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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
4章2節 あの子の初恋 この子のエプロン そしてオレは空を翔ける

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64話【VS.】継ぎ接ぎの召喚使い エリーゼ・E・コレット・ティール 2

◎◎◎◎◎


「おじいちゃんはどこじゃあああ!」


 小柄な体格に似合わぬ豪腕を振るい、雨を纏った白槌は鮮やかに飛沫を上げた。

 一撃でも攻撃を受ければ戦闘の継続は不可能だろう。それが《マジックスタンパー》であればなおのこと。当たった瞬間に体内マナは外部へと散らばり魔法の使用が制限される。

 対魔法使いに限らず攻防ともに優れた、双腕の傑作のひとつ。ルスラウス最強の魔法使いが持て余した理由も実際に相手取れば頷けるというもの。


「おおおおおおおおおおおおお!!」


「大ぶり、甘い、当たらない」


 ぬかるむ大地を撫でるが如く、エリーゼは軽やかな足取りで白槌の猛攻をひらりひらりとかわす。

 敵は圧倒的な経験値不足で年の功が勝るというもの。これが剣聖と並ぶ実力の持ち主、双腕であればと思うとおぞましい。


「……まさか自分の孫のなかに隠しているとは思わなかった。どうりで探しても見つからない」


 冷淡。しかしエリーゼは僅かな悔しさを噛みしめた。

 エルフが国境を越えたときを狙って理屈を結んだのだろう。時限式というよりは条件付け。魅了にかかりながらも強靭な精神力。


「託されたんじゃ! じゃからワシがおじいちゃんを助けるんじゃ!」


 目に涙を浮かべながらも衰えない縋は嵐の如く、さすがは双腕の孫といったところか。


「でも、まだぬるい。《ライトニング》」


「――んなっ! ぐあああああッ!!」


 エリーゼは掲げた右手に意識をむけさせ、左から稲妻放射した。

 そして当たりを確認して白光する幼子を蹴りつける。


「ガぁッ、は!?」


 もんどりうって吹き飛ぶ敵へ即座に追撃の一手を加えんと、エリーゼはぬかるみを蹴った。濡れた白銀の髪が尾を引いてなびく。

 これを片付けても敵はまだ2体いるという焦り。剣聖ばけものと語らず(ばけもの)のいるとするならば一刻の猶予もない。

 と、その時だった。


「高位たるは、純血、不屈の理。現界せしめる真名はユエラ……アンダーウッド。混血の標たる象徴――」


 喝采の如く水を叩く音に加え、それを縫って耳に届く。

 凛とした詠唱こそ、環境マナを集わせる《エピックマジック》の予兆だった。

 察知すると同時に、エリーゼは姿勢を低くとって踏み出した勢いを手と足で減速させた。

 見れば、混血ハーフは鉄巨大の上からこちらにむかって狙い定めている。


「《エピック・ハイフレイム》ッ!」


「くっ! 《ハイウォーター》!」


 ぶつかり合う金光の炎蛇と水流の津波。熱を持った蒸気が周囲をミルク色に染め上げる。

 長きに渡る生の経験が生んだ一瞬の判断だった。

 雨のなかであってもこの威力である。もし防壁の《プロテクト》であったなら破られていただろう。

 それもすべて、混血の意味を正しく理解している救済の導であったからこそ判別が可能だった。

 立ち込める霧にぼんやりと影が浮かぶ。あのヒュームが研究交配によって成し遂げた奇跡と対面することになるとは。


「2対1で卑怯だなんていわないわよね?」


 そして、野望のために焦がれつづけて命を落とした愚かしいヒュームの娘がここにいる。

 エリーゼは僅かに目を細めた。


「いわない。神に選ばれし新種、ユエラ・フィーベリク・アンダーウッド」


 それを聞いて、相手は僅かに不服そうに眉をよせる。怪訝けげんな顔つきで濡れそぼった髪を散らした。


「その名前嫌いなのよね。だから、私はユエラ・アンダーウッドよ」


 相手はヒュームとエルフのミックスだ。

 2つの種族の特性を交わらせた希少種。うちに秘める才能は計り知れない。


「ちょうどいい。アナタを輪廻へ送るのも私たちの役目」


「そっ。じゃあこっちも遠慮なくいかせてもらうわ」


 しかし、敵はうら若く、才能の開花はまだ遠いはず。

 エリーゼは泥にまみれた頬を猫のように拭う。そして、魔法によって立ち込める霧の中で距離を測った。

 円を描くように、互いが相手のでかたを伺うような局面か。


 もやにぼんやりと浮かぶ大きな影がふたつ。

 混血少女の背後では鉄巨大と、泥巨大のセリーヌが未だに殴り合いをつづけている。


「そういやアイツが私を頼ってくれることってそんなにないのよね」


「……なんの話?」


 手を伸ばす構えをとったまま、混血が語りかけてくる。


「それにさっきもだけど、絶対に私のこと見くびってると思うのよ」


「…………」


「まぁ……不甲斐ないところばっかり見られてるせいもあるだろうけど。たまにはかっこいいところも見せたいじゃない?」


 エリーゼは目を細めて注意深く周囲を見やった。

 絶え間なく降りしきる雨。焦がしたチーズのように靴底に絡みつく泥濘でいねい

 ほうほうと。白槌を杖代わりに立ち上がろうとしているドワーフの娘は痺れてしばらくは動けないだろう。


「……時間稼ぎ?」 


「世間話よ」


「それを時間稼ぎっていう」


