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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
6章 あの子の嫉妬 この子の覚醒 そしてオレは魚市場

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99話 ところで、新装開店出張癒やしの840ブランド

技術とは振るうもの


誰かを陥れるか

誰かを笑顔にするか


振るう者は後者を選んだ


そしてエルフは走る

 湿気が薄れ空が澄み渡る頃。肌を刺すような日差しが黄色く降り注ぐ。

 アザムラーナ村の面積は非常に狭く限られていた。そのなかに数百というヒュームたちがすし詰めに暮らす。

 小さく、その3割が林で植樹造林(しょくじゅぞうりん)となっている。そのため木材は万年不足となるのも当然のことだろう。

 そして残りの敷地には生活の糧(ライフライン)。大半は畑が敷き詰められている。

 ときおり肉を食えるのは村に弱っちい魔物や動物が迷いこんだ時だけだと村の民は愚痴をこぼす。


「よおし旗揚げだ! ジャンジャンバリバリ働けぇ!」


 村の端から端まで届きそうな気合が響き渡った。

 農作業中のヒュームたちがなにごとかと目を皿のように丸くする。


「集まれヒューム共ォ! 今日を逃せばもう2度とこんなサービスは受けられないぞォ!」


 そこで明人はひらめいていた。

 ヒュームたちが小汚い格好でやせ細っている。それがなぜかと突き詰めれば答えは容易に見えてくるというもの。

 しかも道具さえ乏しく農作業に精を出すその手には、布で幾度も補強されている古びた(すき)(くわ)ばかり。

 そんな娯楽のない日常をおくっていたヒュームたちの村へ、小川のせせらぎと共に、アイツらがやってくる。


「は、840ブランド! 出張鍛冶やってまーす!」


 化粧を施した耽美な長耳エルフは、声を張った。

 その凛々しい顔には古傷が複数刻まれているが、それ以上に目を引く箇所がありすぎる。

 新緑のような色合いの短髪には兎耳が備え付けられていた。黒い蝶ネクタイの下は黒ベストから覗くほどほどに盛り上がった胸板が覗く。アンダーは無論のことピッチピチの皮ズボンとなっている。

 ミブリー・キュート・プリチーの再来、ではなくカルルは、もはやがむしゃらに立ち回っていた。


「研ぎも部品の交換も無料で大サービスですよー! 直売品は必要に応じた額で取引していますのでぜひお立ち寄りください!」


 その横にだってセクシー水着で肌を臆面もなくさらけだす褐色の幼児がふたりほどいる。

 しつらえた透けるフリフリと動物、地球でいえば猫耳を模した耳が、焦げ茶色の髪の上でぴこぴこ踊る。


「本日限りの出張840ブランドでーすっ! アナタがたの生活に潤いをもたらす840ブランドをよろしくお願いしまーす!」


 キューティー・ロガーから源氏名キューティー・キャットとなっていた。

 普段のびくびくとした性格も今だけは仕事モード。癒やしのヴァルハラの制服で呼び子の務めを果たしている。それどころかどもりもなく、生き生きと笑顔とイカ腹をヒュームたちへ振る舞っていく。

