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迷宮喫茶はじめました ~退職して店を建てたら隣にダンジョンが発生したけど気にせず営業する~  作者: 結城 からく


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第73話 人質救出劇

 店は廃墟のように荒れ果てているが、なぜか売り上げは伸びた。

 まだ地上一階しか営業していないので、地下も再開させればさらに儲けることができる。

 とは言え、すぐ下に辺境伯を閉じ込めている状況で客を招き入れるのは危ないのではないか。

 何かの拍子に酔っ払いが保存庫に迷い込み、封印を解除してしまうかもしれない。


 それを考えると、客が近付けない環境を保つのが妥当だろう。

 無理に地下一階でも営業を行う必要はない。

 従業員も新たに雇わないといけなくなるため、手間と収益が見合っていないような気もする。


 地下一階は別の用途に回すか。

 やりようはいくらでもある。

 客を入れない形でも稼ぎに繋げられるはずだ。

 たとえば料理に使う野菜の栽培でもいい。

 迷宮産の種は成長が速いそうなので悪くない案だと思う。


 今後の経営について考えていると、燕尾服を着た男が入店してきた。

 褐色肌の美男子で、紫色の目は仄暗さを帯びている。

 細身ながらもよく鍛えられた身体は、端々の動作から気品を漂わせてた。


 燕尾服の男は優雅に進んで話しかけてくる。


「こんにちは。辺境伯はこちらにいますでしょうか」


「何者だ」


「私は辺境伯の秘書をやっておりますノエルと申します」


 秘書ノエルは手本のような一礼を披露する。

 嫌味な感じがなく、それでいて芸術のように美しい。

 客の冒険者達も見惚れて言葉を失っていた。

 野次を飛ばす余裕もないようだ。


 天井にいた蝙蝠の辺境伯が舞い降りてきた。


「ノエルではないか。ワシを迎えに来たのか!」


 嬉しそうな辺境伯をよそに、ノエルは素知らぬ顔を貫いている。

 澄ましているが、どこか苛立ちを覚えているように見えた。

 ノエルは続けて深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にする。


「辺境伯がご迷惑をおかけしました。賠償金は支払いますので、彼女の身柄を譲っていただけないでしょうか」


「こいつは危険すぎる。解放すればまたやってくるはずだ。要求は呑めない」


「契約魔術で約束を交わしてもいいです。それでしたら逆らえないでしょう。今後一切、あなたに干渉しないことを誓わせることができます。抜け道ができないように双方で契約内容の確認も実施します」


「徹底しているな」


「それほどまでに辺境伯の存在は重要です。幽閉された状態ですと、様々な業務や他勢力との関係に支障が出ますので」


 ノエルは苦々しい表情で呟く。

 辺境伯は各地に多大な影響力を持つ人物だ。

 本来、幽閉されたままでいいような存在ではない。

 きっと俺が知らない分野でも活躍しているのだろう。

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