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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
4章2節 あの子の初恋 この子のエプロン そしてオレは空を翔ける

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65話【VS.】継ぎ接ぎの召喚使い エリーゼ・E・コレット・ティール 3

 詠唱。展開される蒼の光輪。その指に装着されているのは、ヒュームによって作られた神より賜りし宝物(アーティファクト)の模造品か。


「う、うそっ!?」


 体を覆う支援魔法とともにモノクロの衣装が弾け飛んだ。

 エリーゼの無の表情は恐怖の色に歪む。女性としての魅力がしっかりとしたなだらかな曲線が露となる。


「霧がでてくれたおかげでやりやすかったよ」


 足首がさらわれて泥のなかに引き倒される。


「あっ――ぐッ!」


 したたかに背を打ち苦しげに喉から空気を漏らして喘ぐ。

 白銀の髪とインクによって彩られた顔は跳ね上がった泥に汚され見る影もない。


「ユエラ! やれ!」


 その掛け声にただならぬ気配を察して肉体のみで抵抗を試みるも、時すでに遅し。


「んっ! 《バインド》ッ!」


 地面より生えた蔓によって手足を縛られ身動きもとれず。マナを失ったため魔法も使えず。

 晒された素肌に触れる冷たい雨の感触にぶるりと身震いをして、エリーゼは勝負が決したことを知る。

 圧倒的な敗北だった。使用者がマナを供給できなくなったことによって召喚されたセリーヌも体を保つことができずに溶け消えていく。


「さあ、そこからどうする? 狂人パラノイア


 自身の上に馬乗りになって青年はこちらへ黒い筒をむけてきていた。

 首を半分ほど覆う肌着の上にもう1枚黒の上着を羽織っている。その姿に飾り気はないが、どの種族のものともわからないおよそ見たことのない恰好。


「…………ッッ!」


 寒さと後悔の念で血の気が引き、エリーゼは心が蒼白になっていくのがわかった。

 敗因を上げればキリがない。魔法をはじく特殊な白槌、才能あふれる混血、圧倒的な力を持つ鉄巨大。

 油断はしていなかった。しかし、それでも戦況を3対1だと見ていたことがこうなった要因であろう。

 召喚することで3対2へ。セリーヌが鉄巨人と対決することで混血とドワーフを相手取った2対1。しかし、百余年にもおよぶ戦闘経験で培った勘がすべて否定されようとは考えもしなかった。


「ヒューム如きの巨大如きが……! まさか自律行動ができるなんて……!」


 辛酸を嘗めるが如く苦々と吐き捨てる。

 ずずずんごうごう。ぬかるむ大地をものともせず。生命の鼓動を上げながら鉄巨大はこちらを見下す。

 これが技術によって作られたものであることは確か。それもかなり精錬された技術。

 つまり、敵は3ではなく1機を合わせた4であったということ。


「おしいなぁ。不正解だ」


 そう言って、青年は腰のあたりから手のひら程度の薄い長方形を取りだす。

 チラチラと。赤い点が点滅し、四角い透明な箇所に浮かぶ文字。丸く網目状になっている箇所もある。


「これは発信機でも通信機でもなくい。ただのリモコンなんだよ。遠隔操作が可能なリモートコントローラー……って言ってもわからないか」


 ポタポタと。敵から溶けて流れ出した泥がエリーゼの引き締まった肢体を茶に染め上げていく。


「失くしても大丈夫。現場監督が作業の状況を見ながらパイロットに指示をだせる。単独で作業をするときも安心。重機のお供ってやつだ」


 つらつらと。それでいて決して筒をこちらの額から逸らすことなく、敵は混血にむかってそれを投げ渡した。


「失くしても……? ま、まさかッ! 研究所が見つかったのもそれのせい!?」


「そっちは正解だな」


 こちらの氏名を制している状況でなお緊張を緩める様子はない。

 その漆黒の瞳に一寸のぶれもなく、徹底した行動はつけ入る隙が微塵もなかった。

 よほどの殺意か、余裕のなさか。はたまたそのどちらもという可能性がある。

 エリーゼは、この男がどうにかして剣聖の制約を解き放ち、剣聖本体が救済の導を壊滅させるべくいいように男を操っているとよんでいた。

 しかし蓋を開けてみたらどうだ。研究所の壊滅、模造品による呪いの浄化、エルフ女王の決起。これらすべてがたったひとりのヒュームによって成し遂げられたという現実が突きつけられた。


