表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
2章 あの子の日常、この子の悩み、そしてオレは工事をしよう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/656

23話

●●●●●



「んふふっ。ちょっといつもより遅れちゃったわっ」


 パンパンに膨らんだ鞄を背にユエラは鼻歌交じりで家路についた。

 その表情は普段のそれではなく、憑き物が落ちたかのようにほんのりと柔らかい。

 献身的にエルフに尽くしてきたユエラの努力が、遂に実ったのだ。あのエルフの男の話によると、自分は先日まで戦争の最前線に立っており魔草の効果で一命をとりとめたうちのひとりだという。前線ではユエラによって救われたエルフが数多く存在し、戦争が終結して兵たちが首都に帰れたあかつきにはこの件を大々的に公表するとのこと。


『ありがとう。自然魔法使い』


 この言葉を聞くために彼女がどれだけ身を粉にしてきたか。

 くる日もくる日も研究に没頭し、採取して、調合して、受け渡す。そんな先の見えない暗闇を手探りで進むが如く辛い日常に、ようやく光明が差したのだ。


「うふふっ! きっとリリティアも喜んでくれるわ!」


 そうやって青みがかった空に自身の心境を重ね、両手で緩んだ頬をおさえる。7年間、ずっと自分を支えてくれたリリティアにどうやってこのことを切り出そうか、浮足立つ思いでユエラは森を駆けた。

 幼少のユエラが下位の人体実験施設から逃げ出して早7年。あのときリリティアに出会わなければユエラはどうなっていただろうか。閉ざされた世界で襲いくる下位たちの悪意。

 しかし今の彼女にとって、ひしめき合うように胸に湧き上がる幸福感の前には、それすら些細なこと。体を包むほどに大きな外套の裾をバタバタと宙で踊らせて、我が家に到着する。


「はぁっ、はぁっ、ふぅぅぅ……――よしッ!」


 こんな腑抜けた顔で帰宅をしたら”アイツ”にバカにされてしまう。

 咄嗟に思い出したユエラは、汗を拭い呼吸を整えぽっと上気した頬に喝を入れて普段通りに扉をゆっくりと開く。


『おかえり。おつかれさま。さて……お風呂にする? お風呂にする? それとも沸・か・す?』


 ユエラには、もういないはずの居候が一瞬だけ見えた気がした。

 しかしそれはただの幻にすぎない。


「あっ……」


 およそ1ヶ月、毎日バカみたいな冗談で自分を出迎えていた人間という妙ちくりんがいたのだ。

 そしてしんと静まり返った薄暗い我が家を見て、彼がもういないことを改めて認識させられてしまう。

 別れの日は魔草の配達を休んでリリティアを慰めることで精一杯だった。翌日は前日分の遅れを取り戻すために余裕がなかった。では、今日はどうだ。


「せっかく、いい気分だったのに……ほんと最低……」


 つまり、今日からまたユエラが風呂を沸かしてリリティアを起こさなければならない。魔法で沸かせば1肯定で済んでしまう他愛もない作業。だが、彼はどうだったか。

 汗と泥にまみれて日の出を迎えてようやく終える頃には日が昇っている。そんな明人を横目に、ユエラは帰り道で摘んできた薬の調合と、護衛。

 ユエラはそんな騒がしい日常に嫌々ながらも慣れつつあった。


「……? なにかしら?」


 テーブルの上に開け広げられた鞄。ユエラはピクリと耳を動かして、歩みよる。


「これってアイツの鞄……? バカね。忘れていったのかしら」


 縦にパックリと開いた灰色の四角い鞄。薄汚れてもなお表面はてかてかと光沢を帯びているが、鉄のように硬くはない。手に持つことも、縁にについている車輪で引きずることもできる便利な鞄。

 ユエラは、この鞄になんどかこっそりと触れたことがあった。このなかには甘くて美味しいお菓子がいくつも入っていたからだ。熟練した料理人のリリティアですら、ルスラウスの食材であのチョコクッキーの味を再現するのは難しいらしい。そして、オリジナルのクッキーの味が忘れられないユエラはつまみ食いをしていた。今になって思えば、日に日に減っていく鞄の中身に明人は疑問をもたなかったのだろうか。


 ぼんやり。そんなことを考えているとユエラの目に1枚の”絵”が飛び込んでくる。


「なにこれっ! すごいわ。まるで現実を切り取ったみたいな絵」


 模写にしてはあまりに美しすぎる絵に感動して手に取れば表面はツヤツヤとしている。

 そこに描かれているのは、鉄巨人の群れの前で肩を組む薄汚れた男たちと明人の姿。皆一様に面をくしゃりと歪ませ歯を見せるようにして笑っている。彼の言っていた、仲間、友人、戦友とはここに描かれた人々のことなのだろう。

 そして、その裏の白には崩れかかった下手くそな文字が書いてある。


《汝、生涯を賭して勇猛な盾であれ。我らはイージス。天上に至りて世に個の歴史を刻む者。汝と共にあらんことを》


「”僕がキミを守りつづけるから、キミも僕を守って。僕が死んでも忘れないでいて。心は離れずに、ずっと傍にいるから”」


 いつだか明人の言っていた仲間たちとの約束。その言葉を唱えるとまるで魔法にかかったかのように胸のなかがぽっと暖かくなるのを感じた。彼はルスラウスの輪廻に呑まれず、仲間のもとへ旅立てたのだろうか。


「って、本当に死んでるのかしら。ちょっとサラサララまで見に行って――うん? なにかしらこれ?」


 明人がいるであろうサラサララの群生地へむかおうとテーブルから離れたユエラは、下でなにかが光っていることに気づく。

 手のひらに乗ってしまうサイズの長四角の形をした物体。謎の物体は、ときおり呼吸をするが如く小さな円の部分をチラチラと点滅させている。


「よっ!」


 丸みのある尻を突き出して、ユエラはそれを拾い上げる。

 よく見れば、下半分は丸く網目状になっていて上半分には枠のなかで異世界の文字であろうものが浮いたり消えたりしている。


「ん~小さくて読みづらいわね。わーかー……りもーとこん……」


「《魔法の矢マジックアロー》」


「ッ!!」


 オレンジの陽光が斜めに差し込んでくる部屋に浮かぶひとつの影があった。

 ユエラは反射的に横へ跳んで躱す。

 次の瞬間、自身のいたであろう床板に数本の《魔法の矢》が突き刺さった。

 ユエラとて冥界の入り口である誘いの森の住人だ。こと察知する能力に関しては日常的に鍛え上げられている。


「魔法? ってことは、魔物じゃなさそうね」

本編に書いたか忘れたので追記。


正確には、魔草まぐさです。


でも変換では


魔草まそうと打って変換しています。


なので


魔草と読んでください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