第77話 カオスという名の毒
アレックスが床に魔物の死骸を置き、ゴルドが手際よく装備を剥ぎ取る。
サズが養分を吸う死骸からも抜け目なく剥ぎ取り、それらを屋内訓練場へと運搬していった。
それに反応するのは、装備の新調を考えていた冒険者だ。
彼らは次々と席を立って訓練場に移動する。
「おっ、新商品か」
「見に行こうぜ」
「ゴルドさーん! また稽古付けてくれよー」
こういった光景もすっかり日常になった。
それだけ遺品売買の需要が高いのだ。
掘り出し物は多く、不要な装備はゴルドに買い取ってもらえる。
料金的にも他の店より安い品が多いため、懐事情が厳しい冒険者に人気だった。
ゴルドによる戦闘訓練も好評のようで、俺やメルが手伝う必要はなくなっていた。
空き時間が増えたのが地味にありがたい。
ゴルドがいなくなった後、アレックスはリターナと話し始めた。
リターナは真摯な態度で提案している。
「君に試してほしい薬があるのだけど、引き受けてくれるかな。別に怪しいものではないよ。健康になれる薬さ」
「僕でよければぜひ! リターナさんの力になりたいです!」
「ありがとう、助かるよ。冒険者の諸君には断られてばかりだったものでね」
アレックスは果たしてどうなっていくのか。
もはや取り返しが付かない状態まで進んでしまっている。
少し心配だが、わざわざ止めてやる義理もない。
おかげで他の人間の被害が減っている部分もあり、生贄として捧げるのが最も穏便なのだ。
幸いにもアレックス本人が満足そうなので、誰も損はしていない。
まあ、ようするに面倒で諦めたわけである。
貰ったばかりの薬を一気飲みするアレックスを横目に、辺境伯がノエルのそばに降り立った。
彼女はなぜか自慢げに羽を動かす。
「どうじゃ、ノエルよ。この店はすごいじゃろう」
「ええ、なんと言いますか……常軌を逸しています。報告よりも遥かに酷い」
ノエルは頭を抱えて呻く。
随分と疲労しているようだ。
目まぐるしく動く環境に寄ってしまったらしい。
俺は鍋の料理をよそってノエルに差し出す。
「大丈夫か。落ち着けよ」
「ありがとうございます……」
「クズ野菜とゴブリン肉のスープだ。とりあえず元気は出る」
「ま、満腹なので遠慮しておきます」
ノエルは顔を引き攣らせて断る。
すると、すかさずリターナが錠剤を差し出した。
「胃薬だ。飲みたまえ」
「……お気持ちだけいただきます」
ノエルはこれも拒否すると、そそくさと店から退散した。




