第67話 究極最強脳筋マシーン
それなりの数の命が犠牲になった。
俺は手出しせずにただ眺めていたが、何も考えていなかったわけではない。
辺境伯を止める作戦を練っていたのだ。
正攻法では到底不可能なので、一歩離れた場所から戦いぶりを観察していた。
そうして付け入る隙を探っていた。
結論から述べると、辺境伯に弱点はない。
屈強な肉体は貫通力に長けた魔弾さえ弾き、刃物の類も通らない。
単純に頑丈なのではなく、体内から漏れ出した魔力が鎧になっているのだ。
同等以上の魔力が無ければ突破できない状態であった。
銃撃や斬撃の効きが悪い一方、リターナの絞め技は苦しがっていた。
窒息はあり得るものの、今も元気に暴れ回っている。
リターナ頼みでの勝利はあまり期待はできなさそうだ。
その頃には店が跡形も無くなっているだろう。
ほぼ完璧な防御面に加えて、攻撃面も絶大だった。
人間をいとも簡単に挽き肉に変ええる腕力は、とても身体強化で耐えられる威力ではない。
格闘技能は拙いものの、それは必要がないだけだろう。
圧倒的な身体能力が、それだけで他の追随を許さない武器になっている。
辺境伯の場合は防具としての一面も兼ねていた。
単純明快だからこそ弱点がない。
(ゴルドがいたら、魔物肉を食わせてぶつけるんだがな)
あいつは遺品補充のために迷宮へ行っている。
帰還は明日以降になるはずだ。
肝心な時に不在であることに愚痴りたくなるが、ゴルドがいたところで辺境伯は止められない。
時間稼ぎが精々で、結局は余計な被害が増えるだけである。
辺境伯と戦わずに済んだのは、本人的には幸運と言える。
「…………」
俺は厨房裏の倉庫に注目する。
辺境伯とリターナの攻防に巻き込まれなかったので無事だった。
あそこには強力な武器を保管している。
突発的な殺し合いが日常のため、様々な用途に応じて用意している。
ここで使うなら連射銃だろう。
しかし、おそらく辺境伯を殺すには至らない。
正面からぶち込んでも弾かれるのが目に見えていた。
純粋な火力で対抗するのは間違えている。
つまりここで取るべき選択は搦め手であった。
俺は拳銃を見つめて、それから倉庫に視線を移す。
作戦がようやく定まってきた。
「……試す価値はありそうだ」
その時、辺境伯がついにリターナの首絞めから抜け出した。
床に投げ捨てられたリターナは、血肉の滴る雑巾のようになっている。
再生するたびに辺境伯が拳を叩き込んで念入りに破壊していた。
さすがに泥沼の攻防はもう懲り懲りらしい。
猶予は残り僅かだ。
ここでどうにか決めねばならない。
俺は梁から飛び降りると、静かに倉庫の扉を開いた。




