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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
4章2節 あの子の初恋 この子のエプロン そしてオレは空を翔ける

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61話 ならば、うつつの夢は踊らない

「つまり、明人さんは今すぐに首都ソイールへむかいたいということですね」


「……」


 明人、満を持しての正座だった。

 そしてそれを取り囲むように他の面々も集合している。さすがにヘルメリルを脱がせたのが騒ぎの元になってしまったらしい。

 しかし、リリティアは怒るでもなく諭すでもなく、意味深にニコニコと微笑むだけ。

 灰色の空模様は不均一に波立ち、日が昇りきってなお暗暗としている。暗雲が立ち込めるとはまさにこのこと。


 確かに、すべてのドワーフを目覚めさせて足並みを揃えれば圧倒的な戦力で快勝できることだろう。

 しかし、どうにもむず痒くて仕方がなかった。操縦士パイロットである明人だからこそ湧いてくる感情。焦り。


「剣聖の腰巾着だと思っていたのだがな。なにが貴様をそこまで駆り立てる?」


 ちぐはぐに肌が露出しているのが気にくわないのだろう。ヘルメリルは指先から黒煙のような霧を出してドレスに空いた穴を丁寧に修繕していく。

 明人は取り囲む面々をぐるりと見渡して、小さくため息をついた。


「……もしすべてが手遅れになっていたとしたらどうするんだ?」


 僅かに鼓膜を揺らすのは嘲笑に似た音だった。圧倒的な疎外感を感じざるを得ない。

 一方で、ユエラとリリティアは笑っていないのが救いではあった。


「フンッ、手遅れだと? 剣聖と、この語らずがいて手遅れるわけが――」


「オマエら1回手遅れになってんだろ!」


 そのひとことで場の空気が凍りつくのがわかった。

 今の今まで動かなかったエルフたち、百年にも渡って拘束されたドワーフ、世界を包んで個を侵食してくる他者の差別的な意思。

 それらすべての対処がなにもかも後手だった。こうなれば明人にはやる思いを留める理由はない。


「……なんだこの臭いは?」


 誰が言ったのか。

 しかし、鼻を鳴らさずともわかる確かな異臭が香った。

 酸味とは違う、まったりとしていて一度嗅いだら忘れないであろう。血肉を腐らせたような。

 ゾクリと。足元から這い上がってくる畏怖の寒気が場を淀ませる。

 気づくやいなや明人は1拍を置いて、風向きを確認して駆け出す。

 東の風。西は切り崩された山のある採鉱地区。つまり、街の外から。

 そしてユエラ、リリティア、ヘルメリルの3人が無言でつづく。


「メリーは軍の指揮をお願いします!」


「わかっているッ! リリーは先んじて防衛を頼む!」


「了解です!」


 白と黒のドレススカートがほぼ同時のタイミングで翻された。

 阿吽の呼吸。互いに最小限のやり取りで意思を伝え、ヘルメリルは大扉を呼び出してなかへと消えていく。

 むかう先は無論、軍の駐留している街の郊外だろう。


「オレはワーカーを持ってくる!」


「わかりました! では、ユエラは明人さんの護衛をお願いします!」


「まかせて!」


 ここでさらに別行動となって分岐する。

 リリティアも不安げにこちらに目配せして、決心したかのように恐ろしい速度で離れていく。

 数がわからない以上、ワーカーは戦力である。


「犬じゃないけど分離不安っていうのかなぁ……リリティアがいないと緊張感が……」


「じゃあ私が飼い主代わりね」


「わんわん。犬です。よろしくおねがいします」


 情報を整理する、必要もない。どう足掻いても敵の奇襲以外のなにものでもない。

 強がって軽口を叩きつつもやはり手足はよく冷える。明人は、一刻も早く4脚漬物石のなかに立て籠もりたかった。

 曇天に打ち上がる赤い花火はヘルメリルの魔法。これは戦況の伝達のひとつ。

 黄、黄、黄。赤はなし。意味は、予断を許さぬが未だ接敵に至らず。

 疾走するふたりの背後から小さな影が追いついてくる。


「ふにゅ~よぉぉぉ! なんか臭いぞ!」


「オレが臭いみたいにいうんじゃないよ!」


 腰には白槌を帯び、ラキラキはショートパンツから健康的な褐色の足を交互に繰り出して、鹿の如く跳ねた。

 ドワーフたちに見せびらかすために放置していたため、ワーカーまでの距離は近い。騒ぎにならぬように街の外に放置しなかったのは英断だった。


「ラキラキは危ないから下がってて!」


「むっ、ワシを誰の孫だと思っておる! そんじょそこらのドワーフとは鍛え方が違うぞ!」


 ちびっ子と髪をはためかせて駆けるふたりの背中を見つめ、明人は思う。


「ハァハァ……! オレはもうちょっと、運動したほうがいいな……!」


 ちびっ子とはいえ、援軍はありがたい。

 敵の姿が見えぬ以上、今は偽りの幼女の手ですら借りるべきだろう。

 遠巻きにでもわかる重機の形。複雑ではなくシンプルで、丸くて重い、愛しの愛機。


「周囲警戒ッ!」


 叫んで、4脚の下に潜り込み、指紋を読み取らせて、ハッチを開く。

 操縦席に飛び込み、ようやく一息つく。


「よしっ! もうここから出ないぞ! 愛してるぞワーカー!」


「バカ言ってないでさっさとそれを起こしなさい!」


 尻を叩かれる思いで、明人はワインのコルク抜きのような形の点火バーに手をかける。


「認識コード840! 作業開始! ゼロサイで行こう! 今日も1日ご安全に!」


 作業場の鉄則を口に点火バーを引き絞った。

 点灯する十字の5つのカメラは瞳のように。立ち上がる姿は息を吹き返すように。唸りを上げるエンジンは咆哮の如く。

 言う必要は常に皆無。言わせる方は自己満足。明人が、染み付いた日本奴隷社会の闇にどこか懐かしさを見いだしていると、上空のキャンパスを花火が彩る。

 左右中央3枚のモニターで確認できた赤、黄、赤の色。


「……は?」


 ぐしゃぐしゃと。髪を丸めるように頭のなかが混乱の色に染まった。

 呆然とする明人の下からユエラが這い上がってくる。

 そして定位置になりつつある膝上に、すとんと座った。すでにラキラキはワーカーの頭の上に陣取っている。


「んっしょっ……え? 前衛と後衛接敵ってどういうこと?」


「東で展開してる軍に……後衛に接敵……? 挟み撃ち……――まずいッ!」


 明人は削り取られた山のある西へと舵をとり、アクセルを踏み抜いた。


「ラキラキ! ユエラ! 山側から敵をすり潰していくぞ!」


「なになに!? どういうこと!」


「街のなかか、西の山から敵が湧いているってことだ! しかもこれはかなり最悪のパターンだ!」


 成すも成さぬも、結果は変わらず。

 すでに、敵の策略にハマっていたのだと知る。



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