌのなかへとても良いタイミングで天使が舞い降りたのだ。


「さぁ! ヒュームにワーウルフたちよ! 争いをやめるんだ! うぅ……天使様は、こんなにも悲しんでるじゃあないか!」


 だから利用した。

 あらかじめ手に入れておいた混血の薬師特性、性転換ポーションを騙し飲ませて逆らえなくしてやった。

 エルエルは、しゃくりしゃくりの抗議をする。


「か、かじょうに、ひっく……てんかいのたみが、うぅぅ……ちじょうにせっしょくしちゃ、ダメですのよぉ……」


 なにせ男として大切な宝物をとられてしまったのだ。

 代償として与えられたのは大きな房が2つほど。なかったものが膨らんでしまったせいで清楚な白いワンピースの丈もかなり短くなってしまっている。

 しかし、明人にも言い分がある。


「因果応報だろ!? オマエらが神より賜りし宝物(アーティファクト)なんぞをばら撒いたことが争いの原因だろうがッ!」


 世界の代わりに怒鳴りつけてやった。

 するとエルエルは全身をびくぅっ、と弾ませる。


「そ、それは……! ぐすっ、ワタクシたちは関係ないんですのよぉ!」


「うるせぇ! 男なら言い訳するなッ!」


 怒鳴りつけて、明人は掲げたエルエルを上下にシェイクした。

 小さな体格に不釣り合いな遺伝子のいたずらは、ばるんばるんと形を変えながらボールのように大きく弾む。


「わあああん! いたい! いたいですのよおお!」


「男ならぴーぴー泣くんじゃない! 男が泣いて良いのは家族が死んだときと玉をぶつけたときだけだ!」


「そのぶつけるものが奪われてるんですのよお!? わあああん!?」

 

