第76話 筋肉モンスター、夢のコラボレーション実現
魔物の死体をサズが回収していると、店の外から筋骨隆々な化け物が入ってきた。
見開かれた目は瞳が収縮し、びっくりしたような表情をしている。
ただ、穏やかに微笑んでいるようにも見えるのが奇妙だった。
身体にはあちこちが破れた布切れがへばり付いている。
原形を保っていないが、それはギルド職員の制服のようだ。
赤黒い染みは血で、他にも魔物の体液が付着して変色していた。
少し距離があっても異臭が漂ってくる。
化け物の両手は肉塊を抱えていた。
その正体は、おそらく元冒険者の魔物だ。
まだ痙攣しているので死んだばかりなのが分かる。
状況から考えると、外で暴れていた奴を始末したのだろう。
店の入り口に仁王立ちするその化け物は、ギルドマスターのアレックスだった。
ぎらついた威圧感は周囲を嫌でも注目させる。
筋肉の熱と共に発散される狂気がそれを助長していた。
化け物と判断しても差し支えがない風貌である。
そんなアレックスは元気に挨拶をした。
「こんにちは! リターナさんの安眠剤を買いに来ました! それと外で何匹か魔物を仕留めたので、よければどうぞ!」
ただの買い物と善意の差し入れだった。
それが判明した途端、店内の緊張感が緩んで安堵した空気となる。
先ほどの魔物より警戒されていたのは間違いない。
大股で歩いてくるアレックスは逞しく、最初に会った時の面影は消滅していた。
こいつなら万全な辺境伯とも殴り合えるのではないか。
そう思わせるだけの迫力を備えている。
俺はアレックスを見上げながら話しかける。
「またデカくなったか?」
「健康のために鍛えているおかげですかね! 最近はゴルドさんと一緒に迷宮に潜ることもあるんですよ! 色々と戦闘技術を教えていただいて助かっています!」
「へえ、意外な組み合わせだな」
噂をすれば、屋内訓練場からゴルドが現れた。
ゴルドはアレックスの肩を叩いて笑う。
「ギルドマスターとして相応しい男になりたいと仰るんで、少しばかりお手伝いしてやす」
「そりゃよかった」
仲が良いのは別に構わない。
しかし、ギルドマスターに相応しいかどうかで言えば、否と答える領域に入っているのではないか。
今のアレックスは冒険者を統率するどころか、討伐される側に片足を突っ込んでいると思う。
どうかこれ以上の悪化はやめてほしいものだ。




