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迷宮喫茶はじめました ~退職して店を建てたら隣にダンジョンが発生したけど気にせず営業する~  作者: 結城 からく


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第69話 執念を挫く

 辺境伯に撃ち込んだ特殊弾とは、樹木の魔物サズの枝を内蔵したものだ。

 被弾者の魔力を養分に成長し、本来なら体内から樹木に突き破られて死ぬ仕組みである。

 今回は辺境伯の馬鹿げた身体機能が成長を阻害したせいで、万全な効果は発揮されていなかった。

 それでも動けなくなる程度の力はあるようで、無力化はしっかり成功している。


 特殊弾は脆く、純粋な破壊力は低い。

 魔弾化して体内に撃ち込むことを想定していたが、辺境伯は頑丈なので狙えるのが口内しかなかった。

 喉奥に連射して吐き出されないように工夫したものの、不確定要素が多かったのも事実である。

 しかし俺はそれらを乗り切ったのだった。


 辺境伯は顔を真っ赤にして、どうにか立ち上がろうとする。


「な、なんのこれしき……!」


「お前が気張るほど魔力が活性化して症状が悪化する。もう無理だ」


 サズの枝は力を奪うことに特化している。

 吸い取った養分でさらに強靭となり、内部からの侵蝕を加速させる。

 つまり絶大な力を持つ辺境伯は絶好の養分なのだ。


 再び崩れ落ちた辺境伯は、虚ろな目で俺を見つめてくる。

 耳から生えた枝から蔦が伸びて全身を覆い尽くそうとしていた。

 凄まじい執念だが、その力は自らを追い詰める一因となっていた。


「ワシはッ、お主を、夫に……!」


 やがて辺境伯は気絶した。

 巨躯が蔦に覆われて完全に見えなくなる。

 動き出す兆しは感じられず、魔力の活性化も起きそうにない。

 特殊弾に力を根こそぎ奪われたようだ。


 微かに呼吸音が聞こえるのでまだ死んでいない。

 サズの特性でも生命力をすべて吸い尽くせないらしい。


「大した根性だ」


 感心していると、店の外からメルが戻ってきた。

 傷だらけの彼女は片腕を庇って歩いている。


「店長、大丈夫ですか?」


「なんとかな。危うく死ぬところだった」


 床にへばり付いていた肉絨毯……もといリターナが起き上がった。

 あれだけ破壊されたというのに平然と復活している。

 その不死身ぶりには呆れるしかない。

 高速で再生する彼女は、少し億劫そうに肩をすくめる。


「やれやれ、重労働だったよ。冥府の門が見えてしまった」


「幻覚だから安心しろ」


 下らないやり取りの間に、大量の武器を背負うゴルドが現れた。

 彼は店内の様子を目にして戸惑う。


「ただいま戻りやした……って、すごい有様ですな。何がどうなったんです?」


「ちょうどいいところに来た。頼みたいことがある」


「へい、何でしょう」


「荷運びだ」


 俺は蔦で雁字搦めになった辺境伯を指差す。

 状況が分からないゴルドは、困ったように頭を掻いた。

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