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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
4章2節 あの子の初恋 この子のエプロン そしてオレは空を翔ける

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『※イラスト有り』73話 【VS.】恨みを継いで接ぐ エリーゼ・E・コレット・ティール

挿絵(By みてみん)


4章のモチーフイラスト完成です

引き続き美麗なイラストを描いていただいた仲田静様には感謝至極です

ちなみに大きいほうがモッフェカルティーヌとなります



「いらっしゃい。会いたかった」


 年若くしてあどけない銀皿のような瞳が闇に移ろう。

 薄暗い一室にまるで水を垂らしたよう抑揚のない声が反響した。


「いるとは思ってたけどさ。オレは会いたくなかったよ」


 対峙する、人間とエーテル。

 互いの後方には青と白の大きな球体が鎮座する。

 ひとつの球体は、広く薄暗い部屋を夜間作業用のLED光で照らし出す。宙間移民船造船用4脚型双腕重機ワーカー。

 もうひとつは、無数のパイプに繋がれた球体。山岳級特攻兵器モッフェカルティーヌの心臓であるマナ機構であろう。

 どちらも威嚇し合うように負けじと唸りをあげる。


「なに? その格好、変態的」


 エリーゼは眉をよせての訝しげな視線を細めた。

 無理もないだろう。対する相手が、体にピッチリと貼りついて肉体を惜しげもなく浮き上がらせるスーツを身にまとっているのだから。


「そう言われると思って普段から上に服を着てるんだ」


 明人は、普段着用している黒のジャンパーとくすんだジーンズを脱ぎ捨て、パイロットスーツで決戦の場に赴いた。

 黒を基調とした全身を包むタイツのようなピッチリスーツ。ダサさもあって上から普段着を着込んでいたが、今は話が異なっている。なんと保温性に優れており耐久性もある。

 キュッキュと。明人は、地球にいたころに魔改造した革手袋の感触を確かめた。

 防刃性に優れたケブラー製で、そして拳の鉛が攻撃性を増す。


「あの不思議な武器は使わない?」


 エリーゼは、入念に体をほぐす明人から目をそらすことはない。

 猫のようなぬいぐるみをほどほどの胸に押し付けるように抱いて佇む。

 井戸端で偶然出会って何の気なしに会話するかのような緊張の欠片もない雰囲気だ。それでも川が海に流れていく道理と同様でここからはぶつかり合うのが運命さだめとなる。


「ああ、ストライカーはもう警戒されてるだろうし。それにしてもバカだな。まさかここまで敵が1体もいないとは思わなかったよ」


「誘いこんだ。アナタは私の手で葬る。エーテルの誇りにかけて屈辱を倍にして返す」


 熱がこもるようにエリーゼの能面のようにまっさらだった表情が険しくなっていく。


「穴があったら入りたいって感じだな。でも、アレはそっちが自分で勝手に掘った穴だろ」


「っ!」


 過去の痴態を比喩で揶揄やゆされ、銀の瞳キュッとすぼまった。

 ここで、体の調整を完了した明人は戦闘の構えをとる。握られた拳は接近戦インファイトの姿勢だった。

 臆病である。臆病であるがゆえに無駄な闘いを巧みに避ける。しかし、まったく戦えないわけではない。

 相手は魔法を用いる魔法使い。こちらはその魔法をあるていど散らすだけの人間。触れれば勝ちだが防戦に回れば一方的にかたがついてしまう。

 ワーカーを使用しないのは敵の《レガシーマジック》であるセリーヌを警戒したため。重機を操られるだけならともかく、閉じ込められれば敗北が確定するだろう。


 ごうんごうん。耳障りな駆動音の鳴り響く静寂という矛盾の空間。

 窓のない閉鎖された部屋に風はなく。重機を降りてなお漂う鉄と油の臭いが鼻につく。


「先手はくれてやる。それが始業の合図だ」


 明人は犬を誘うように左手を動かした。

 薬指だけ切り取られたグローブから露出した指に、ブルーラインの指輪がキラリと光る。

 この場に開始のゴングはなく、ウェストミンスターの鐘のチャイムも鳴らない。

 火蓋を切るのは当事者同士の特権。そして、終わりを告げるのも言うまでもなく互いの匙加減しだい。

 高鳴る心臓はいつもよりも穏やかで、力強い。手足の先は熱湯に漬けこんだかの如く、昂ぶっている。


「じゃあ、お望み通り私からいく。言っておく。アナタが死ぬまで止まらない」


 コツコツと。フリルのしつらえられた前開きのスカートから伸びたしなやかな足が鉄板を踏み鳴らす。


「……?」


 明人はその姿に僅かな違和感を感じとった。


「《ライトニング》」


「――ッ! 《マナレジスター》!」


 考える間もなく、もう誰も止めるものはいないルール無用の死闘が開始された。

 エリーゼの白い手から放たれる青い稲光を左手でかき消し、明人は距離を縮めるべく鉄床を蹴る。


「《ハイウォーター》」


「――ふッ!」


 歌うようにして唱えられた魔法は、水竜となって遅いかかってくる。

 それを明人は横に飛んで危なげなくかわす。

 マナレジスターの上級魔法までは防げないというハンデは致命的だった。しかも総合的に見て敵の体内マナを切らせるのは非現実的。次いでくるであろう詠唱の音色にも最大限の気を使わねばならない。