 ルスラウス大陸7不思議のひとつ。性転換して変わる語尾。

 出会い頭、男だった頃のエルエルは普通に話せていた。

 傷跡だらけの顔に貼り付けられた形の良い眉をひそめてカルルはため息をつく。


「ハァ……明人さん。そろそろ天使様をいじめず作戦を開始してはいかがでしょう?」


「ん、そうだな。別にエルエルは作戦に関係ないし。ただ、絶対に逃さん」


「うう……この御方とことんひどいですのよぉ……」


 知りうる情報によれば、覇道の呪いとは使用者となる根源の本能を他者へ伝染させるもの。

 洗脳魔法と異なる点は、被害者の自我が保ちつづけるということ。

 ルスラウス大陸全域に散りばめられた神より賜りし宝物の呪いは、巻かれた種が芽吹くようにしてゆっくりと根を張った。

 呪いの存在をわかっていても抑圧しきれぬそれは、他種に対しての敵意を剥き出しにするという差別心を煽るものとなって広がってしまっている。

 このままでは覇権を握った最後の1種が決定するまで血で血を洗うような闘いはつづけることになるだろう。

 武力をもって世界の中央に立つ。それこそが覇道。


 明人は、エルエルを小脇に抱えて大空へ叫ぶ。


「スカベンジ部隊出撃ィ!!」


 鶴の一声によって、モッフェカルティーヌの甲板に待機していた若葉の髪と屈強な肉体が次々に飛び降りた。

 赤の支援魔法、《ストレングスエンチャント》をその身に纏い、押し寄せる姿は赤い津波の如く。

 エルフはカモシカのように素早く村のなかを割って、入り口にたむろしているワーウルフ軍のもとへ駆けた。

 ドワーフは、なにくそと言わんばかりに鬼の形相で壊れた平屋の復興にとりかかる。


「ど、ドワーフとエルフとヒュームと天使が……手を組んでる……だと?」


「クソォッ! こんなはずではッ!」


 青年のひと声に、ワーウルフは取り急ぐよう我に返った。

 後方に控える軍に指示を飛ばす。


「展開してエルフ共の襲撃に備えろッ!! 急げッ!!」


 状況を読めばまっとうな指示だっただろう。

 しかし、軍全体の足どりは目に見えて遅い。傷だらけの鎧。血が乾いてがさがさになってしまった体毛が痛ましい。首に巻いた襤褸ぼろで腕を吊るして喘いでいる者までいる。

 彼らは、ヒュームならばなんとかなるというギリギリで対峙していたのだ。

 抑圧するだけならば良かった。だからああしていつまでも攻めようとはしなかった。

 以上の点から、もうすれにワーウルフには闘えるだけの余力が残されいないことが伺える。


 この呪われた世界で、敗北とは生きる資格を失うのと同義。敵の手に下れば道具となる。

 ならば、敗色を感じれば逃げるのも当然のこと。当然、逃げる先は弱者の住むヒューム領。

 予想通りの展開を前にして明人は軽く尋ねた。


「見る限りそっちはずぶ濡れになった野良犬以下の状態じゃないか? これ以上闘ってなんになる?」


「ふざけるなッ! むざむざと殺されてなるものかッ! せめてひとりでも多く貴様らの同胞を道連れにしてやろうぞッ!」


 ワーウルフたちは草に爪を食い込ませるようにして本物の狼の如く、姿勢を低くとった。

 野性的な瞳をギラギラに輝せて、喉を唸らせる。決死の覚悟だということが見るだけでわかる。

 エルフたちと臨戦態勢のワーウルフ軍が睨み合う。

 数はワーウルフが勝り100といったところ。そして20数名のエルフは武器すらもっていない。


「まったくモフモフの癖に武士は食わねど高楊枝を地で行くような強情さだな」


 それをよそに明人は、操縦席からこんもりと膨らんだ麻袋を引き上げた。

 そしてぐるぐると回し勢いをつけ、ワーウルフたちの方へ袋を放おりなげる。

 投げられた袋は曲線を描き、ヒュームの頭上を越え、ワーウルフたちの前の草むらへと落ちた。


「なんだこれは……?」


 すんすんと。ワーウルフは黒光りしたの犬の鼻を鳴らして袋を睨む。

 明人は高鳴る心臓を押さえ込むように手を胸に添えて、鼓動するワーカーの下部ハッチから抜け出した。


「いい加減さ、オレも自分の目的があるわけだ」


 足を上げ、踵を鳴らして散歩するようにひょうひょうと歩く。

 ヒュームたちはぞろぞろと道を開いた。ワーウルフと対峙するエルフたちも彼を戦闘に立たせる。

 小脇に天使を抱えた明人の行く手を遮るものはいない。


「やれ差別だ。やれ戦争だ。やれ殺し合いだ。奴隷だなんだ……くだらないと思うだろ?」


 そうして辿り着いたのはワーウルフ軍の目の前だった。

 その肩には御用達の散弾銃、RDIストライカー12は下げられてはいない。攻撃が開始されればいの一番に喉首を掻き切られる。


「戦争なんぞは貴様らがヒュームがはじめたことだろうにッ!!」


 唾を飛ばすようワーウルフは威勢を上げた。

 爪を大地に食い込ませ、喉笛を噛み切ってやらんとばかりにじりじりとその姿勢は低くなっていく。

 エルフたちの顔つきも険しくなる。が、明人は構わない。


「もううんざりなんだよ……オレの世界を見てるみたいでさ」


 そしてやれやれといったていで、麻袋のなかから草をとりだす。

 さらにその草をワーウルフたちの注目するなかでおもむろに、はんだ。

 青臭い香りと下の痺れる苦味に「オエッ……まず」思わず顔をしかめる。


「これは薬草だ。毒も入ってない。だから是非怪我してるやつに使ってやってくれないか?」


 それらは魔草。自然魔法使い(ネイチャーマジシャン)の精製した特効薬だった。

 ヒュームとエルフの血が混じり合った、ひらめきとマナの扱いに長けた者だけが作ることを許された秘伝の薬草。

 ワーウルフたちは投げられた麻袋を前にして固まった。


「いい加減、この恨みの連鎖は断ち切ろう」


 明人は微笑みかける。

 その言葉を聞いた毛並みの美しい精悍せいかんな獣たちの目には、僅|ながら光が灯っていく。

 覇道の呪いに対してが至った結論。それは、相手に敵意以外の感情を思い起こさせること。

 心配でも、尊敬でも、感謝でも、なんでも良い。ただ相手の心にもう1度だけ他者を思いやるという尊い心情を芽生えさせるというもの。

 この方法ならば呪われた指輪、マナレジスターを使わずにすむ。スマートで優しい方法。


「……なんのためだ? なぜ我らに施しを与える?」


「施しなんて大層なことはしてないよ。ただヒュームもワーウルフも、どっちもを助けたいだけだ」


「…………」


 ワーウルフの獣は麻袋を4つ足で慎重に、ゆっくりと慎重に近づいていく。

 様子見を2、3度ほど行いつつ震える顎で麻袋の口の部分を噛んでから尾を翻す。

 そしてワーウルフは思いを受けとる。しゅんと、垂れた尾は振り子のように右へ左へ揺れ動く。


「草に詳しいエルフたちも治療に参加したいんだってさ。餅は餅屋っていうしそのほうが治療も確実に住むと思うんだけど」


 どうかな? と、問うまでもなかった。

 短く「好きにしろ」の声が響く。

 ワーウルフたちは武器をもたずに近づいてくるエルフたちをすんなりと受け入れたのだった。

 解呪の確信を得た明人はようやくといった感じで深く吐息を吐く。


「はぁ……なんとか上手くいったな……」


 視界の先では輪が広がっていた。

 無償の対価が波紋のように、繋がる優しさから溢れる笑みはじんわりと火照るように増えていく。


「やりましたね。思いを拾う(スカベンジ)する部隊による初任務成功のようです」


 いつの間にやら明人の隣に佇んでいたカルルは、笑みを浮かべ、拳を突きだす。

 明人も、それを見て拳を合わせる。


「今回は弱みにつけ込んだだけだ。次からが本番だよ」


 ヒュームはドワーフたちと語り合い、金槌で木を叩く。

 エルフは忙しなく駆け回りながら、礼を言って頭を下げるワーウルフたちを懸命に治療していく。

 カルルは平穏を横目に、明人に顔を近づけてしんみりと耳打ちをした。


「ちなみにですけど……魔草は煎じて塗る薬です。なので近いうち明人さんのぽんぽんが痛くなってくると思います?」


「ま、マジ? 薬草って経口摂取じゃないの? オレずっとゲームの薬草って食べるものだと思ってたんだけど?」


「なにを言っているのか理解しかねますが、経口摂取で効能がでるのは水薬のほうです」


 その後に合流したメスのワーウルフたちと一悶着あったが、オスのワーウルフたちの説得でなんとか丸く収まった。

 そして魔草を食べた明人は盛大に腹を壊したのだった。



○○○○○

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