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25.この人どれだけ私のこと好きなんだろう


 その翌日。

 ディアは「フレミリア様に話したいことがたくさんある」と言って、フレミリアの墓に花を供えに行った。

 私はここにいるので若干複雑な気持ちだが、仕方がない。ディアは出かける前よりスッキリした顔で帰って来た。どうやら、伝えたいことをちゃんと『フレミリア様()』に伝えられたようだった。


「今日は俺が昼食を作っていいか?」

「全然いいですけど、逆にいいんですか?」


 前世ではお世話になりっぱなしだったが、今世の私がここに来てから一度も料理をする姿は見たことがなかったので、てっきり嫌になったのかと思っていた。


「あぁ。作りたい気分なんだ」


 ディアは柔らかく微笑んでキッチンへ立つ。

 私はその間、ずっとテーブルに座って、ただその様子を見ていた。そうだ。いつもこうだった。この光景が好きだったんだ。


 テーブルの上からは、私が食べかけにしていたパンケーキが消えていて、いつの間にか冷蔵庫に入っていた。これでいい。そう思った。

 毎日『フレミリア様()』がいなくなった証拠を見続けるのは、辛いと思うから。


 いつの間にかいい匂いがしてくる。デミグラスソースの匂いだ。ディアの得意料理でデミグラスソースといえば、さてはハンバーグだろうか。


「これ、大好きなやつです!」


 思わずそう言うと、ディアは肩で笑った。

 一瞬バレただろうかと勝手に焦って冷や汗が出たが、どうやら気づかれなかったらしい。


 ディアは深皿にハンバーグを盛って、食卓へ運んでくれる。


「「いただきます」」


 私が私を思い出してから久しぶりの一緒の食事。あの頃を思い出して懐かしいな。

 今世の私はそこそこ料理が上手いと思うけれど、ディアも凄く上手だ。


 デミグラスソースの上からは生クリームで模様まで描かれていて見た目から凝っているし、ハンバーグは噛んだ瞬間に肉汁がジュワッと溢れる。付け合わせのコンソメスープは、しっかり野菜の甘みが出ていて丁寧な味だ。


「全部すっごく美味しいです」

「それは良かった」

「……あれ。このスープ、ニンジンが入ってますよ? 間違えちゃったんですか?」


 確か、ディアはニンジンが嫌いだったはずなのに。スプーンで掬い上げて見せると、彼はバツが悪そうな顔をした。


「お前が言うからだろ」

「え?」

「ニンジンを食べられるやつが好きだって、言うから」

「……そうでしたっけ」


 居た堪れなくなって、顔を俯けた。

 どうしよう。この人どれだけ私のこと好きなんだろう。私が私じゃなくなったのに、また好きになるなんて。好み、なんて言葉じゃ片付けられない。


 耳まで赤くなった私を見て、ディアは満足したようだ。だって、ニンジンを食べているのに口元が弧を描いている。


 ぎこちない空気の中でハンバーグを完食して、一緒にお皿を洗う。最後の一枚を洗い終わったとき、ディアは躊躇ったように口を開いた。


「何か、」


 そう言って、また口籠る。


「何か、俺にしてほしいことはないか?」

「何か……?」


 なんだろう。急にそんなことを言われても思いつかない。

 そもそも今のディアに何か言ったら、例えそれが世界征服みたいな無謀なことでも成し遂げられてしまう気がする。


「何でもいい。ミレリアのために何かしたい気分なんだ」


 ディアにしてほしいこと。なんだろうな。ディアが幸せになるようなこと。私も嬉しいこと。


「それじゃあ、一緒に『花火』をしましょう!」


 せっかくあんな想いをして爆蘭を獲ってきたのだ。久しぶりに、ディアと一緒に花火がしたい。


「そんなことでいいのか?」


 本当に何でも良かったのに。ミレリアらしい、と。ディアは何処か残念そうにそう言いつつも快諾してくれた。













 森に根っこごと植え替えていた爆蘭を引き抜く。

 それから、茎の部分を持って花に火をつけると、途端にパチパチと火花が弾け始めた。


 結局花なので少し経てば花ごと燃え落ちてしまうのだが、中心に近づくほど種が多くなって燃えるので、火花の弾け方は最後の方が綺麗だ。


「どっちの方が長く花を落とさないでいられるか、勝負しましょうか!」


 そう言って始めた勝負はディアの圧勝だった。

 自分から言い出しておいて不甲斐ない、と思いながら、火花を見つめるディアを横目で見る。


 これがラスト勝負だ、と言って火をつけたわりに、ディアは余裕綽々だった。


「すごいな。本当に、フレミリア様が見せてくれた花火みたいだ」

「それなら良かったです」


 どうしてディアが突然、何かしてほしいことはないか、なんて言い出したのか。その見当はとっくについていた。


 きっとディアは、不安なのだ。

 フレミリアが急に死んだせいで、そっくりな私まですぐにいなくならないだろうかと。


「私、明日も一緒にいますよ」


 ディアは驚いたように目を見開く。


「……それは」

「頭で分かってても心がついて来ないなら、そのままでいいんですよ。信じられないなら何度だって、毎日だって言いますから!」


 そしていつか、いつか絶対に、私は『フレミリア』だと伝えてみせる。その時には、この胸の想いも。ずるい私の告白を、あともう少しだけ待っていて。


 望めば世界すら手に入るあなたが、どうしてこんな私を好きでいてくれるのかは本当に分からないけど、私の喜びは今度こそずっとあなたと一緒にいることだから。


「明日も、明後日も、二人でいましょうね!」


 自分史上最高の笑顔で笑いかけると、ディアは動揺したのか、すぐに花を落とした。

 ようやく勝てたと喜ぶ私を見て、ディアは勝負に負けたにも関わらず、幸せそうな顔で、とびきり嬉しそうに笑っていた。


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