 これぞ明人の秘策中の秘策だった。


「ほらラキラキ! もっと気合い入れて仕事しないとヒューム全員の生活向上が遅れることになるぞ!」


「それはそうと……なぜワシまでこの服を着にゃならんのじゃ……」


「キューティーを見習ってもっと笑顔を振りまけ! こんな野っ(ぱら)商売なんだから少しくらい見目よくしないと客が集まらんだろ!」


 ラキラキは、顔をリンゴのように真っ赤にしながらもシャキシャキ包丁を砥石でこすった。

 その腕前は確かなもので、使い古された赤錆の浮く包丁はみるみるうちに銀色へと剥かれていく。双腕の孫として申し分ない技術力。


「ほうら客が集まってきた! ヒューム共は直したい農具や工具をもって礼儀正しく並べ!」


「客を集めるならヒューム共と言うのをやめい……」


 そんな騒ぎになんだなんだ、と。ヒュームたちが興味半分といった感じで視線が集めた。

 看板とばかりに漬物石のようなまんまるの重機が威風堂々と佇む。熱を帯びて体から陽炎を発するさまは4つ足の生えたたこ焼きのよう。

 そんなバンザイをしたワーカーの手爪には白地の横断幕(おうだんまく)括られ、広げられている。

 書かれているのは840出張鍛冶屋の文字。天高く堂々と掲げられていた。


「み、みなさんが見てるんですけど!? 男の僕がこの格好する必要ってあったんですかあ!?」


 カルルは料金表の板を掲げながらもじもじと恥じ入っている

 作業中の明人は激励を飛ばす。その手には木槌とノミが持たれており、今まさに農具を制作していた。


「ほら、カルル! 恥ずかしがらずにがんばれ!」


「む、むりですよぉ……僕こういうことしたことないんですからぁ……」


 カルルは長耳の先まで真っ赤して羞恥に耐えつづける。

 革越しにムキリと筋張ったふとももをすり合わせもじもじしているのは、ヘルメリルの側近であり、明人の友だち。恐らく今日ほどそれを後悔した日はないだろう。


「大丈夫! 今のオマエは世界一チャーミービューティーだ! 化粧もノリノリだっ!」


 明人は、ノミを片手に親指を立てた。

 エルフであるカルルは種族特性で端正な顔立ちをしている。エルフに醜い者はひとりたりとも存在しない。

 通った鼻筋、愛嬌のある薄緑色の瞳。外側も内側も実に好青年。そこにキューティーの化粧とドギナ改めミブリーと同じ色気の臭う制服加わり、男女問わず目を奪われるというもの。