 ぐるりぐるりと円を描いて、なるほどどうしてあと一歩が踏み込めない。

 油断のない構えに、隙のない歩幅だった。大陸最強の魔物が蔓延はびこいざないの森を住み家にする物好きという噂は、どうやら真実らしい。


「あのヒュームのことが好き?」


 ゆさぶり。会話に応じるというのであればそこから崩す。

 しかし、混血にどうようする気配は毛ほども感じなくエリーゼの問いに対して即答した。


「あるていどは。アイツが短い人生を終えるまで寄り添えるくらいにはね」


 逆にこちらが動揺してしまうほどに真っ直ぐな彩色異なる緑と琥珀の瞳だった。


「それ熱愛……――ッ!」


 エリーゼが言い終わる直前、動く。

 大胆な短さのスカートから伸びる白い足が地べたを蹴り込んだ。


「《ライトニング》!」


 くうを裂くような青い稲光を放ってくる。

 脊髄反射で横に回避し、続けざまにエリーゼも攻撃に移る。


「《プロテクト》! 《ライトニング》!」


 両者、最初と比べて半円の位置で光と光が交差した。

 前後上下左右、立体を駆使して打ち込まれる魔法使いどうしの闘い。

 威嚇し合うように、鼓膜に刺さるが如く雷鳴が高く轟く。

 僅かでも攻撃が肌に触れれば濡れた体を硬直させるだろう。そんな一撃必殺の空気が頬を火照らせ、体を芯から高揚させた。


「《マジックサポート》!」


「《ストレングスエンチャント》!」


 支援魔法の発動によって空から舞い降りてくる透明なベールが、互いの体を包みこむ。

 エリーゼの攻めの強化である黄に対して、相手は回避である赤を選択する。やはり時間稼ぎ。

 より一層強くなる雨風のなかで吹き荒れる回避と魔法の暴風。足元の泥はもはや波紋を作り、沼の如くさざなみ立っている。

 エリーゼの焦りが頬をつたい落ちるほどに色濃くなっていった。


「しかたない……。《ハイプロテクト》!」


 魔法と接近を遮るためのレンズのような透明な壁を現界させる。


「――ッ! 《プロテクト》!」


 それを見て異変を察したのか、混血も守りの体制を整えた。

 巨大たちの闘いを背に、エリーゼは唱える。


「《リムーブユニオン・マイセリーヌ》」


 その言葉に反応してセリーヌはぴたりと動きをとめた。

 しかし、鉄巨大はそんな泥巨大を一心不乱に殴りつづける。この期に及んで無駄な労力だと理解していないのだろう。


「ハァハァ……降参、って感じじゃなさそうね」


 体力魔力ともに限界が近いのだろう。

 肩で息をしながらも混血は気丈に振る舞ってみせる。涙ぐましいとはまさにこのこと。


「アドバイス。戦うなら切り札を持つべき」


 エリーゼは、誘うが如く両手を広げて嫣然と微笑んだ。

 刹那。セリーヌは泥を巻き上げるように巨大に膨れ上がり、眼前の鉄巨人を包み込む。


「ふんっ、それが切り札? その程度でどうにかなるとでも思ってるってことかしら」


 外套の裾をはためかせて佇む姿はいっぱしの魔法使いだった。

 よほどあのヒュームと信頼関係を築いているのだろう。そして、警戒して動かぬ敵を見てエリーゼは勝利確信する。


「セリーヌは、私が魔法研究で召喚に成功したひとつの生命体。そして私のお友だち」


 泥に被った鉄巨大はじょじょに力を失うようにして動きを鈍らせていく。


「セリーヌは泥巨大じゃなくその内側の魂部分の名称なの。だから――今度は魂を鉄巨大に移し替える」


 魂を継いで、体を接ぐ。 

 これこそが救済の導での使われるコードネーム、継ぎ接ぎの召喚使いによる《レガシーマジック》。

 聖剣を抜いた男を倒せれば作戦に空いた穴の処置にもなる。剣聖が戦闘に参加できなければ進軍の足はおのずと弱まらざるを得ない。そして、あわよくば目障りにも周囲を探る剣聖を無血で処理することもできるかもしれない。


「なるほど。確かに切り札ね」


「そう。これであの男は鉄巨大のなかで苦しみ藻掻きながら輪廻へと流される」


 取り込まれればすべてはセリーヌの意思によって鉄巨大は思いのままとなった。

 つまり、セリーヌをコントロールしている使用者の裁量次第で出すも出さぬも自由となる。囮にもできれば、くびり殺すこともすべては手のひらの上ということ。

 ふとここでエリーゼは不可解かつ些末な疑念を覚える。


「あら、そうなの?」


 混血の少女は、長耳から水滴を垂らしながら丸みのある腰に手を添えた。

 僅かに頬をほころばせて余裕を気取る。


「どうして。余裕?」


「だって、私にも切り札があるもの。切り札の切り札がね」


 瞬間。さざ波立った泥からなにかがエリーゼの足首に絡みつく。


「ひっ――!」


 エリーゼはそれが何者かの手だと気づくのにそれほどの時間は掛からなかった。

 見れば、泥のなかに沈み込んだ、這いつくばって口角をこれでもかというほどに吊り上げる、汚泥まみれ男の姿があった。


「だから言ったじゃない。2対1だって」


 なぜ、どうして、いつから、どうやって。

 錯乱し混濁する意識のなかでとった最善の行動を選択する。

 エリーゼは男の頭部に魔法を放たんがために手をかざそうとした。

 すべては経験則であり、年の功。ヒューム程度の火力では大事には至らないという判断は正しい。

 相手が予想の範疇という行動をとる相手だったならば、正解だったのだろう。


「《マナレジスター》ッ!!」

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