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39.君がもしどこの誰だったとしても【ディア視点】

 


 ミレリアは、全てが限界を迎えて暴走した俺を怖がることもなかった。


 ─────── とにかく、私は明日からもディアと一緒にいます。あなたがそれを望んでくれるなら。


 彼女がこう言ってくれたのをいいことに、今日も一緒に暮らしている。その中で、やっと気がついたことがある。


 ミレリアにずっとここにいて貰わないと困るのは、俺の方だった。


 ミレリアが俺の側にいてくれて、やっと満足に息を吸える。フレミリア様がいなくなってからずっと、亡霊のように生きてきた。息をすることも忘れたまま。


 喉が渇いていたことも、お腹が空いていたことも、部屋が広くて寒かったことも、全て気がつかなくなっていた。こんなにずっと寂しかったのに。


 俺はとっくにミレリアのことを愛していた。


 フレミリア様と同じ外見だからじゃない。美味いパンが焼けて、食べ物のためならやけに行動力があって、ポジティブで、素直で、優しくて、表情豊かで、なんて好きなところをあげ出したらキリがないぐらい、好きだ。


 フレミリア様のことを忘れたわけじゃない。ミレリアを代わりにしているわけでもない。


 フレミリア様への『好き』と、ミレリアへの感情は違う。自分だけを見て欲しいとか、力になりたいとか、幸せにしたいとか、根本の部分は同じなのかもしれない。それでも、少なくとも昔みたいに、一方的に依存して寄りかかって、神に祈るように救われることを願っているわけじゃない。


 ただ、幸せになってくれたらいい、なんて願うだけじゃ物足りないんだ。俺がミレリアを幸せにしたい。ミレリアの全部が欲しい。


 どうしたって、何を考えたって、ミレリアに繋がるんだ。このまま狂っていくしかない。


 ──────── 「誰かと食べた方が美味しいですし、美味しいものを食べたら幸せになれますから!」

 ──────── 「ディアが一緒に来てくれるから大丈夫です」

 ────────「これ、大好きなやつです!」


 ミレリアはたまに、フレミリア様と同じことを言う。きっと記憶が無くたって、人の中身までは変わらないはずだ。同じ思考に辿り着くならば、同じことを言ったっておかしくはない。


 もしかしてミレリアはフレミリア様の生まれ変わりで、その自覚がないだけなのではないか。なんて淡い期待を抱いては苦しくなっていた時もあったが、今はもうどうでもよくなっていた。


 生まれ変わりだとしても、もしフレミリア様の記憶があっても、縁もゆかりもない他人の空似だとしても、俺はミレリアが好きだ。これから先も、ずっと一緒にいたい。そのことに変わりはない。


 そんなことを考えながら、ただ、湖の上で星を見上げる。ミレリアの瞳に星がキラキラと反射していて、綺麗だなと思った。


 この湖は、何かしていないと気が狂いそうで、でも何がしたかったわけでもないから、ただ森の中をあてもなく彷徨っていた時に偶然見つけた物だった。


 どうしようもなく、絶望したくなった日はこの湖に来て、限界まで水の中に沈んでみたりもした。水底で目を閉じ、身体が溶けてなくなりそうな感覚のまま、ひたすらフレミリア様のことを考えるのだ。


 ミレリアが来てからも、一度、ここに来た。フレミリア様以外のことを考えることが。心に入り込んでくることが、フレミリア様を失った証明になってしまうような気がして。


 でも、そうじゃないんだ。フレミリア様はきっと、とびきり嬉しそうに俺のことを祝福する。分かっている。分かっているのに、許されたくなくて意地を張っていたのは、ずっと俺の方だった。


 だから、この湖にミレリアを連れて来た。散々悩みを吐き出した湖に、報告の意味も込めて。


「やっぱり星、綺麗ですね」


 ネックレスを付けるため、星を見上げてそう言っているミレリアの首にかかった髪を掻き分けたとき。


「…………ッ」


 誰にもバレないように小さく息を呑んだ。


 ミレリアのうなじには傷があった。まるで俺の爪が食い込んだ時に出来るような、傷が。


 ネックレスを着け終えて、首に髪の毛を戻す。何故だか晴れ晴れしい気持ちでいっぱいだった。だって、こんなにも気持ちが変わらないのだ。


 もしミレリアが何処の誰だとしても構わない。愛おしくて、堪らないんだ。

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