「ほ、ほんとうに……ビューティーですか?」


「おう! オレがもし、偶然、たまたま、男だったら抱いても良いねっ!」


「び、ビューティーッ……! 明人さんがそこまで言うのなら……! がんばってみますッ!」


「その粋だっ! ちょろい男だよっ!」


 良いように乗せられたカルルは、厚い胸を張って村を闊歩(かっぽ)しだした。

 大半のヒュームたちはギョッとした顔でその様を眺めるが、なかにはうっとりしているものもいる。

 その介あってかすでにワーカーの周辺には人、ならぬヒュームだかりが出来ていた。


「おヌシすでに男じゃろ……。カルルもカルルで気が良いせいで気の毒な男じゃ……」


 ラキラキもまた唇を尖らせながら作業に勤しむ。

 ワーカーの股下にある包丁の柄の部品をとりに歩くと、僅かに湧く。

 きわどい薄布からハミ出した褐色まんじゅうのような尻肉がぷるりと波うち、ヒュームの男たちが目に見えて動揺した。


 瞬く間にどんどん長い列が築かれていく。狭い村に住む住人がすべて集まっているかと思うほどに長い長い列。

 別作業をおこなっているエルフとドワーフはそんな光景を微笑まし気に眺める。

 明人に商品を手渡された者は、表情に喜色を貼り付けて勇み足で仕事へと戻っていく。このままいけばすべての農具の代謝を今日中に終えることができそうだった。


「おつかれさまー! ですのよー!」


 そんななか、エルエルは列に沿ってふよふよ飛んでくる。

 豊胸によって丈が短くなったスカートの裾がカーテンのようにひらひらと風になびいた。

 やはり、偉大な天使なのだろう。ざわついていたヒュームの列は、茹でられた肉を氷水に浸したかの如くキュッと口を結ぶ。


「笑顔がいーっぱいでとても幸せですのよっ! ふにゅ~様が首を縦に振ったからてっきり暴力沙汰かと思ってひえひえだったんですのよっ!」


 作業場までやってきたエルエルは、肩をすくめて満面の笑みを傾ける。

 赤い首輪に繋げられた銀の鎖がチャラと小さく跳ねた。


「オレをなんだと思ってるんだい?」


 明人は、ヤスリで木のササクレを慣らしながら唇を尖らせた。

 しかし目は真剣で鍬の持ち手部分を丹精込めてしつらえる。エルエルがやってきても手を止めようとしない。


「それはこっちが聞きたいんですのよ。感謝されたり、怯えられたり、今度は親切ですのよ。アナタをしれば知るだけよくわかんなくなっていうんですのよ」


 くるりくるり。突き上げた丸い尻を支点にして天使はその場でコマのように回る。

 申し訳程度に背中の手のひら程度の羽が宙を扇いだ。


 それからも一党らは持ち寄った部品でマグロ解体ショーの如く農具の修理と制作にとりかかってく。

 木材は村から少し離れたところの雑木林をワーカーで駆逐すれば申し分ない。容易に手に入れることができた。

 はじめは半信半疑だったであろうヒュームたちもいつの間にやら輪に加わっている。

 手渡された新品同様の工具や農具を手に小躍りしながら今日の仕事へと戻っていった。


「おぉう……喜びのあまり目が回ってきたんですのよ……」


「なにしにきたんだよ……へちゃ天使。忙しいんだから邪魔をするんじゃないよ」


 いつの間にやらエルエルは落ちる直前のハエのようにふらふらと左右に揺れて目を回していた。

 列のなかにはそんなフザけた天使を見て跪く者がいる。そうして祈りを捧げる。

 もはや存在自体がただの営業妨害だった。この自由奔放な天使がどれほどの偉業を成し遂げているのか、明人は知らない。


「でも、これでエルフの女王様との依頼は完遂間近ですのよ?」


「…………。ああまあとりあえずはな」


「素敵な解決法ですのよよよ~。誰も不幸にならない最高の作戦ですのよー」


 と、エルエルは祈りを捧げる者たちにあろうことか尻を向けた。

 その短くなってしまったスカートが風でふわりとめくれ上がる。

 なんたる信者への不届きか。これにはさしもの八百万信仰の明人でさえ戦慄を覚える。


「おいこらァ! 巡礼者に尻を向けるな! オマエのパンツに祈りを捧げるヤツの身にもなってみろ!」


「おとと……これは失礼しましたですのよ。短くなってしまったことに慣れてないのですのよ」


 そう言って、エルエルはそそくさとはためくスカートの裾を押さえた。

 ヒュームの男性たちが残念そうに目を逸らす。


 こうして業務に励んでいるが、悠長にしていられる時間はそれほど残されてはいない。

 すでに右翼のゼトの率いる部隊は交戦状態に入ったと一報があった。

 つまり、ワーウルフたちは首の皮一枚だけを残すような敗走だったのだ。

 敵は予想通り、混合種の大部隊。間もなく剣聖率いる部隊も接敵の予感を通達してきている。


――どうせオレがいないほうが自由に動けるんだ。心配するだけ損だな。


 そう思いつつも、仲間たちの無事だけは祈りつづけた。

 焦る気持ちを留めながら明人は、木槌を振るって鍬の刃床部(はしょうぶ)と持ち手を固定する

 そして、完成した鍬を最前列で待っていたヒュームの老父へ手渡す。


