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迷宮喫茶はじめました ~退職して店を建てたら隣にダンジョンが発生したけど気にせず営業する~  作者: 結城 からく


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第99話 切り札はここぞという場面で

 ソグが白目を剥いてのたうち回っている。

 今や全身から枝が伸び放題だった。

 くぐもった絶叫は言葉になっておらず、その苦痛を主張するだけになっている。

 手放された剣は既に輝きを失っていた。


 自動回復の鎧は機能していない。

 効力を特殊弾に吸われているのだろう。

 ソグの肉体が完全に侵蝕されていないのは、やはり風の精霊の影響と思われる。

 風の刃が枝を切断してどうにか食い止めようと足掻いていた。


 もっとも、そういった行動も徒労に過ぎない。

 ソグからは濃厚な死の臭いが漂っていた。

 俺は淡々と告げる。


「粘るなよ。お前はもう手遅れだ」


 ソグは答えない。

 彼は枝の処理で必死だった。

 俺の言葉なんて聞こえていないだろう。


 肩をすくめた俺は跳躍し、半壊した天井に掴まった。

 その状態で、服のポケットに入れたスイッチを押し込む。


 床下で爆弾が炸裂して、一階の床が丸ごと崩落した。

 万が一に備えて仕込んでおいた罠だ。

 椅子や机や死体がまとめて落ちていく。

 もちろんソグも巻き込まれていた。

 崩落は連鎖的に発生し、地下一階の床も割れて規模が拡大する。


「こいつは派手にいったな。建て直し決定だ」


 天井からぶら下がりながらぼやく。

 具体的な再建については後で考えればいい。

 俺は土煙に覆われた地下を注視する。


 だんだんと冷気が吹き上がってくるのは、地下二階の保存庫が開放されたからだ。

 目を凝らすと、半ば樹木と同化したソグが横たわっているのが見えた。

 そこに人影が歩み寄る。


 堂々とした佇まいで立つのは辺境伯だった。

 蝙蝠状態の分体ではない。

 紛れもなく本体がそこにいる。


 実はソグが来る前に、辺境伯の拘束を解いておいたのだ。

 そして、保存庫の中で待機させていた。

 彼女が姿を見せると隣国勢力が警戒するため、未だに行動不能だと思わせる必要があったのである。

 最強の戦力である辺境伯を使わないのは面倒だったが、おかげで敵を一網打尽にできた。


 辺境伯を自由にさせることについては、何度も話し合いを行った。

 否定寄りの意見も多かったものの、結局は彼女の力が必要ということで今回の作戦に至った。

 これ以上、隣国の連中に好き勝手させないためにも、辺境伯の威光を復活させておかねばならない。

 彼女がまた暴走するようなら今度こそ殺すだけだ。

 その時は俺が責任を持とうと思う。

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