 ワーカーにスポットライトの如く照らされた舞台で踊る。

 明人は駆けて、飛んで、消して。澄み渡った思考と自由に動く体は勝利をもたらす精神的主柱のおかげ。

 あるていどの接近を許して気が変わったのか、エリーゼも床を蹴って明人の頭上天高くを飛ぶ。


「ふふっ、ヒュームのアナタ。上位種である私。ついてこられる?」


 可愛げあふれるゴシックロリータ衣装に似合わずとても人間には真似のできない跳躍力で跳ねた。

 モノクロのスカートを羽を広げた様は羽ばたくアゲハ蝶の如く。そして縮まったはずの距離がいとも容易に振り出しへと戻された。

 しかし、両手でこちらを誘うエリーゼの影がこちらにむかって伸びている。


 互いに背負う球体が変わる。

 つまり、位置関係の逆転。


「ああ、どこまでもついていくさ……――ラキラキやれッ!!」


 ワーカーの足のから飛び出す小さな影と巨大な槌。

 白槌を振りかぶったラキラキが敵の背後から襲いかかる。


「くらえええい!!」


 鼓膜を揺さぶるのはヒットの衝撃か。

 豪の音で風を切る白槌の必中の1撃は獲物を捉えた。


「む? お、おらんぞ!」


「な、なんだと!?」


 きょろきょろとラキラキは慌てて周囲を探る。

 残されているのは破れて綿が飛び出たぬいぐるみのみ。

 確実に当たっていたはず。表情を変える間もなくエリーゼの側頭部が穿たれる瞬間まで、明人は自身の目で視認できていた。


「――なっ! ふにゅー! 後ろじゃ!」


 殺気。明人は瞬時に振り返りながら手を伸ばす。


「マナレジス――がはッ!」


 内蔵が渦巻くようにして呼吸がとまった。

 一息おいて側頭部をハンマーのようなもので殴られたかの如く衝撃が襲いかかった。

 明人は弾き飛ばされたかのように硬い床を転がる。腰に帯びていた合成皮革ごうせいひかく製のポーチからバラバラと物が散乱し散らばってしまう。

 エリーゼの放ったのは腹部への一撃と蹴りのコンボ。つまり痛打。


「ぐっ……ゲホっ……!」


「ここはセリーヌ・モッフェカルティーヌのなか。セリーヌは、このモッフェカルティーヌのすべてを把握してる。友だちの声を聞けば気配を消していてもきづく」


 星が舞って赤らむ明人の視界に映った靴は、光沢を帯びて黒炭の如く輝く。まるでバレエシューズのように動きやすそうな形状をしていた。


「ふふふっ、不思議? 人形は私の偽物。本物の私はずっと上にいた」


 エリーゼは、長く垂らした二つ結びを揺らしながら悠然と近づいてくる。

 見落したことでミスはあった。しかし、もっとも気をつけねばならぬことを履き違えていた。

 ラキラキ、リリティア、ユエラ。この世界に入り浸っていなければ必ず注意がむいただろう固定観念。それどころか魔法に対応できるのならばそれこそが人間にとって最もな危険ウィークポイントだと懸念すべきだったのだ。


 気づくべきは敵が人間と比べ物にならないほどの圧倒的な身体能力を秘めているということ。

 触れれば勝てるなんていう最も愚かで最悪の選択だったのだ。

 明人は側頭部に疼きを残しながらも構えの姿勢をとった。


「もう動けない? 動かないなら剣聖は血の盟約に従って死ぬ」


「なっ! ど、どういう……ことだっ……!」


「盟約は盟約。自分の意思で他の種族と命を賭けた勝負をすれば剣聖は死ぬ。命じているアナタが死ねば剣聖も共倒れ」


 こちらを見下げるゴミみるような感情のない瞳だった。

 裏腹にセリーヌは愉悦を楽しむが如く口角をゆっくりと鋭角に決めていく。


「そ、んな……バカ、な話がッ……!」


「ところで、他種族の命令に従っていても盟約は発動するはず。アナタ……いったいどうやって聖剣を抜いた?」


 明人は脳への衝撃でうつつを彷徨っていた。

 しかも内側で燻っていたはずの恐怖心が、再燃する。

 そしてそれは普段の臆病風ではない。親しき者を失う、死と同様の恐怖によく似ていて……


「…………………………





                …………………………」


 血は氷の如く冷たく、脳は透ける如く冴え渡り、心音は体をおののかせるほど高らか。

 心の皮が剥がれるように。臆病者のなかに確固たる意志が芽吹いていく。


「…………」


 明人は、足元に落ちていた銀色の四角いケースを拾い上げた。

 あらかじめ決戦のためにワーカーのダッシュボードから持ってきた、もうひとつの切り札があった。

 それは、臆病者だからこそ必要であるもの。


「10秒でいい時間を稼いでくれ。それで馴染ませるには充分だ」


「がってんじゃ。だが、10秒とは言わず癒えるまでゆっくり休んでおっても良いぞ」


 低い立端たっぱのわりに頼りになる言葉だった。

 その幼気な手にもたれた白槌はロウのように白く、双腕から託された思いも重なって、心強い。


「じいさんがそれをラキラキにそれを託した理由はもう分かってるんだろ?」


 問いかけに対してラキラキは少し悩んで星の如く澄んだ眼でこちらを見上げてくる。


「……相棒よ。死ぬでないぞ」


 思わず頬を緩めてしまいたくなるような。ずいぶんと長く生きて、小さな友だちが出来るとは。

 ラキラキは命を預けるに見合う心意気を笑顔で表現してみせた。


「お互いにな。相棒」

ここまで読んで頂いてワーカーちゃんも喜んでおります

挿絵(By みてみん)


※おまけでいただきました

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