「はい、どうぞ。これで少しは楽に農作業が出来るようになると思いますよ」


「おぉ、ありがとうございます! ありがとうございます!」


 そう言って、老人は曲がった腰で頭を何度も下げながら明人の鉄臭い手を包んだ。

 枯木のように乾燥した手はそれでも暖かい。男か女かもわからなくなってしまうほどに刻まれたシワを深めた笑みは、網膜に閉じ込めておくだけの価値のあるもの。

 明人は、何度も何度も振り向いてはお礼をいって去っていく老人の小さな背中を見送って、次の作業へ取り掛かる。

 汗は滴るたびに大地へ吸い込まれていく。それでも打つ手は止まらない。

 ラキラキも袖のない腕で汗を拭いながら作業をこなし、キューティーとカルルも村の民に呼びかけまわる。


「…………」


 そんな懸命に働く明人たちを、天使が見守る。

 エルエルは素足で(わだち)のある農道からに降り立っていた。

 両(かかと)でとんとんと地面を叩き、白い手を後ろで組みながら、その目は猫のように細められて楽しそうに笑っていた。


 村は笑う。種族の壁を越えて一同に介しながら。


 そんな忙しのないなか遠間からとぼとぼと歩いてくる。

 その姿を捉えてラキラキは(のこ)を持つ手をはたと止めた。

 とてとて、と。濡れて纏まった栗色の短髪をそよがせて作業に没頭する明人に駆け寄った。


「おい……ふにゅ~よ…」


「おぉう? どうした?」


 つんつんと肩を指でつついて、耳打ち。

 暑さでむされた毛髪のからふわりと明人の鼻孔をくすぐる。やや甘くやや油の香りがしてお腹が空くような不思議な香り。


「あれを見るのじゃ。もうひと厄介ありそうな感じじゃぞ」


 指のさされた先には、なるほど通りで。

 確かにラキラキの言うように波乱のひとつでも起こしそうな影が近づいてきている。

 ミルクティー色の耳をたれたれ揺らし、やや下向きに丸くなったふかふかの尾っぽ丸い腰で左右に揺らぐ。


「騒がしいと思って出向いてみれば、やはり貴様が元凶か……」


 ジャハルは立ち止まり、赤く腫れた瞼をぐしぐしとこすった。

 そして、ぐるりとヒュームの列を見渡す。


「協力が得られないから(こび)を売っているわけか。貴様らしい姑息な手段だな」


 その身に帯びたほどよく装飾がなされた銀鎧は、傷だらけ。

 それを気にかけつつ、明人はあっさりと言い切る。


「いや違うよ? ただ商売してるだけだよ?」


「なんだと……? ああ、そういう(てい)か。表面上は商売と言い張りつつも施しを与え牙城を崩す算段とは……姑息極まりない」


「オマエら狼連中はオレをなんだと思ってるんだい? いい加減にしないとその毛を毟るぞ?」

 

 実際、今回の明人は嘘をついていなかった。

 ぼろぼろの農具を使用して作業をするさまをみて技術士の腕が唸っただけ。

 すでにヘルメリルの依頼をこなす本当の策は別に用意してあり、これは簡潔に言ってただの暇つぶしの策だった。

 ヒュームたちの農具を修繕してやることで840ブランドの土壌と確固たるものとし、ついでに村の民は土を耕す。ゆくゆくは世界中で840の刻印された品が出回ればいいな、というささやかな野望があった。

 ただ、その真実を知らぬものもいる。


「ど、どういうことじゃ!? これは作戦のためにやってるんじゃないのかなのじゃ!?」


「そんなことひとことも言ってないだろ」


「んなぁッ!?」


 ラキラキはその手に持った鋸をぶんぶん振り回して怒った。

 そして、明人は無言で作業に戻る。

 真実にきづいたのかラキラキは頭につけた白兎の耳を脱いで地面に叩きつけた。


「これ本気で作戦に関係のないことなのじゃ!? だったらこんな恥ずかしい格好なんてはじめっからしなかったのじゃあああ!!」


 そして、もうひとり真実を知らぬものがいる。

 ワーカーの後ろから《ストレングスエンチャント》の膜を体に纏って走ってくる長耳の男がいた。

 ぴちぴちの革のパンツを履いた足を高速で繰り出して、後には砂埃が舞い上がる。


「今のどういうことですかああああ!? 明人さあああん!?」


 エルフはとても耳が良い。



○○○○○

キューティー・キャットが忘れられていた気がするSSコーナー

……………

「キューティー! ヌシも騙された身じゃろ!? この男になんか言ってやるのじゃ!」


「えっ、え?」


「ほれみろ! カルルなんか二度とヒューム領に近づかないつもりで開き直っとるぞ!」


「え、あっ……そのぅ、私は別に……」


「なんじゃて!?」


「ひっ……! ベ、別に騙されてても明人さんに相手してもらえるならいいかな……なんて」


「おヌシ根っからのストーカーじゃな……」


「あ、いえ、それほどでもない、ですよ?」


「キューティー。隣でオレのストーカーだって認めるのマジでやめて」


挿絵(By みてみん)

「最近、自分のことまともに使ってくれないですね! どうもたこ焼きです!」

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