8.国王の判断
話し合いの続きです。
「…今の発言に偽りはないか?」
国王は何とも言えない顔で息子を見た。
「勿論です!! ずっとアンネにも伝えているのに、彼女は変な思い込みをして全然伝わらないのです!! 僕がアンネに嫌がらせする為に側妃にしようとした、なんて…目茶苦茶ですよ。アンネ、もう本当にいい加減に理解してくれないかい?」
「っ、いい加減にして頂きたいのはこちらの方です!!!」
トーマスが怒声を響かせると、ヴィクトルはビクッと身体を震わせた。
「我がテレーゼ公爵家を、愛娘をどれだけ愚弄すれば気が済むのですかっ!? 男爵令嬢を正妃する為に側妃になれだなんて…絶対に認めませんよっ!!」
トーマスの言葉に場が静まりかえる。ヴィクトルはトーマスから目線を逸らし、王妃はそんなヴィクトルを見て頭を抱えてしまった。
「…落ち着いてくれ、公爵。」
「…すみません、陛下。」
国王の言葉に、トーマスはヴィクトルから視線を外して国王を見て謝罪した。ヴィクトルに対して謝ったのではないと周りに分かりやすくするように。
「テレーゼ公女、ヴィクトルの主張を聞いてどう思っているのか、正直に話して欲しい。」
「…恐れながら申しますが、信じられません。」
「もういい加減に…」
「黙れヴィクトル。」
アンネの答えに口を開いたヴィクトルに、国王は大声では無いが、圧のある声で黙るように命じた。その圧に押されてヴィクトルは黙り込んだ。
「では公女、正妃や側妃の話は別にして、ヴィクトルの傍に居たいと思っているか?」
国王の質問は少し予想外であったのか、アンネは数秒黙った。そして、
「いいえ、思っておりません。」
「…ならば、もう決まりだな。」
きっぱりと迷いなく答えるアンネを見て、国王は改めて4人を見た。
「今後については側近も交えて慎重に検討していきたい。なので、この場の話だけでは全ての決定を下す事は出来ぬ。だが、これだけは宣言しよう。」
国王の次に発する言葉を、緊張した様子で4人は待つ。
「ヴィクトル王子とアンネ・テレーゼ公爵令嬢の婚約解消を認める。そして、ヴィクトル王子とテレーゼ公女が再度婚約する事は禁じる。当然、側妃など以ての外だ。」
国王の言葉に一先ず納得したように頷いたトーマス、諦めたような顔をする王妃、ほっとするアンネと各々の感情が浮かぶ中、ヴィクトルが慌てて声を出した。
「お、お待ちください父上…いえ、陛下!!」
「…なんだ、ヴィクトル。」
「ま、まだ充分な話し合いが出来たとは言えませんよ!? 婚約解消はともかく、側妃の話は…」
「ヴィクトル、お前はテレーゼ公女がまだ、お前を愛していると思っているのか?」
ヴィクトルの話を遮った国王の質問に、ヴィクトルは目を丸くした。
「先ほどお前は、『アンネは僕をとても愛していると思ったからです』と言ったな。今も愛されていると思うのか?」
国王の質問に、ヴィクトルは固まった。ヴィクトルは恐る恐るといった様子でアンネを見た。アンネは表情を変える事なくヴィクトルを見つめ返した。
「……。」
「…答えられぬ時点で、お前も分かっているようだな。」
国王の言葉に、ヴィクトルはハッとしたように国王を見た。
「テレーゼ公女は身の危険を感じるほど、お前に恨まれていると思っている。自分を害そうとする者を、愛し続けるのは中々難しい事だと私は思う。」
「い、いや、ですからっ! それはアンネの思い込みで…。」
「物的証拠はあるのか? お前も公女も、各々が感じた主張以外は何もないだろう?」
「…はい。」
ヴィクトルは何も言えずに黙り込み、アンネは頷いた。
「証拠がない以上、どちらが正しいかは判断出来ぬ。しかし、過去がどうあれ公女の今の気持ちは確認出来た。」
ヴィクトルとアンネのどちらが正しいのかを証明出来なくても判断出来た。アンネが正しければアンネを危険に晒す事になる。ヴィクトルが正しければ“ヴィクトルを愛するアンネの為だった”、という事にはなるのだがもう意味がない。
「公女が今、お前を愛していない以上側妃になる事を望む筈がないだろう?」
「で、ですがアンネの誤解が解ければ…」
「それを証明出来るのか? 証拠などないと言っていただろう。もし誤解であったと証明出来たとしても、そんな誤解をさせたお前に対して、再び深い愛情というものを持てると思うか?」
「いや、えっと…その。」
口籠るヴィクトルを、トーマスと王妃は冷めた目で見つめた。アンネは無表情で事の成り行きを眺めている。
「それと、王妃になる為の教養を無駄にさせない為とも言ったが、その為だけに、愛していない男の傍で生涯を尽くせと思っているのではないな?」
国王の言葉にヴィクトルは気不味そうな顔をするも、苦し紛れのように言葉を出した。
「それは…で、ですが国の為には、感情よりも責務を優先するべき時もあるのではないかと…。」
「好きな女と結婚する為に、王家が認めた婚約を解消しようとしたお前が言うのかっ!!?」
国王の声が部屋中に響き渡った。その声の重さにヴィクトルは冷や汗を流しながら、呆然とした。
「テレーゼ公女をお前の側妃にする事が、何一つ公女の為になるとは思えぬ。」
「…。」
ヴィクトルは何も言えずに立ち尽くした。
お前が言うなっ! と書きながらも自分で思いました 笑
こんなに読んでくださる方がいるとは思ってなかったのでとても嬉しいです(*^^*) これからもよろしくお願いします!




