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40.今度こそ【ディア視点】

 

 龍族は10年に一度、大きな祭りを開くしきたりがある。この日だけは城も庶民へ解放し、更なる種族の発展と日々の幸福を皆で祝うのだ。


 俺にも参加して欲しいと、何度も使者が遣わされてきたが、この地に落ちてから一度も参加したことはない。種族の発展なんて願いたくはないし、俺の幸福はフレミリア様と過ごした日々しかなかったからだ。


 そんな俺が祭りへ行く準備をしているのは、『王位継承について相談がある』と兄に呼び出されたからだった。


「……よし」


 式典用の礼服に着替え、鏡で確認をする。この服に着替える時はいつも最悪な気分でしかなかったが、今回で最後だと思うと、嫌じゃない。


 俺は王位継承権を正式に放棄するつもりだった。


 今までだって何度も放棄しようとしてきたが、種族で一番強い者が王になる、という龍族の掟と、いつかフレミリア様と会えた時に使えるものは多い方がいいと考えて、正式な放棄はしてこなかった。


 俺を地上に落とした兄には今でこそ感謝しているが、俺がいる限り王位を継げないでいると使者から聞いて嫌がらせをしていた、というのも理由の一つだ。


 しかし、ミレリアと地上で暮らしていくと決めた以上、もう王位なんて継ぐ必要はない。それに、王位を継承すれば、必然的に次代の王となるような強い者を跡取りとして残す義務がある。


 龍族は婚姻時に番契約を結び、魔力を均等に分けて、生涯を共に出来るように寿命を調整する種族だ。もちろん魔力量が多いほど寿命は長くなるので、自分より格段に魔力が少ない者と婚姻する龍族は滅多にいない。


 俺が魔力を持たないミレリアと番契約を結べば、力が落ちて寿命が短くなることは必然的だ。王位を継いでしまえば、そんなことはまず許されないだろう。


 俺はミレリアに想いを告げて、一日でも早く番契約を結びたいと思っている。今度こそ愛した人と一緒に死ねるように。


 だからその前に、正式に王位継承権を破棄しようと決めたのだ。


 式典へ向かう準備をしていると、キッチンの方から良い匂いがしてくる。そういえば朝ご飯はいらないと言い忘れていたんだった。


 申し訳ない気持ちになりながら、準備を終えてミレリアの元へ向かう。心底行きたくない。ここでミレリアと一緒に朝食を食べていたい。


 それでも、この毎日をずっと続けるには、今日ちゃんとケリをつけてこないと。


「……おはよう」

「おはようござい……ます?」


 きょとんとした顔で振り返ったミレリアは、俺の格好を見て「どこかへ出掛けるんですか?」と首を傾げた。


 忌み嫌われている兄の元へ行くと伝えると、心配そうな顔をされて、無事帰ってくるように約束をさせられる。


 俺はミレリアに心配されることが好きだ。くすぐったくて、嬉しい気持ちになる。あぁ、どうしてこんなに愛おしいんだろう。


 思わず髪を撫でそうになって、やめた。それをするのは、全てのしがらみを片付づけて、想いを伝えてからにしよう。


「帰ってきたら話したいことがあるんです。早めに帰ってきてくださいね」

「分かった。俺は今伝えたい話がある」


 そう思っていたのに、ミレリアが真剣ながらも可愛らしい顔で話があると言ったから、気がつけばこんなことを言っていた。


 もしその話が何だとしても、自分の気持ちを今、先に伝えないと後悔すると思ったんだ。


「俺はミレリアのことが好きだ」

「…………え」

「いや、違うな。愛しているんだ」


 顔を真っ赤にして、はくはくと口を動かしているミレリアを見て、抱きしめたい衝動に駆られながら言葉を続ける。


「ミレリアがもしフレミリア様の生まれ変わりだったとして、この先ずっと俺のことを思い出さなくても。もし生まれ変わりなんかじゃなくて、本当にただのミレリアだったとしても、いい。どっちでもいいんだ」

「………………」

「ただ、今のミレリアに、ずっと俺のそばにいて欲しい」


 幸せになりたい。二人で。


 ミレリアはというと、今にも泣き出しそうな顔で俺を見ていた。


 嬉し泣きだったらいいな、と思う。もしミレリアが今、何かを抱えていて、その葛藤の涙なら俺がどうにかしてあげたい。


 帰って来たらミレリアの話を聞こう。それが、答えを出さないといけないことなら、二人で真剣に考えて答えを出したらいい。


「……はは。すぐ帰ってくるから、返事はその時にでも聞かせてくれ」


 小さな頭にポンと手を置いて、名残惜しい気持ちで家を出る。


 部分的に人化を解除し、羽を出した。今日の天気は雲ひとつない晴天で、清々しさすら感じる。どこまでも飛んで行けそうだった。


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