「さて、どうしてくれようか。オレは今かなり機嫌が悪いんだ」


 そして、今まさに計画の肝となる自分が殺されようとしている。

 死ぬことは許されない。少なくとも、近くやってくるであろう運命の日を迎えるまでは。


「なっ――なんでもする! 私はアナタのモノになってもいい! だから……だから! 殺さないでっ!」


 エリーゼは二房の髪を揺すりながら懇願した。

 ここで死ねば数百年にも渡って作り上げた計画のすべてが水泡に帰す。救済の導の最終到達点である全種の滅亡まであと一歩。例え敵の足を舐めてでも生き残らねばならない。


「ほ、ほら! 胸も、唇も、お尻だってかまわないっ! 全部好きにしてもいい!」


 肩を広げて小ぶりな胸を突き出し、恥辱の熱が体を火照らせる。それでもエリーゼは目に必死に命乞いをこころみた。

 後手に縛られた手で腰を持ち上げ、誰にも触せたことのないふとももを淫靡にこすり合わせ、口を広げてピンク色の舌を突き出す。男を籠絡するための淫靡な仕草を思いつく限り全て行ってみせた。

 それでも敵の表情に一点の曇りもない。氷のように冷たく、なんらかの武器であろうものをこちらにむけるだけ。


「はぁ……往生際が悪いわね。同じ女として恥ずかしいわ」


 その横で、混血が蔑むような尖った目付きで大きくため息をついた。

 貶され侮蔑され汚されようともエリーゼにはどうしても生にしがみつければならない理由がある。


「そ、そうだ! は、はじめてだから、私の心も体もすべてはアナタのものに――!」


 それを聞いて、青年の口調と顔つきが裏を返すように明らかな変化を見せた。


「オレの世界にはそういう野郎がうじゃうじゃいた。だからオレは、自分を売るような真似をして相手に媚びを売るヤツが一番嫌いなんだよ」


「――っ!」


 眼前にまで黒曜色の瞳が迫ってきた。

 畏怖の衝撃がエリーゼの体中を電撃の如く駆け巡った。肌が泡立ち、心臓を氷の刃で刺さされたかのような錯覚を覚える。

 生命に対してゴミ見るような一切の感情が消えた瞳だった。皮のなかに歯車が詰まっているのかと勘違いしてしまうほどに冷淡な表情まで。

 まるで冥府の底に落ちたことがあるような心の無い面構え。きっとこれがこの青年の包み隠していたであろう真実の姿なのだろう。


「ぁ……ぁぁ……やめっ、はッ……!」


 濡れそぼった白の下着はじんわりと暖かくなり雨とは異なる液体が尻を通じて泥へと流れていく。

 エリーゼは青ざめ、歯がカチカチとひっきりなしに音を立てた。


「いっ、いや……イヤアアアアアアアア! いやいやっ! 助けてッ! 誰かぁ!」


 感情の破裂によって絹を裂くような悲鳴が切り立ったがけの麓に鳴り響いた。

 吹き荒れる暴風。雨足は弱まることのなく、熱い雲に覆われた天は哀しみの涙を流しつづける。


「っ」


 そして、なにかが近づいてくる気配を感じた。

 嗚咽をあげて泣きじゃくるエリーゼの鼓膜に響く、水を叩く足音か。

 直後。黒筒に引っ掛けた指を動かそうとしていた男が、ゆっくりと倒れる。

 見れば、淡く輝く銀色の針が1本、露出した首筋に刺さっていた。


「明人ッ!」


「《マジックアロー》!」


 仲間の元へ駆けつけようとした混血の足元に数本の魔法の矢が刺さった。


「くっ――!」


 飛び退く混血との間によく知った顔と長耳が割って入った。

 誰でもない。先ほど別れたばかりの信念をともにする同士だった。

 ティルメルは縛られたエリーゼを軽々と抱え上げ、駆けだす。そして耳元で忌々しげに呟く。


「アンタが負けて死ぬのは別に構わないわ。でも、セリーヌの魂をアレに移し替えてからにして頂戴」


「で、でも計画は……まだ準備が整ってない!」


「こっちは最悪の状況よ。手駒の屍は、剣聖と語らずという化け物共ののせいで全滅したわ。時間稼ぎはもう無理ね。だから、不完全でも今すぐに起動させるわ」


 覇道の呪いによる効果を模造品によって浄化し、種族の壁をとりはらった救済の導であるからこその偉業の兵器を可能とした。

 ドワーフの技術力と、ヒュームのひらめきを結集して計画は練り上げられた。

 そして、首都ソイールには百年にもおよぶ時を掛けて作られた魂の器が眠っている。


「舟生明人……!」


 流れる景色とともに敵の姿が遠ざかっていく。

 それを見てエリーゼは安堵し、恐怖の余韻のうちに熱く燃え上がる決意を固めた。


「アイツだけは許さないッ!! 絶対にッ!!」


 モッフェカルティーヌをもってして必ずこの屈辱を晴らす、と。



○○○○○

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