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迷宮喫茶はじめました ~退職して店を建てたら隣にダンジョンが発生したけど気にせず営業する~  作者: 結城 からく


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第66話 大胆リフォーム

 俺は天井の梁に乗って戦況を見下ろす。

 辺境伯がリターナに首を絞められて暴れ回っている。

 頑丈な辺境伯でも気道を塞がれるのは苦痛なのか、険しい顔をして抵抗している。

 立ち上がって厨房に体当たりをかますも、リターナは一向に離れようとしない。

 ズタボロの肉体を総動員して絞め技を強行していた。

 手足を辺境伯に引き千切られても、すぐさま再生するので決して振り落とされない。


(滅茶苦茶だな……)


 俺が呆れている間に、辺境伯が壁に背中を押し付けて駆け出した。

 しがみつくリターナを擦り潰すつもりらしい。


 改築したばかりの壁が笑ってしまう勢いで破壊されていく。

 いくつかの柱がへし折られたせいで、建物全体が嫌な軋み音を立て始めた。

 サズの枝が補強しなければ倒壊しそうだった。


 辺境伯は執拗に激突を繰り返し、壁の穴を増やしていった。

 店の内外を豪快に行き来することで、どうにかリターナを剥がそうとしている。


 リターナは原形を失った肉絨毯のようになっているが、手足が辺境伯の首に巻き付いていた。

 よく見ると腸も使われている。

 何が何でも絞め落とすつもりらしい。

 いくら不死身でもやり過ぎだった。


 周囲には巻き込まれた冒険者の肉塊が散乱している。

 辺境伯に轢かれて即死したのだ。

 止めようとする無謀な奴もいたが、あまりにも力不足であろう。


 残る冒険者達は、壁の穴から逃げ出していく。

 もはや手に負えないと確信したのだ。

 呑気に傍観できる環境でもなく、逃げ遅れた者から辺境伯に殺されている。

 長居したいと思う者などいるはずがなかった。


 やがて地下に続く階段から、従業員として働く第三騎士団の面々がやってきた。

 一連の騒ぎを聞き付けたのだろう。

 既に武装した彼らは、陣形を組みながら周囲を見て唖然とする。    

 まさかここまで破壊し尽くされているとは思わなかったようだ。 


 次の瞬間、動揺する騎士達に辺境伯の突進が炸裂した。

 血肉と金属鎧が潰れて一体化して宙を舞う。

 咄嗟に振り下ろされた鉄剣も、悲鳴と共に放たれた銃弾も、全力で撃ち込まれた魔術も辺境伯には通用しなかった。


 せっかく雇った騎士があっけなく全滅してしまった。

 これには団長のダウスも頭を抱えそうだ。

 ひょっとすると俺の責任となって賠償金を払わなければいけないのだろうか。

 どうにか弁明を……たとえば辺境伯が原因だと伝えたら、どうにか誤魔化せるかもしれない。

 何にしても店の損害は甚大だ。

 さっさと辺境伯を止めて請求する必要があった。

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